分かりやすい衆議院・参議院

TOP > 質問主意書・答弁書 > 八幡愛:徒弟制度の存続と職人...

徒弟制度の存続と職人文化の継承についてフリーランス新法適用の明確化に関する質問主意書

経過状況:

答弁受理

提出者 八幡愛
会派 れいわ新選組
公式リンク 第217回国会 / 質問答弁

日本には古くから、職人が弟子を育成するために徒弟制度が存在し、技術の継承を目的とするこの仕組みは、伝統産業のみならず、漫画やアニメなどの創作分野にも広がっている。徒弟制度においては、師匠が無償で指導を行い、弟子が実務を通じて技術を習得する形が一般的であり、単なる業務委託や労働契約とは異なる文化的・社会的役割を果たしていると考える。

令和六年に施行された特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス新法」という。)は、フリーランス(特定受託事業者)を保護し、発注者(業務委託事業者)との取引を適正化する目的で制定された。本法により、フリーランスの取引環境が改善されることは評価されるが、一方で、徒弟制度の存続や技能継承への影響が懸念されると考える。

特に、徒弟制度が運用される現場では、フリーランス新法の適用関係が分かりにくく、誤った認識による混乱が生じる可能性がある。例えば、以下のような事例では、フリーランス新法が適用されるか否かの判断が容易でないことが問題となると考える。

第一に、師匠が小規模企業の社員であり、副業として個人で受注した仕事の中で弟子を指導しているケースである。師匠が企業の正社員でありながら、副業として個人事業主として活動し、弟子を指導している場合、師匠は「業務委託事業者」に該当する可能性がある。しかし、実際の現場では、師匠がフリーランス新法の適用対象であるかどうかを判断することが難しく、無意識のうちに法律違反に該当するような取引を行うリスクがあると考える。

第二に、漫画家がアシスタント(弟子)を業務委託契約で指導するケースである。フリーランスの漫画家がアシスタントに業務を委託しつつ、技術指導を行う場合、漫画家が「業務委託事業者」に該当するかどうかによって、フリーランス新法の適用範囲が変わる。しかし、アシスタントとの関係が単なる業務委託ではなく、技能継承の側面を持つ場合、フリーランス新法が想定する商業契約の枠組みと実態が異なるため、適用基準が曖昧になる可能性があると考える。

第三に、いわゆる一人社長として活動するアニメーターが弟子を指導するケースである。アニメ業界では、一人社長として法人を設立し活動するケースが多い。一人社長は「特定受託事業者」となるが、弟子も個人事業主である場合、両者はフリーランス新法の適用対象外となる。しかし、実態としては、一人社長のアニメーターが弟子を指導しながら業務を発注することが一般的であり、指導の範囲と業務委託の境界が不明瞭となることが懸念されると考える。

第四に、法人化していない個人事業主が、法人化していない個人事業主を指導するケースである。フリーランス新法は法人が発注者となる場合に適用されるため、法人化していない個人事業主同士の取引は原則として適用対象外である。しかしながら、職人業界やクリエイティブ業界においては、法人化していない個人事業主同士の契約であっても、実態として師匠と弟子の関係に近い形で指導が行われる場合があると考える。特に、報酬が技能習得を前提として低額に設定される場合、本法の理念と矛盾するとの指摘がなされる可能性もある。

これらの四つのケースでは、フリーランス新法が適用されるか否かの判断が徒弟制度が運用される現場で容易でないことが問題となる。特に、個人事業主同士の取引では、法適用の範囲を誤認し、契約内容に混乱が生じる可能性があるため、政府の明確な基準の提示が求められると考える。

以上のような認識のもと、以下質問する。

質問1

フリーランス新法の適用基準と徒弟制度の整合性について

1 右記の四つの事例において、フリーランス新法が適用される基準について、政府の見解を問う。

2 フリーランス新法の適用について、個人事業主同士の契約における混乱を防ぐために、政府はどのような啓発・指導を行っているか。また、法適用の範囲の誤認を防ぐためのガイドラインや支援策を検討しているか。

3 徒弟制度においては、技能習得の過程で報酬が低額となることが多いが、これがフリーランス新法の定める「適正な取引」と整合するのかについて、政府の見解を問う。

回答(質問1 の1及び2について)

 お尋ねの事例において特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号。以下「法」という。)の規定が適用されるか否かについては、業務委託事業者(法第二条第五項に規定する業務委託事業者をいう。)又は特定業務委託事業者(同条第六項に規定する特定業務委託事業者をいう。以下同じ。)に該当するか否か等を、個別に勘案して判断していくこととなるため、一概にお答えすることは困難であるが、法に規定する要件を満たす場合には、法による規制の対象となるものと考えている。また、法の解釈の明確化を図る観点から、令和六年五月三十一日に公正取引委員会及び厚生労働省が作成した「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」や「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)Q&A」を公正取引委員会のホームページ等において公表するとともに、相談窓口の設置や事業者に対する説明会の開催等を通じて、周知を行っているところである。政府としては、引き続き幅広い周知に努めてまいりたい。

回答(質問1 の3について)

 御指摘のような「徒弟制度においては、技能習得の過程で報酬が低額となる」という事例については個別具体的には把握していないが、一般論として申し上げれば、特定業務委託事業者は、特定受託事業者(法第二条第一項に規定する特定受託事業者をいう。以下同じ。)に対し業務委託(法第五条第一項に規定する業務委託をいう。)をした場合であって、特定受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めたときは、同項の規定に違反することとなる。

質問2

徒弟制度の文化的・社会的意義の考慮について

1 フリーランス新法の運用に当たり、徒弟制度が持つ文化的・社会的意義を考慮する余地があるとすれば、どのような形で法律に反映できると考えるか、政府の見解を問う。

2 徒弟制度において、技能継承を目的とした取引に関する特例措置や支援策を検討する必要があると考えるか、政府の見解を問う。

回答(質問2 の1について)

 御指摘の「徒弟制度が持つ文化的・社会的意義」の意味するところが明らかではないが、法は、特定の業種に着目したものではなく、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備するため、特定受託事業者に係る取引の適正化を図ること等を目的としたものである。

回答(質問2 の2について)

 御指摘の「徒弟制度」における「技能継承を目的とした取引」の意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難である。

質問3

国際比較と徒弟制度の維持に向けた施策について

1 欧米諸国では、技能労働者の育成を目的とした「アプレンティスシップ」制度が存在するが、日本の徒弟制度と比較した際の相違点について、政府の認識を示されたい。

2 諸外国では、伝統的な技能継承を維持するために、政府が法的な枠組みを調整している事例があるか政府の把握しているところを示されたい。ある場合、日本の政策にどのように活かすことが可能か、政府の把握しているところを示されたい。

回答(質問3 の1について)

 御指摘の「日本の徒弟制度」の意味するところが明らかではなく、また、「欧米諸国」の「「アプレンティスシップ」制度」は各国ごとに異なるため、お答えすることは困難であるが、我が国において、技能労働者の知識と技能の習得を図るための施策として、例えば、事業主がその雇用する労働者を対象に、企業内において実施する実習と教育訓練機関等で実施する座学等を組み合わせた実習併用職業訓練等を実施しているところである。

回答(質問3 の2について)

 御指摘の「伝統的な技能継承」の意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難である。