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「風邪」を五類感染症に含める省令改正に関する質問主意書
経過状況:答弁受理
令和六年七月十二日から八月十六日に実施された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則の一部を改正する省令案」(以下、「本件省令案」という。)に関するパブリック・コメントでは、異例の三万千五百四十一件もの意見が提出された。この意見数から、国民の関心の高さがうかがえる。本件省令案では、日常的に発生する「風邪」を含む急性呼吸器感染症が五類感染症に追加されることが明言されている。パブリック・コメントでは、「急性呼吸器感染症は非常に幅広い病原体・症状を含んでおり、その全てが法による監視が必要な疾患であるとは思えない」との意見や「五類感染症に追加することで、医療費の増大につながるのではないか」など多くの批判が寄せられている。
パブリック・コメントの結果報告(「「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則の一部を改正する省令案」に関する御意見募集の結果について」。以下、「本件結果報告」という。)によると、急性呼吸器感染症を報告する定点医療機関は、これまでどおり週間の患者数の報告が義務付けられており、新たに急性呼吸器感染症病原体定点に対してのみ検体提出が求められる予定であるという。これにより、特に検体提出を行う医療機関の負担が増大する可能性がある。
日本リサーチセンターが二〇一七年一月に行った「風邪に関する調査」によれば、十五歳から七十九歳の日本人は年間平均一・四回風邪を引くとされており、その延べ人数は一億三千九百五十万人と推定されている。風邪の初期症状で医療機関を訪れる人の割合は全体の十三・三パーセントであり、これは千八百五十五万件を超える症例が発生していることを意味する。約三千カ所の定点医療機関のうち、約十パーセントが病原体定点として検体を提供することになり、対象となる症例数の多さから医療従事者への負担が危惧される。
厚生労働省が公表した「医師の勤務環境把握に関する研究」調査によると、令和四年の段階で医師の二十一・二パーセントが月八十時間以上の残業をしており、過労死ラインを超えているとされている。さらに、本件結果報告を見る限り、医療現場にもたらす業務負荷や費用対効果が十分に評価されているとは言い難く、新たな省令が医療現場にさらなる負担をもたらす懸念がある。
以上をふまえ、政府に対し質問する。
質問1
本件省令の改正に伴う医療機関における業務負荷と、公衆衛生上の利益に対する費用対効果について、政府がどのように分析・評価し、その結果をどの程度公開しているのか。また、この評価が省令策定過程でどのように考慮されているのか、具体的に説明されたい。
回答(質問1 について)
お尋ねの趣旨が明らかではないが、いずれにせよ、令和五年一月二十七日に厚生科学審議会感染症部会(以下「感染症部会」という。)が取りまとめた「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけについて」において、「将来的なパンデミックに備えて、季節性インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス感染症、RSウイルス感染症等を含む急性呼吸器感染症サーベイランスのあり方・・・について、定点医療機関における負担等も考慮しながら本部会において検討を進める」とされたところ、感染症部会において、御指摘の「医療機関における業務負荷」及び「公衆衛生上の利益」についての「評価」を含め、「公開」での議論及び検討が行われた上で、令和六年十月九日に開催された第九十回感染症部会において、「急性呼吸器感染症」を「新たに五類感染症に位置づける」ことが確認されたことを踏まえ、御指摘の「省令」を「策定」した上で、「省令」の施行に向けて、例えば、感染症部会で議論された「医療機関における業務負荷」を「考慮」し、厚生労働省のホームページにおいて「一般の皆様やご協力いただく医療機関の皆様にご理解いただきたいポイント」に関する「Q&A」を掲載しているほか、「定点医療機関」の重点化や「報告」様式の簡素化などの対応について現在検討しているところである。
質問2
本件省令案に対するパブリック・コメントで寄せられた意見の反対・賛成比率や主な意見の内容を国民にどのように公開し、その意見を政策決定にどう活かしたのか、具体的に示されたい。
回答(質問2 について)
御指摘の「パブリック・コメントで寄せられた意見」の中には、質問や必ずしも「反対」又は「賛成」に分類できない意見等も含まれることから、一概にお尋ねの「反対・賛成比率」をお示しすることは困難であるが、お尋ねの「主な意見の内容」については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第四十三条の規定に基づき、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則の一部を改正する省令(令和六年厚生労働省令第百五十六号)の公布の日に、「「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則の一部を改正する省令案」に関する御意見募集の結果について」として公示しているところであり、「主な意見」も踏まえて、一についてでお答えしたとおり、厚生労働省のホームページへの掲載を行っているほか、必要な対応について検討しているところである。
質問3
令和四年の時点で医師の二十一・二パーセントが過労死ラインを超える勤務状況にあるとされているが、本件省令案による追加業務がこの問題を悪化させる可能性について、政府はどのように認識し、どのような具体的対策を講じるのか示されたい。
回答(質問3 について)
お尋ねの「可能性」については、一についてでお答えしたとおり、感染症部会において、一で御指摘の「医療機関における業務負荷」について議論が行われており、例えば、「RSウイルスに関しましては、大事な感染症ではありますけれども、発熱の有無の中で、冬場など臨床現場にかなりの負担がかかるのではないか」等といった意見もあったところであり、お尋ねの「具体的対策」については、一について及び二についてでお答えしたとおり、厚生労働省のホームページへの掲載を行っているほか、必要な対応について検討しているところである。
質問4
五類感染症として未知の感染症を監視し早期に検出することが、どのような公衆衛生上の利益をもたらすのか、具体的に示されたい。
回答(質問4 について)
お尋ねについては、一についてでお答えしたとおり、感染症部会において、お尋ねの「公衆衛生上の利益」について議論が行われており、例えば、「呼吸器感染症、呼吸器症状を呈する患者さんというのは感染症対策上非常に大切ですし、これまでもいろいろなパンデミックとか再興感染症がそのような患者さんとして発症してきたことは頻度も高いですから、ARIのサーベイランスを採用することにはもちろん賛成」等といった意見もあったところである。なお、一についてで述べた厚生労働省のホームページの「Q&A」において、「新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえ、[一]こうした流行しやすい急性呼吸器感染症の流行の動向を把握すること、また、[二]仮に未知の呼吸器感染症が発生し増加し始めた場合に迅速に探知することが可能となるよう、平時からサーベイランスの対象とするために、感染症法の五類感染症に位置付けることとしました。これにより、公衆衛生対策の向上につながると考えています。」と公表しているところである。
質問5
本件省令案により新たに発生する医療費や公衆衛生の改善効果について、国民への周知方法や情報提供の計画を示されたい。
回答(質問5 について)
御指摘の「本件省令案により新たに発生する医療費や公衆衛生の改善効果」の意味するところが明らかではないため、お尋ねにお答えすることは困難であるが、いずれにせよ、「公衆衛生」の向上及び増進に関しては、四についてでお答えしたとおりである。
質問6
五類感染症として発見される未知の感染症に対して、政府がどのような対応を行い、それが国民の利益にどのように直結すると考えているのか示されたい。また、これまでの新型コロナウイルス感染症への対応の課題を踏まえ、未知の感染症において効果的な対応を実現するための具体的な方策があるのか、説明されたい。
回答(質問6 について)
前段のお尋ねについては、例えば、令和六年八月二日の閣議後記者会見において、武見厚生労働大臣(当時)が「急性呼吸器感染症を感染症法の五類感染症に位置付けることで、新型コロナウイルス感染症等、個別に把握している感染症以外の急性呼吸器感染症についても、平時から探知できる体制整備が可能となります。この結果、個別に把握していない急性呼吸器感染症についても、迅速に適切な感染症対策の検討を行うことに繋がると考えています」と述べているとおりであり、迅速かつ適切に、感染症の発生を予防し、及びそのまん延の防止を図ることで、公衆衛生の向上及び増進につながると考えている。また、後段のお尋ねについては、御指摘の「未知の感染症」として「急性呼吸器感染症」を「平時から探知できる体制整備が可能」となることで、例えば、新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成二十四年法律第三十一号)第二条第一号に規定する新型インフルエンザ等感染症に該当するかの判断が容易となり、当該感染症に該当する場合には、御指摘の「これまでの新型コロナウイルス感染症への対応の課題を踏まえ」て改定された「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」(令和六年七月二日閣議決定)に基づき対応することとなり、同計画に定める「国民生活及び社会経済活動への影響の軽減」等が図られるものと考えている。