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大規模プラットフォーム事業者の削除措置に対する手続保障に関する質問主意書
経過状況:答弁受理
令和六年五月十七日、いわゆるプロバイダ責任制限法の改正法が公布され、法律の名称も特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(情報流通プラットフォーム対処法。以下、単に「改正法」という。)と改められた。この法改正によって大規模プラットフォーム事業者(以下、単に「事業者」という。)に対し、他人の権利を侵害し、または法令に違反する情報の削除申出窓口や手続の整備公表、削除基準の選定・公表、発信者への通知などが義務付けられた。また、令和七年三月十一日付で総務省がガイドラインを定め、右記の情報が例示された。
しかし、問題の本質は、事業者による削除措置の当否を争う手続が整備されていない点にあると考える。
改正法は、削除申出への対応を事業者の自主判断に委ねており、その判断に不服がある者は、事業者に異議を申し立てるか、民事訴訟等を提起する以外に救済手段がないと考える。
現代において、大規模なSNSや動画配信サイトによる情報の伝播力や影響力は増大しており、特定の個人や団体等の名誉を毀損したり、誹謗中傷する投稿が、国民に精神的苦痛をもたらし、時には死に追いやることさえある。こうした投稿を発見し、事業者に削除を依頼しても、名誉毀損や誹謗中傷に当たらないと判断され、削除されずに放置される事例が相次いでいる。
他方、大規模なSNS等は国民にとって情報発信の重要な手段の一つであり、事業者の判断による恣意的な投稿の削除が横行すれば、言論や表現の自由が事実上制約されるおそれがある。例えば、新型コロナワクチン接種のリスクを伝える投稿が、動画配信事業者によって一律に「偽情報」と判断され、削除されるケースが相次いでおり、特定のテーマに関する言論や表現の機会が制限される事態が生じていると考える。
また、この改正法は、事業者がガイドラインの基準を上回る削除基準を設けることを事実上容認しており、事業者の恣意的な措置を規制する仕組みが不十分であると考える。
このように、改正法の問題は、?事業者の削除措置に対し、投稿者がその不当性を争い、第三者が裁定する簡便な手続が何ら保障されていないこと、?事業者の削除基準が政府によって事実上追認され、事業者の恣意的な措置を規制する仕組みが乏しいことにあり、この背景には、政府が大規模なSNSや動画配信サイトによる不当な削除措置の実態を正しく認識していない可能性が考えられる。
以上をふまえ、次のとおり質問する。
質問1
大規模プラットフォームの利用者が、自らの投稿に対する事業者の削除措置について、事業者の判断が誤っている、または事業者の削除基準自体が不当であると考えた場合、改正法はどのような対処を想定しているか。
回答(質問1 について)
お尋ねの趣旨が必ずしも明らかでないが、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律(令和六年法律第二十五号)による改正後の特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(平成十三年法律第百三十七号。以下「法」という。)は、大規模特定電気通信役務提供者(法第二条第十四号に規定する大規模特定電気通信役務提供者をいう。以下同じ。)が自ら定め、公表している基準(以下「実施基準」という。)に従って送信防止措置(同条第九号に規定する送信防止措置をいう。以下同じ。)を講じた場合において、当該送信防止措置により送信を防止された情報の発信者(同条第五号に規定する発信者をいう。以下同じ。)が、当該送信防止措置に係る当該大規模特定電気通信役務提供者の判断を誤っていると考えた場合や、当該実施基準自体を不当であると考えた場合の対処については、特段の規定を置いていない。このため、当該発信者は、そのような場合には、当該大規模特定電気通信役務提供者に対して自ら異議を述べることや、必要に応じて、当該大規模特定電気通信役務提供者に対して自ら民事訴訟を提起することになると想定される。
質問2
事業者の削除措置に対し、政府が行政処分や勧告、行政命令を発する権限を有するか。有する場合、利用者は、どの窓口を通じ、どのような手続で対応を求めることができるかを明らかにした上で、そのための手続規定やガイドラインは整備されているかを示されたい。
回答(質問2 について)
お尋ねの趣旨が必ずしも明らかでないが、お尋ねの「事業者の削除措置に対し、政府が行政処分や勧告、行政命令を発する権限」が、大規模特定電気通信役務提供者が実施基準に従って送信防止措置を講じた場合において、当該実施基準や当該送信防止措置の適否を政府が判断し、不適当と認めた場合に命令その他の行政処分を行う権限のことを意味するのであれば、法において、政府はそのような権限を有していない。
質問3
事業者による削除措置の適否、削除基準の該当性、その判断の正当性及び事業者が定めた削除基準の妥当性について、調査・審査する組織や専門家等の人員を政府は設けているか。
回答(質問3 について)
お尋ねの「事業者による削除措置の適否、削除基準の該当性、その判断の正当性及び事業者が定めた削除基準の妥当性」の意味するところが必ずしも明らかでないが、政府としては、大規模特定電気通信役務提供者がいかなる場合に送信防止措置を講ずべきかは、個別の事案に応じて当該大規模特定電気通信役務提供者が自ら判断すべき事柄であると考えている。このため、政府は、大規模特定電気通信役務提供者が実施基準に従って送信防止措置を講じた場合における当該実施基準や当該送信防止措置の適否について、「調査・審査する組織や専門家等の人員」を設けていない。
質問4
事業者の削除措置に対し、利用者や投稿者がその削除する・しないの判断の不当性を争い、第三者が裁定する簡便な裁判外手続を設けることについて、政府はどのように考えるか。設置の必要性についての認識や具体的な検討状況を示されたい。
回答(質問4 について)
お尋ねの「事業者の削除措置に対し、利用者や投稿者がその削除する・しないの判断の不当性を争い、第三者が裁定する簡便な裁判外手続を設けること」の意味するところが必ずしも明らかでないが、大規模特定電気通信役務提供者が講ずる送信防止措置に関する裁判外紛争解決手続を法的に整備することについては、総務省の有識者会議である「プラットフォームサービスに関する研究会」の第三次とりまとめ(令和六年一月)において、「裁判外紛争解決手続(ADR)については、憲法上保障される裁判を受ける権利との関係や、裁判所以外の判断には従わない事業者も存在することも踏まえれば、実効性や有効性が乏しいこと等から、ADRを法的に整備することについては、慎重であるべきである。」と整理されたところである。このため、政府としても、大規模特定電気通信役務提供者が講ずる送信防止措置に関する裁判外紛争解決手続を法的に整備することについては、現時点においては、慎重であるべきと考えている。
質問5
事業者による不当な削除基準の設定や、不当な削除措置がとられている実態について、政府として調査を行ったことはあるか。行ったのであれば、その調査内容を明らかにされたい。行っていないのであれば今後そのような調査を行うことを予定しているか。
回答(質問5 について)
お尋ねの「事業者による不当な削除基準の設定や、不当な削除措置がとられている実態」の意味するところが必ずしも明らかでないが、政府としては、大規模特定電気通信役務提供者がいかなる場合に送信防止措置を講ずべきかは、個別の事案に応じて当該大規模特定電気通信役務提供者が自ら判断すべき事柄であると考えている。このため、政府において、大規模特定電気通信役務提供者(大規模特定電気通信役務提供者として指定されることが見込まれる者を含む。)が実施基準に従って送信防止措置を講じた場合における当該実施基準や当該送信防止措置の適否について調査を行ったことはなく、今後も、そのような調査を行う予定はない。