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TSMC及びJASMに対する支援等に関する質問主意書

経過状況:

答弁受理

提出者 原口一博
会派 立憲民主党
公式リンク 第216回国会 / 質問答弁

デジタル化が急速に進展する中、半導体は、パソコンやスマートフォンといった情報端末のみならず、自動車や医療機器等のあらゆる分野に使われており、デジタル社会を支える重要な基幹部品であり、経済安全保障上も重要な戦略物資である。政府は、二〇二一年十二月に特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律(令和二年法律第三十七号)(以下「5G法」という。)等を改正し、半導体の国内生産基盤を強化するための特定半導体基金事業を開始した。

同事業では、台湾積体電路製造(以下「TSMC」という。)及びJapanAdvancedSemiconductorManufacturing株式会社(以下「JASM」という。)に対し、二〇二二年六月に熊本第一工場建設のために最大助成額四千七百六十億円、二〇二四年二月に熊本第二工場建設のために最大助成額七千三百二十億円、合わせて一兆二千八十億円もの巨額な支援が決定された。

以下、TSMC及びJASMに対する支援等について質問する。

質問1

これまでの半導体産業政策の反省を踏まえた今後の対策

1 我が国の半導体産業は、一九九〇年頃には日本企業の半導体売上高が世界シェアの約五割を占めるなど、高い競争力を有していたが、その後、凋落を続け、二〇二二年時点で世界市場の一割弱に落ち込むなど低迷している。

 本年二月二十日の衆議院財務金融委員会において、政府は、我が国の半導体産業が競争力を落としてきた原因として、日米半導体協定に代表される貿易摩擦といった政策面の課題、設計と製造が水平分離していく世界の半導体ビジネスの潮流の変化に乗り遅れたこと、日の丸自前主義というべき国内企業の再編に注力をして、有力な海外企業との国際連携を推進できなかったことといったビジネスモデルの問題など、様々な要因があったとし、この点について真摯に反省をしなければならないと答弁している。

 この答弁を踏まえると、これまでの政府の半導体産業政策の失敗が、我が国の半導体産業の衰退を招き、我が国の強みであった半導体製造技術を海外企業に流出させ、国内で半導体の製造をすることができない状況に至らしめたと言っても過言ではないのではないかと考える。

 この答弁にあるとおり、政府がこれまでの半導体政策を真摯に反省するのであれば、我が国の半導体産業の復活を遂げるためには、TSMCをはじめとする外国企業に過度に依存するのではなく、高い国際競争力を有する国内の半導体産業の育成及び強化が重要であると考えるが、政府の見解を伺いたい。

2 また、国内の半導体企業の育成及び強化に向けた具体的な支援策及び支援スケジュールについても明らかにされたい。

回答(質問1 の1について)

 御指摘の「外国企業に過度に依存する」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、御指摘の「高い国際競争力を有する国内の半導体産業の育成及び強化」については、政府として、我が国産業にとって極めて重要であると考えており、御指摘の「半導体産業の復活」に向けて、例えば、半導体・デジタル産業戦略(令和五年六月六日経済産業省改定)において、まず足下の生産基盤の確保に取り組むこととしている。半導体の中でも、とりわけ、特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律(令和二年法律第三十七号。以下「法」という。)第二条第四項に規定する特定半導体(以下「特定半導体」という。)については、国際的にもその生産能力が限られているため、「外国企業」であるか否かにかかわらず、国内における安定的な生産体制を確保することが重要であると考えており、Taiwan Semiconductor Manufacturing Company Limited(以下「TSMC」という。)及びJapan Advanced Semiconductor Manufacturing株式会社(以下「JASM」という。)から提出された法第十一条第一項に規定する特定半導体生産施設整備等計画(以下「特定半導体生産施設整備等計画」という。)について、令和四年六月及び令和六年二月に、同条第三項の規定に基づく認定(以下「認定」という。)をしたものである。こうした取組に加え、御指摘の「半導体産業の復活」に向けて引き続き不断の努力を行ってまいりたい。

回答(質問1 の2について)

 政府としては、我が国において、令和十二年までに半導体を生産する企業の合計売上高が十五兆円超となり、半導体の安定的な供給が確保されることを目標として掲げているところ、このためには、足下の半導体の製造基盤の確保、次世代技術の確立及び将来技術の研究開発に取り組むことが必要であると考えており、例えば、令和十二年度まで特定半導体基金事業及び安定供給確保支援事業を、令和十一年度までポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業を、それぞれ実施するなど、引き続き必要な支援を行っていく考えである。

質問2

TSMC及びJASMに対する支援の我が国の半導体産業振興への効果等

1 支援対象となる半導体

 TSMC及びJASMの熊本第一工場で製造する半導体は十二〜二十八ナノメートル、第二工場で製造する半導体は六〜十二ナノメートルであるが、米国が補助金等により支援するTSMCアリゾナ第一工場〜第三工場で生産される半導体は二〜四ナノメートルであり、TSMC及びJASMの熊本第一工場、第二工場で生産される半導体は最先端とは言い難い。

 最先端でない半導体を製造するために巨額な助成金を投入してTSMCを誘致することは我が国の半導体産業の振興に寄与するのか、政府の見解を明らかにされたい。

2 我が国への半導体供給の実効性の担保

 ア 5G法においては、認定を受けた事業者に対して国内向けに優先的に供給する義務を課していないが、同法第十一条第三項第四号において、特定半導体等の需給がひっ迫した場合における増産を含む国内における安定的な生産に資する取組が行われると見込まれること等を認定要件としている。

  TSMC及びJASMが認定を受けた認定特定半導体生産施設整備等計画(二〇二二半経第〇〇一号−一及び二〇二三半経第〇〇三号−一)において、?JASMは、需給がひっ迫した場合には、緊急時対応として稼働率を向上させ、増産に取り組むこと、?TSMCは、日本政府からの要請に応じ、日本の顧客向けの供給拡大について誠実に協議に応じること、?TSMC及びJASMは、関係法規及び契約の規定を常に遵守するとされている。上記??を根拠に我が国への半導体供給の実効性が担保され、実質的に供給義務を課していると理解して良いか、政府の見解を求める。

 イ さらに、?に契約とあるが、これはどのようなものであるのか、契約の趣旨、当事者等を明らかにされたい。仮に当該契約が、国とTSMC及びJASMとの契約である場合、我が国への供給義務に関する条項が含まれているのか、明らかにされたい。

 ウ また、JASMと他の民間企業との契約である場合、国が関与できない民間事業者間の契約に対し我が国への優先的供給義務の担保を求めることは適切でないと考えるが、政府の見解を求める。

3 外国企業に半導体製造を依存する経済安全保障上のリスク

 半導体戦略の重要性が増す中、外国企業であるTSMCに半導体の製造を依存することは、我が国の経済安全保障上のリスクが高まることが懸念される。TSMCは、我が国固有の領土である尖閣諸島について領有権を主張する台湾の企業であるため、台湾有事や尖閣諸島を巡る状況次第では、TSMC及びJASMによる我が国への半導体の供給が確実に担保されるのかといった懸念があるが、政府の考えを明らかにされたい。

回答(質問2 の1について)

 御指摘の「十二〜二十八ナノメートル」及び「六〜十二ナノメートル」の演算を行う半導体については、令和六年十二月四日時点で、我が国で量産された実績がなく、御指摘の「TSMC及びJASMの熊本第一工場」及び「第二工場」において当該半導体の生産が行われることは、特定半導体の国内安定供給確保に資するものであることに加え、半導体製造装置や半導体材料等の関連産業の集積、人材育成等を通じて、御指摘の「我が国の半導体産業の振興に」大いに「寄与」するものであると考えている。

回答(質問2 の2のア及び3について)

 認定の要件としては、法第十一条第三項第四号において、同項第二号に規定する特定半導体等(以下「特定半導体等」という。)の需給がひっ迫した場合において増産すること等や、同号及び経済産業省関係特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律施行規則(令和二年経済産業省令第六十八号。以下「省令」という。)第十条において、特定半導体生産施設整備等計画に基づく特定半導体等の生産が十年以上継続的に行われると見込まれることを求めているところ、TSMC及びJASMから提出された特定半導体生産施設整備等計画に、「十年以上の継続生産を予定」、「JASMは、需給がひっ迫した場合には、緊急時対応として稼働率を向上させ、増産に取り組む」、「製品の納入先」は「日本の顧客が中心」、「TSMCは、日本政府からの要請に応じ、日本の顧客向けの供給拡大について誠実に協議に応じる」等といった旨の記載がなされていることも踏まえ、法第十一条第三項各号に掲げる要件を満たすものと判断し、令和四年六月及び令和六年二月に認定を行ったものである。また、認定を受けた者(以下「認定事業者」という。)が認定に係る特定半導体生産施設整備等計画に従って特定半導体生産施設整備等を実施していない、又は同項各号のいずれかに適合しないものとなったと認められるときは、経済産業大臣は、法第十二条第二項及び第三項の規定に基づき、当該特定半導体生産施設整備等計画の変更を指示し、又は当該認定を取り消すことができるとされており、これを踏まえ、助成金の交付を受けた認定事業者に対して当該認定に基づく助成金の返還を請求することが必要な場合においては、当該助成金の交付に係る業務を行う国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という。)において、特定半導体基金事業費助成金交付規程(令和四年四月三十日付けNEDO作成。以下「交付規程」という。)に基づき、請求する返還額については経済産業省からの指示に従い、適切に対応していくものと承知している。

回答(質問2 の2のイ及びウについて)

 二の2のアでお尋ねの「TSMC及びJASMが認定を受けた認定特定半導体生産施設整備等計画(二〇二二半経第〇〇一号−一及び二〇二三半経第〇〇三号−一)」の「?TSMC及びJASMは、関係法規及び契約の規定を常に遵守するとされている」における「契約」とは、TSMC及びJASMが、それぞれが自社で雇用する従業員との間で交わす労働契約を指しているものと認識している。

質問3

環境保全対策等

1 環境アセスメント

 ア 熊本県は二〇二三年八月に台湾を訪問し、TSMCをはじめとする半導体関連企業が集積するエリアの水質等を調査し、同年十月に結果をまとめた報告書を公表しているが、二〇二四年末に本格稼働予定のTSMC及びJASMの第一工場について、環境影響評価法(平成九年法律第八十一号)に基づく環境影響評価(環境アセスメント)は実施されたのか。実施されていない場合、その理由について政府が把握しているところを具体的に明らかに示されたい。

 イ また、今後、建設が行われる第二工場についても環境アセスメントの実施予定はあるのか、政府が把握しているところを明らかにされたい。

2 水質や大気等環境への影響及び環境保全対策

 ア 半導体製造では大量の水が使用されるとともに、排水のほか多種多様な化学物質やガスが排出される。「火の国」とともに「水の国」とも呼ばれる熊本県は、豊富な地下水を有し、水道水源の約八割を地下水に依存するなど、熊本県民にとって地下水は大変重要な生活用水である。

  他方、TSMC及びJASMの第一工場の本格稼働を二〇二四年末に控え、熊本県内では、同工場による地下水のくみ上げによる水の枯渇や排水等に伴う水質の悪化、大気汚染など環境への影響を心配する声があがっている。

  これらを踏まえ、TSMC及びJASMの半導体製造工場の稼働に伴う地下水の枯渇や水質等の周辺環境への影響について、政府はどのように把握しているのか、明らかにされたい。

 イ また、TSMC及びJASMは、第二工場に係る特定半導体生産施設整備等計画(二〇二三半経第〇〇三号−一)において、環境対策に関し、法規制対象の項目については、法規制と同等以上の基準を設けて排水を監視するとともに、法規制対象外の項目についても、サンプリングによる自主管理などを行い、操業に伴う大気や河川への影響を最小限に抑える取組を行っていくとしている。政府は、同工場の周辺環境の保全に向け、同社が実施する環境対策の実効性確保のため、どのような対策を講じていくのか、明らかにされたい。

回答(質問3 の1のアについて)

 お尋ねの「TSMC及びJASMの第一工場」の設置の事業は、環境影響評価法(平成九年法律第八十一号)に定める環境影響評価の対象事業に該当しないため、当該事業を行う事業者による同法に基づく環境影響評価は行われていないものと承知している。

回答(質問3 の1のイについて)

 お尋ねの「第二工場」の設置の事業は、環境影響評価法に定める環境影響評価の対象事業に該当しないため、当該事業を行う事業者による同法の規定に基づく環境影響評価は行われる予定はないものと承知している。

回答(質問3 の2のアについて)

 お尋ねの「TSMC及びJASMの半導体製造工場の稼働に伴う」「周辺環境への影響」については、政府として、地元自治体や事業者等との意見交換等を通じて把握に努めており、地下水については、例えば、JASMが、公益財団法人くまもと地下水財団等が実施する地下水涵養事業に参画し、地下水保全に向けて必要な取組を講じていると承知しており、また、排水対策については、例えば、熊本県が、令和五年八月から令和六年十一月までにかけて、JASMの半導体工場周辺等の約十箇所において水質調査を実施しており、同様の調査を御指摘の「JASMの第一工場の本格稼働」の後にも実施する予定であると承知している。引き続き、地元自治体や事業者等と連携し、お尋ねの「周辺環境への影響」の適切な把握に努めてまいりたい。

回答(質問3 の2のイについて)

 認定事業者においては、省令第十五条第二項の規定により、法第十二条第二項に規定する認定特定半導体生産施設整備等計画(以下「認定特定半導体生産施設整備等計画」という。)の各事業年度における実施状況を原則として当該事業年度終了後三月以内に経済産業大臣に報告することとされており、政府としては、当該報告の内容に基づき、当該認定特定半導体生産施設整備等計画に記載された御指摘の「環境対策」が講じられていることを確認することとしている。また、当該報告の内容に疑義がある場合には、法第三十二条第二項の規定に基づき、同大臣は、認定事業者に対し、認定特定半導体生産施設整備等計画の実施状況について報告を求めることができるものとされている。これに加えて、二の2のア及び3についてでお答えしたとおり、これらの報告の内容を踏まえ、認定事業者が認定特定半導体生産施設整備等計画に従って特定半導体生産施設整備等を実施していないと認められるときは、同大臣は、法第十二条第二項及び第三項の規定に基づき、当該認定特定半導体生産施設整備等計画の変更を指示し、又は認定を取り消すことができるとされており、これを踏まえ、助成金の交付を受けた認定事業者に対して当該認定に基づく助成金の返還を請求することが必要な場合においては、当該助成金の交付に係る業務を行うNEDOにおいて、交付規程に基づき、請求する返還額については経済産業省からの指示に従い、適切に対応していくものと承知している。