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GX実行会議及び第七次エネルギー基本計画策定における石破内閣の基本姿勢に関する質問主意書
経過状況:答弁受理
石破茂首相は、本年十月三十一日の内閣官房GX実行会議において、第七次エネルギー基本計画の年内の策定を指示した。これに関連し、エネルギー政策についての基本姿勢、方策について、以下質問する。
質問1
国民負担
グリーントランスフォーメーション(以下、GX)において、今後十年間で百五十兆円の官民投資を実施するという。対象には、洋上風力発電、太陽光発電、その導入のための蓄電池や送電線建設などが含まれているが、いずれも国民負担を生じさせ光熱費の高騰につながる可能性があるものである。
日本の電気代は、東日本大震災前(再エネ大量導入開始前)の二〇一〇年に比べ高騰しており、そのため政府は光熱費補助をしてきた。しかし、こうした行政コストの掛かる支給金方式の弥縫策に頼っていても本質的な光熱費削減には至らず、諸物価も上がり、国民生活は苦しさを増すばかりである。
むしろGXを抜本的に見直し、再エネの大量導入を止めるなどの方法により、光熱費削減を図るべきではないかと考える。その一環として、第七次エネルギー基本計画において、光熱費削減について、電気代などの光熱費を二〇一〇年水準以下に抑えるという形で、明確な数値目標を設定すべきと考えるが、石破首相は、こうした認識を共有するのか、明らかにされたい。
回答(質問1 について)
御指摘の「電気代などの光熱費」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、需要家に対するエネルギーの供給価格の水準は、エネルギー供給を行う事業者によって様々な要素を勘案して決定されるものであるため、政府として、御指摘の「第七次エネルギー基本計画」に記載することを含め、その水準について数値目標を設定することは困難であるが、いずれにせよ、エネルギー政策の検討に当たっては、安全性の確保を大前提に、エネルギー安定供給、経済効率性及び環境適合性の最適なバランスを追求していくことが重要であると認識している。
質問2
気温低減の効果
我が国では、二〇五〇年にCO2排出を実質ゼロにすることを目標にしているが、これで地球の気温はどれだけ下がるのか。以下に試算を示す。
国際連合の諮問機関である気候変動に関する政府間パネルが示した過渡排出気候応答係数によれば累積で一兆トンだけCO2を排出すると気温は約〇・五℃上がるとされている。日本のCO2排出量は現在、毎年約十億トン、すなわち一兆トンの千分の一なので、日本のCO2排出によって毎年〇・五℃の千分の一、つまり〇・〇〇〇五℃だけ気温が上がることとなる。
二〇五〇年までの累積ではこの二十五年分になり、気温上昇は〇・〇一二℃という計算となる。もし二〇五〇年までに日本のCO2排出を直線的にゼロにするならば、二十五年間の累積の排出量は底辺が二十五年、高さが十億トンの直角三角形の面積となり、気温上昇は半分の〇・〇〇六℃となる。であれば、日本がCO2をゼロにすることによる気温の低下は差し引き〇・〇〇六℃でしかない。
石破首相も、この〇・〇〇六℃という数値を共有するのか。その上で、巨額の費用をかけてGXを進めることの費用対効果についていかに考えるのか、明らかにされたい。
回答(質問2 について)
御指摘の「国際連合の諮問機関である気候変動に関する政府間パネルが示した過渡排出気候応答係数」については、同パネルが令和三年にまとめた第六次評価報告書第一作業部会報告書において、累積の二酸化炭素排出量が一兆トン増加するごとに世界平均気温が〇・二七度から〇・六三度までの間で上昇する可能性が高いと、相当程度の幅をもって評価されているものであるが、お尋ねについては、いずれも、「二〇五〇年までに日本のCO2排出を直線的にゼロにする」との仮定に基づくものであり、お答えすることは困難である。
質問3
気候危機説の検証
政府は、これまでの国会答弁などでは、「自然災害が激甚化している」とするが、これは統計的に確認できない。台風は増えてもおらず強くもなっていない。大雨は一九七六年以降のアメダスによるデータでは強くなっているものもあるが、これは観測期間が短いために長期傾向とは言えず、現に一九五〇年代まで含めると長期傾向は検出されない。
風水害による被害金額は増加しているが、これは経済成長の反映に過ぎず、現にGDP当たりの被害金額は減少してきている。任意性を伴い過去の再現の精度も不十分なシミュレーション計算ではなく、気象に関する統計データで検証すると、日本において自然災害の激甚化は起きていない。
石破首相は、こうした認識を共有するのか。しないとすれば、いかなる統計データに基づくのか、明らかにされたい。
回答(質問3 について)
御指摘の「任意性を伴い過去の再現の精度も不十分なシミュレーション」の意味するところが必ずしも明らかではないが、台風については、昭和二十六年から令和五年までの発生数について統計学的な手法を用いて解析した結果、長期的な変化傾向が見られないものの、一時間当たりの降水量が五十ミリメートル以上の降雨については、気象庁におけるアメダスの観測によると、昭和五十一年以降、年間の発生回数が統計的に有意に増加しており、また、一日当たりの降水量が百ミリメートル以上及び二百ミリメートル以上の年間日数についても、全国五十一地点の観測によると、明治三十四年以降、統計的に有意に増加している。
質問4
温室効果ガス排出の数値目標
政府は、温室効果ガス(以下、GHG)削減目標を来年二月までに国連気候変動枠組条約事務局に提出するという。三年前、二〇五〇年カーボンニュートラルと整合的で、「野心的」な目標として、二〇三〇年までに二〇一三年比でGHG四十六%削減が表明された。
この数字について当時の小泉進次郎環境大臣は「おぼろげに浮かんだ」と述べていたが、実際は二〇五〇年にGHGをゼロにするよう二〇一三年から直線を引いて決めたに過ぎないことは明らかである。同様の手法に拠るなら、二〇三五年は五十九%削減、二〇四〇年には七十三%削減となる。
GX実行会議では「二〇五〇年ネットゼロ」に向けて日本のGHGが順調に(オン・トラックで)減っているとするが、非政府の有志による第七次エネルギー基本計画である「エネルギードミナンス」によれば、その最大の理由は産業空洞化である。このまま脱炭素に突き進めば産業空洞化はさらに進み日本経済崩壊さえも懸念される。
他方、パリ協定のもとでも、ロシア、中国、インドなどがいずれも化石燃料の利用を継続ないし拡大している。米国も離脱が確実であることから、日本の態度如何に関わりなく、パリ協定はすでに形骸化している。
1 つまり日本が「野心的な」GHG数値目標を提出することに国際的意義はなく、むしろ経済的な自滅を招くだけと考えられるが、それでもなお、政府は安定安価なエネルギー供給を妨げる「野心的な」GHG削減目標設定をすべきと考えるのか、石破首相の認識を明らかにされたい。
2 来年二月が期限である、二〇三五年以降のGHG削減目標の国連気候変動枠組条約事務局への提出にあくまでこだわるのか、石破首相の認識を明らかにされたい。
回答(質問4 の1について)
お尋ねの「GHG削減目標」については、我が国として、脱炭素、エネルギー安定供給及び経済成長を同時に実現することを目指すとの考えの下、世界の平均気温の上昇を工業化以前の水準よりも摂氏一・五度に抑えるよう、野心的な温室効果ガスの削減目標を掲げ、その達成に向けて、必要な取組を進める方針である。
回答(質問4 の2について)
お尋ねの「GHG削減目標の国連気候変動枠組条約事務局への提出」については、我が国として、パリ協定(平成二十八年条約第十六号)及びこれに関連する決定文書に基づき対応することとしている。
質問5
太陽光発電の大量導入への疑問
太陽光発電には人権問題、経済性、災害時の安全性など多くの課題がある。まず人権問題であるが、世界の太陽光パネルの八割は中国で製造されており、その半分は新疆ウイグル自治区における工程に関係していると言われる。米国などでは、ウイグル人らへの強制労働への関与の疑いがあるとして輸入禁止措置がすでに取られている。米国の次期国務長官に指名されたマルコ・ルビオ上院議員は対中強硬派で知られており、迂回輸入などの抜け穴を塞ぐことでこの輸入禁止措置の強化を推進してきた。人権尊重を旨とする日本もこれに歩調を合わせて輸入禁止すべきではないかと考える。
そもそも太陽光発電は間欠的であるという根本的な問題点があり、そのバックアップとして既存の火力発電設備などに対し二重投資となるために経済性は本質的に悪く、国民経済への大きな負担がすでに生じている。
また地震や洪水の際には、破損しても発電を続ける特徴があるために、避難、救助などに際して感電による二次災害が発生するおそれがある。さらに中国で製造された太陽光発電は製造時に大量のCO2を発生させ、殊にメガソーラーは森林を伐採して設置するため、ここでもCO2が発生するとともに、CO2吸収源を減少させる。この両過程における発生は決して無視できる量ではない。
石破首相は、経済性の悪さ、災害時の危険性、CO2発生に鑑みた太陽光発電への疑義をいかにお考えか。また人権上の観点からの中国製太陽光パネルの輸入禁止に関し認識を共有するのか、明らかにされたい。
回答(質問5 について)
お尋ねの「経済性の悪さ、災害時の危険性、CO2発生に鑑みた太陽光発電への疑義」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、太陽光発電を始めとする再生可能エネルギーの導入については、政府として、これまで、国民負担の抑制と地域との共生を図りながら最大限の導入を促すといった考え方に基づき、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(平成二十三年法律第百八号)に基づく入札制度等の再生可能エネルギー発電設備の効率的な導入を促す仕組みの活用、再生可能エネルギー発電事業を円滑かつ確実に実施するために必要な関係法令の規定の遵守を求める等の同法の厳格な運用等の取組を進めてきたところである。また、御指摘の「人権上の観点からの中国製太陽光パネルの輸入禁止」については、政府として慎重な検討が必要な論点と認識しているが、「人権上の観点」の重要性に鑑み、日本で事業活動を行う企業による国内外のサプライチェーン等における人権尊重の取組を促進するため、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(令和四年九月ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議決定)を策定し、周知に努めるなどしているところである。
質問6
原子力の最大限活用
原子力発電は発電量当たりの人命リスクがもっとも低い安全な電源であるとの指摘がある。また、電力中央研究所の研究資料(二〇一八年三月)によると、通常運転をしていれば、燃料輸入が途絶えても装荷済み及び装荷待ちの国内にある燃料だけで約三年にわたり発電を続けることが出来るとしており、中東紛争や台湾有事などに起因するシーレーン断絶時におけるエネルギー安全保障として重要である。
こうした事情に鑑みれば、原子力発電の早期の再稼働、運転期間延長、更新投資、新増設が必要という解が導き出される。目標とすべきは国民のための安価で安定な電力供給であって、原子力についてのみリスクゼロを要求するのは不合理であると考える。
化石燃料が輸入依存であり、再エネが不安定で高価であることを考え合わせればむしろ、原子力を忌避することで生じるエネルギー安全保障上のリスクや経済上の不利益は非常に大きいと言わねばならない。原子力発電の全電源に占める比率を、可能な限り早期に五十%まで引き上げることを目標とし、その達成を図るべきと考えるが、石破首相は、こうした認識を共有するか、明らかにされたい。
回答(質問6 について)
御指摘の「原子力発電の全電源に占める比率」の意味するところが必ずしも明らかではないが、お尋ねについては、政府として、「エネルギー基本計画」(令和三年十月二十二日閣議決定)において、「原子力発電については、CO2の排出削減に貢献する電源として、いかなる事情よりも安全性を全てに優先させ、国民の懸念の解消に全力を挙げる前提の下、原子力発電所の安全性については、原子力規制委員会の専門的な判断に委ね、原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進め、国も前面に立ち、立地自治体等関係者の理解と協力を得るよう取り組み、電源構成ではこれまでのエネルギーミックスで示した二十〜二十二パーセント程度を見込む。」と示した方針等を踏まえ、今後の方針を検討しているところである。
質問7
化石燃料の安定利用(CO2政策による阻害排除)
日本のエネルギー供給の柱はいまなお化石燃料である。二〇二二年度における一次エネルギー供給のうち、石油・石炭・天然ガスは合計で約八十三%を占めた。化石燃料を安定・安価に調達することは、日本のエネルギー政策においてもっとも重要な要請であると考える。
第六次エネルギー基本計画では、化石燃料、とくに天然ガスの供給量の見通しが、CO2排出削減目標に合わせる形で強引に低く抑えられた。このような政策は、長期契約の締結による燃料の調達や、油田・ガス田・炭鉱などの上流への事業参加と権益の確保、火力発電などの燃料利用インフラへの設備投資において、民間企業にとってのリスク要因となって前向きな意思決定を妨げ、国としての化石燃料の安定利用を妨げている。
すなわち高効率火力発電など優れた化石燃料技術を有するにもかかわらず、日本の国益を人為的に大きく損ねている。こうした愚を排し、石油・石炭・天然ガスのいずれについても安定した利用を実現すべく、政府は現実的な立場を明確にし、CO2に関する政策がその妨げにならないようにすべきと考えるが、石破首相は、こうした認識を共有するのか、明らかにされたい。
回答(質問7 について)
御指摘の「石油・石炭・天然ガスのいずれについても安定した利用を実現」及び「CO2に関する政策がその妨げにならないようにすべき」の意味するところが必ずしも明らかではないが、お尋ねについては、政府として、一についてで述べたとおり、エネルギー政策の検討に当たっては、安全性の確保を大前提に、エネルギー安定供給、経済効率性及び環境適合性の最適なバランスを追求していくことが重要であると認識している。