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仮装身分捜査に関する質問主意書

経過状況:

答弁受理

提出者 藤原規眞
会派 立憲民主党
公式リンク 第217回国会 / 質問答弁

いわゆる仮装身分捜査とは、捜査官が犯罪の実行者の募集に応じて犯人に接触する際、架空の運転免許証や住民票等(仮装身分表示文書等)を提示して行う捜査活動のことである。

警察庁は、本年一月二十三日、仮装身分捜査実施要領を策定し、全国の都道府県警察本部長に通達し、その実施要領において、対象となる犯罪を、インターネット等を通じて実行者の募集が行われていると認められる強盗、詐欺、窃盗、電子計算機使用詐欺等とし、「他の方法では犯人を検挙し、犯行を抑止することが困難と認められる場合に、相当と認められる限度において実施する」としている。

仮装身分捜査は、警視総監や道府県警察本部長の指揮の下、あらかじめその承認を受けた仮装身分捜査実施計画書に基づいて実施される。同計画書には「仮装身分捜査を実施することが必要かつ相当であると認める事由」、「実施所属及び従事体制」、「捜査を行う期間」等を記載するとされ、捜査の必要性と手段の相当性の担保に言及しており、警察庁によると、日本において仮装身分捜査が導入された場合に有効と考えられる点として、暴力団のように秘密保持が徹底され、又は活動を潜在化させているような犯罪組織の実態解明や、組織外部の人間では把握・獲得が困難な組織の核心に迫る犯罪情報や物的証拠の入手に資すること、暴力団員等の捜査対象者が捜査官やその家族に危害を加える危険を回避できることなどの効果を指摘している。

一方で、本年二月一日付の毎日新聞社説の記述にみられるように、仮装身分捜査の乱用を危惧する向きもある。これに対し、警察庁は「正当な業務による行為は、罰しない」とする刑法第三十五条の規定を根拠に、正当な業務のために身分証を偽造することが、公文書偽造に当たるも違法性が阻却され、違法にはならないとしている。

さらに、本年四月一日の衆議院法務委員会において、政府参考人は、仮装身分捜査の根拠を、刑事訴訟法第百九十七条第一項(任意捜査)に基づくと述べた。しかし、同項ただし書では「強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない」と定めており、強制処分を行う場合はあらかじめ裁判官が発付する令状が必要となる。仮装身分捜査を、すべて任意捜査と捉えることには違和感を覚える。

しかし、これでは、捜査活動の一環であれば何をしてもいいという解釈がなされかねず、令状に基づかない捜査を警察内部のルールのみで運用されることに懸念が残ると考える。捜査の対象が、市民活動等の監視にも及び、運用時の適用範囲が拡大解釈されるリスクが想定されるからだ。何より、警察の廉潔性の問題を危惧する。警察官が人を騙すということを業務として行うことで、適法な捜査に対する国民の信頼が揺らぐ可能性が指摘される。仮装身分捜査を令状主義の例外と位置付けるならば、少なくとも裁判所によるスクリーニング、いわゆる司法によるコントロールが不可欠ではなかろうかと考える。理由は、憲法第三十三条が逮捕について「権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状」を要求していること、さらに、同第三十五条第一項では「侵入、捜索及び押収」について「正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状」であって、また同条第二項では「権限を有する司法官憲が発する各別の令状」を要求しており、それぞれ令状主義を宣言しているからである。

以上を踏まえて質問する。

質問1

仮装身分捜査は、いつから実施されているのか。

回答(質問1 について)

 お尋ねについては、捜査機関の活動内容に関わる事柄であり、これを明らかにすることにより、今後の捜査活動(捜査の端緒を得る活動を含む。以下同じ。)に支障をもたらすおそれがあることから、お答えすることは差し控えたい。いずれにせよ、警察庁においては、都道府県警察に対し、「仮装身分捜査実施要領の制定について(通達)」(令和七年一月二十三日付け警察庁丙刑企発第一号警察庁刑事局長通達。以下「通達」という。)を発出し、捜査員が犯罪の実行者の募集に応じ、当該募集に係る関係者と接触した際に、架空の本人確認書類等を使用する手法を用いた捜査活動(以下「仮装身分捜査」という。)を実施するに当たっては、通達に基づき適正に実施するよう指示したところであり、都道府県警察において、必要な取組が進められていると承知している。

質問2

仮装身分捜査の実施計画書は、捜査を指揮する本部長等の事前承認が必要とされているが、現時点では、令状主義に基づく司法のコントロールすら想定されていないと考える。仮装身分捜査を令状主義の例外と位置付けるとしたら、裁判所のスクリーニング等、司法によるコントロールが最低限必要と考えるが、政府の見解を伺いたい。

回答(質問2 及び質問3 について)

 御指摘の「令状主義の例外」及び「裁判所のスクリーニング等、司法によるコントロール」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第百九十七条第一項ただし書にいう「強制の処分」については、昭和五十一年三月十六日最高裁判所第三小法廷決定において「個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味するもの」と示されているところ、通達に基づき実施する仮装身分捜査については、「個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する」ものではないことから、「強制の処分」に当たるとは考えておらず、現行法下においても令状によらず実施することが可能な捜査活動であると解されることから、新たな立法措置は必要ないと考えている。

質問3

仮装身分捜査の適法性の根拠を、刑事訴訟法第百九十七条第一項にのみ求めることにつき得心し難いと考える。理由は、捜査の緊急性、適法性、捜査手段として客観的に認められるか等の議論が醸成されていないからである。仮装身分捜査を行うに当たり、立法によって強制力行使の対象や範囲を明確に定めるべきと考えるが、熟議を重んじる政府としては、今後の立法化を念頭に置いているのか。

回答(質問2 及び質問3 について)

 御指摘の「令状主義の例外」及び「裁判所のスクリーニング等、司法によるコントロール」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第百九十七条第一項ただし書にいう「強制の処分」については、昭和五十一年三月十六日最高裁判所第三小法廷決定において「個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味するもの」と示されているところ、通達に基づき実施する仮装身分捜査については、「個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する」ものではないことから、「強制の処分」に当たるとは考えておらず、現行法下においても令状によらず実施することが可能な捜査活動であると解されることから、新たな立法措置は必要ないと考えている。

質問4

廉潔性の問題、すなわち警察官が人を騙すということを公的業務として行うことで、適法な捜査に対する国民の信頼が揺らぐ可能性を、政府は念頭に置いているか。

回答(質問4 について)

 御指摘の「廉潔性の問題」及び「警察官が人を騙すということ」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、いずれにせよ、警察に対する国民の信頼を揺るがすことはあってはならないと考えており、都道府県警察において、通達に基づき仮装身分捜査が適正に実施されることが重要であると考えている。

質問5

仮装身分捜査に携わる捜査官は、捜査期間中、親兄弟や友人等との接触を断たれ、公私共に別人格の人間として生活しなければならない。このことは、選任された捜査官に、過度な心理的負担を負わせることは想像に難くないと考える。

1 どういう人物を捜査官として選任するのか。その基準を示されたい。

2 選任された捜査官が仮装身分捜査に従事する期間はどの程度を想定しているのか。

3 選任された捜査官のメンタル等のケアは念頭に置いているか。

回答(質問5 の1及び2について)

 仮装身分捜査については、御指摘の「捜査期間中、親兄弟や友人等との接触を断たれ、公私共に別人格の人間として生活しなければならない」こととなるような手法を用いて実施することは想定していないところであるが、いずれにせよ、仮装身分捜査に従事する捜査員の人選及びその従事する期間については、個別具体的な事情により判断されるため、一概にお答えすることは困難である。

回答(質問5 の3について)

 五の1及び2についてで述べたとおり、仮装身分捜査については、御指摘の「捜査期間中、親兄弟や友人等との接触を断たれ、公私共に別人格の人間として生活しなければならない」こととなるような手法を用いて実施することは想定していないところであり、それを前提としたお尋ねについてお答えすることは困難である。

質問6

仮装身分捜査が行われると、いわゆる闇バイト等の犯罪勧誘が、過去の例のごとく、一般求人に紛れるなど巧妙化することが想定される。つまり、注意していても青少年が騙されやすくなる可能性が指摘されると考える。仮装身分捜査による犯罪勧誘の巧妙化につき、政府は想定しているか。想定しているならば、対策を示されたい。

回答(質問6 について)

 御指摘の「過去の例の如く、一般求人に紛れるなど巧妙化すること」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、仮装身分捜査の実施と犯罪の実行者の募集内容の変化との間に必ずしも因果関係が認められるとは考えていない。