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抗原原罪に関する質問主意書
経過状況:答弁受理
抗原原罪は、主にインフルエンザの感染において観察されている現象である。インフルエンザウイルスと同様に、新型コロナウイルスにおいても、漸進的に感染に関与するスパイクタンパク質が突然変異により変化していくため、抗原原罪と呼ばれる現象が起きることが既に示されている。例えば、一度インフルエンザに感染した人がその時のインフルエンザ株の持っていたエピトープ(抗体により抗原として認識される部位)以外のエピトープに対し、その免疫原性にかかわらず反応できなくなっている現象のことである。この現象は、二次反応におけるナイーブリンパ球(抗原による刺激をまだ受けていない幼若なリンパ球)と記憶リンパ球との相互作用によって説明される。免疫系の正常な働きによって抗体やエフェクターT細胞が獲得されると、それらは同じ抗原に対して反応するナイーブリンパ球が活性化されるのを抑制する。これは抗原にさらされていない個体に特異抗体やエフェクターT細胞を移入することで観察される。既に免疫されている個体に特異抗原を投与してもナイーブB細胞は反応を示さないが、他の抗原には正常に反応する。B細胞上の抗原レセプター(IgM抗体)が抗原抗体複合体を介してFcγR?のイソフォーム(FcγR?b)と架橋することでナイーブB細胞の活性化が抑制されるためであると考えられている。FcγR?bはB細胞のみに発現し、細胞内領域に食菌作用を抑制する配列をもつ。架橋によってB細胞抗原レセプターの活性化が抑制されるが、メモリーB細胞の反応は抑制されない。 類似した現象はT細胞、とりわけTc細胞にて観察される。同系マウスに感作T細胞を移入するとその抗原に対する特異的T細胞の活性化が抑制されるが、これはメモリーT細胞(CD8+)が迅速に活性化され細胞障害性を再獲得し、ナイーブT細胞(CD8+)を活性化するのに必要な抗原提示細胞を殺してしまうためであると考えられている。右記のように、以前に感染したインフルエンザ株(A株とする)と一部同様のエピトープを持つインフルエンザ株(B株)に感染したとき、A、B共通のエピトープに対する抗体は迅速に産生されるものの、Bには存在するがAには存在しないエピトープに対する抗体は対応するナイーブB細胞が抑制されるので、産生される抗体の量が著しく低くなる現象が見られる。Aと同じエピトープを持たない株(C株)に感染したときはこのような現象は見られない。新型コロナウイルスにおいても、以上のような抗原原罪が成立していることはXBB対応型mRNAワクチンを用いて行われたファイザー社発表の実験結果から既に明らかになっている(82nd meeting of VRBAC, June 15,2023)。
この実験はマウスを用いて行われたものである。いわゆる武漢型mRNAワクチンを二回接種後、最初の接種から百五日後にオミクロン対応型二価ワクチンを接種し、さらにその二十九日後にXBB対応型ワクチンを接種したという実験の結果において最終接種の十六日後における抗体の中和活性を調べたものである。
武漢型スパイクタンパク質に対する中和抗体値が十万百八であったのに対して、XBB.一.五変異型のスパイクタンパク質に対する中和活性はわずか千八百であった。抗原原罪が成立していないのであれば、XBB.一.五変異型のスパイクタンパク質に対する中和抗体価は、武漢型の起源株スパイクタンパク質に対する中和抗体と同様に誘導されなければならない。実際には十万に対して三千程度であり、この結果から抗原原罪が明確に観察されていることが明らかであると考える。これらを踏まえ、以下質問する。
質問1
右記データ以外の論文(Published December 21, 2022 N Engl J Med 2023;388:183-185)においても新型コロナウイルスのスパイクタンパク質で免疫した場合、抗原原罪が起きていることは示されている。XBB対応型ワクチンの段階で抗原原罪は明確に観察されており、新型コロナウイルスの変異が増えれば増えるほどワクチン接種で誘導される抗体の中和活性が低下していくことは明らかであると考える。このように追加接種の効果は極めて限定的であり、mRNAワクチン接種によって、多数の死亡者が報告されている状況を考えるとデメリットがメリットを大幅に上回っているとするのが妥当であると考える。このようなデータがあるにもかかわらず、政府が新型コロナワクチン接種を続けている理由、さらには定期接種を行っていく理由を示されたい。
回答(質問1 及び質問3 について)
御指摘のように「新型コロナウイルスにおいても、・・・抗原原罪と呼ばれる現象が起きる」との指摘があることは承知しているが、御指摘の「mRNAワクチン」を含む新型コロナウイルス感染症に係る予防接種(以下「新型コロナ予防接種」という。)に使用するワクチン(以下「新型コロナワクチン」という。)について、お尋ねの「この抗原による中和抗体の誘導に関する実験結果」に関しては、例えば、ファイザー社及びモデルナ社の新型コロナワクチンについて、令和五年七月三十一日に開催された薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会において、「新変異株に対するワクチンの薬事審査における評価方針」について、「国際的な評価の考え方と、これまでの臨床試験成績や使用実績を踏まえると、・・・品質において問題がないこと、非臨床試験でオミクロン株(XBB.一.五系統を含む)に対して中和抗体価が充分に上昇していることを確認すること・・・により、承認して差し支えないかどうかの判断をすること」が確認されたことを踏まえ、「新型コロナウイルスワクチンの株の変更に関する取扱い等について(通知)」(令和六年五月二十三日付け医薬薬審発〇五二三第一号・医薬監麻発〇五二三第三号厚生労働省医薬局医薬品審査管理課長及び監視指導・麻薬対策課長連名通知)により、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号。以下「医薬品医療機器等法」という。)第十四条第十五項の規定による承認事項の一部変更承認(以下単に「承認」という。)を行うに当たり、「抗原株の免疫学的特性に関する資料(例:ワクチンの非臨床試験における免疫原性のデータ等)」等の提出を求めることとしたところ、令和六年五月二十九日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会において、ファイザー社及びモデルナ社による「ワクチン既接種マウスで、JN.一変異株対応ワクチンはXBB.一.五変異株対応ワクチンと比較して、JN.一系統株に対してより高い中和応答を誘導した」等の報告についての確認も行われた上で、独立行政法人医薬品医療機器総合機構におけるファイザー社及びモデルナ社から提出された当該報告の内容を含む資料等に基づく審査を経て、承認を行っている。
また、当該承認をされた新型コロナワクチンについては、同年九月十九日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会において、国内外の科学的知見に基づき審議を行い、予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号)第五条第一項の規定による定期の予防接種(以下「定期接種」という。)において、令和六年度に使用する新型コロナワクチンとすることとしたところである。
さらに、新型コロナワクチンの安全性については、新型コロナ予防接種を受けたことによるものと疑われる症状について、同法第十二条第一項の規定により、医師等から厚生労働大臣に報告されているほか、医薬品医療機器等法第六十八条の十第一項及び第二項の規定により、新型コロナワクチンの製造販売業者等から同大臣に報告されているところ、新型コロナ予防接種の開始以降、これらの制度により収集した情報等に基づき、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会及び薬事審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(以下「合同部会」という。)において継続的に評価を行うこととしており、直近では令和七年一月二十四日の合同部会において、これらの制度により収集した死亡事例も含め、「新型コロナワクチンの副反応疑い報告状況について」等が議論され、「ワクチンの安全性に係る重大な懸念は認められない」及び「十月からの新型コロナワクチンの定期接種について、・・・現時点では引き続き、ワクチンの安全性等に関する国内外の情報を収集しつつ、ワクチンの接種を継続すること」と評価されている。
これらを踏まえ、新型コロナワクチンの接種を継続し、また、定期接種としても行っているところである。
質問2
厚生労働大臣が任命している厚生科学審議会や薬事審議会等の委員による新型コロナワクチンに関する審議(右記審議会に置かれた分科会や部会を含む。)の過程で抗原原罪という現象の存在が議題に上ったかについて示された上で、どのような審議が行われたかについて説明されたい。
回答(質問2 について)
御指摘の「抗原原罪という現象」については、例えば、令和四年三月二十四日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会において、資料一で示した「mRNAワクチン三回目接種の免疫原性について」及び「mRNAワクチン四回目接種の免疫原性について」の検討の一環として、議論が行われており、委員等からは、「免疫原罪と呼ばれる現象は、コロナにおいてこれまで確認されたという現象というよりは、一般的な学説として、今あり得る現象ということで幾つかレビュー等で、そのような仮説が提唱されているような状況というのが、現在の認識」であること、「抗原原罪は、恐らく、インフルエンザワクチンで以前からいろいろなところでお話が出ていることかと思いますが、自分の理解としては、スプリットワクチンあるいはそれ以前のホールビリオンのワクチンの頃の論文が多いかなと自分は理解」していること、「RNAワクチンでも、スパイク蛋白が、ウイルス表面に乗っているのと近い形で免疫に提示されるということを考えると、理論的には、不活化ワクチンと同じような免疫の接し方になるのかなというような印象を持っています。ただ、現時点で繰り返しなりますが、このコロナに関しまして、抗原原罪説というのが動いているだろうということを積極的に支持するような結果は、ないというのが私の認識、私たちが知る限りないということで、ただ、レビューでそのような可能性もあり得るというような仮説が提示されているような状況」であること等の発言があったところである。
質問3
令和六年度定期接種で使用している新型コロナウイルスに対するワクチンの抗原はJN.一変異型のスパイクタンパク質である。この抗原による中和抗体の誘導に関する実験結果について、政府はどのような結果により今般の定期接種に用いるワクチンを決定したのか、決定に至った過程を説明されたい。
回答(質問1 及び質問3 について)
御指摘のように「新型コロナウイルスにおいても、・・・抗原原罪と呼ばれる現象が起きる」との指摘があることは承知しているが、御指摘の「mRNAワクチン」を含む新型コロナウイルス感染症に係る予防接種(以下「新型コロナ予防接種」という。)に使用するワクチン(以下「新型コロナワクチン」という。)について、お尋ねの「この抗原による中和抗体の誘導に関する実験結果」に関しては、例えば、ファイザー社及びモデルナ社の新型コロナワクチンについて、令和五年七月三十一日に開催された薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会において、「新変異株に対するワクチンの薬事審査における評価方針」について、「国際的な評価の考え方と、これまでの臨床試験成績や使用実績を踏まえると、・・・品質において問題がないこと、非臨床試験でオミクロン株(XBB.一.五系統を含む)に対して中和抗体価が充分に上昇していることを確認すること・・・により、承認して差し支えないかどうかの判断をすること」が確認されたことを踏まえ、「新型コロナウイルスワクチンの株の変更に関する取扱い等について(通知)」(令和六年五月二十三日付け医薬薬審発〇五二三第一号・医薬監麻発〇五二三第三号厚生労働省医薬局医薬品審査管理課長及び監視指導・麻薬対策課長連名通知)により、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号。以下「医薬品医療機器等法」という。)第十四条第十五項の規定による承認事項の一部変更承認(以下単に「承認」という。)を行うに当たり、「抗原株の免疫学的特性に関する資料(例:ワクチンの非臨床試験における免疫原性のデータ等)」等の提出を求めることとしたところ、令和六年五月二十九日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会において、ファイザー社及びモデルナ社による「ワクチン既接種マウスで、JN.一変異株対応ワクチンはXBB.一.五変異株対応ワクチンと比較して、JN.一系統株に対してより高い中和応答を誘導した」等の報告についての確認も行われた上で、独立行政法人医薬品医療機器総合機構におけるファイザー社及びモデルナ社から提出された当該報告の内容を含む資料等に基づく審査を経て、承認を行っている。
また、当該承認をされた新型コロナワクチンについては、同年九月十九日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会において、国内外の科学的知見に基づき審議を行い、予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号)第五条第一項の規定による定期の予防接種(以下「定期接種」という。)において、令和六年度に使用する新型コロナワクチンとすることとしたところである。
さらに、新型コロナワクチンの安全性については、新型コロナ予防接種を受けたことによるものと疑われる症状について、同法第十二条第一項の規定により、医師等から厚生労働大臣に報告されているほか、医薬品医療機器等法第六十八条の十第一項及び第二項の規定により、新型コロナワクチンの製造販売業者等から同大臣に報告されているところ、新型コロナ予防接種の開始以降、これらの制度により収集した情報等に基づき、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会及び薬事審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(以下「合同部会」という。)において継続的に評価を行うこととしており、直近では令和七年一月二十四日の合同部会において、これらの制度により収集した死亡事例も含め、「新型コロナワクチンの副反応疑い報告状況について」等が議論され、「ワクチンの安全性に係る重大な懸念は認められない」及び「十月からの新型コロナワクチンの定期接種について、・・・現時点では引き続き、ワクチンの安全性等に関する国内外の情報を収集しつつ、ワクチンの接種を継続すること」と評価されている。
これらを踏まえ、新型コロナワクチンの接種を継続し、また、定期接種としても行っているところである。