全医療機関における不妊治療の治療実績公開に関する質問主意書
質問
日本産科婦人科学会のまとめによると、二〇二一年に体外受精で生まれたこどもは過去最多の約七万人となり、近年体外受精は不妊に悩む多くの夫婦やカップルに利用されている。一方で二〇二二年四月から実施されている不妊治療の保険適用によって、体外受精の経済的な負担は多少軽減したものの、治療にまつわる患者の精神的・身体的な負担は依然として重い。また、体外受精の保険適用の回数には患者の年齢ごとに定められた上限がある。
この体外受精の治療成績(妊娠率や出生率など)には個別の医療機関ごとにばらつきがあり治療成績の高いクリニックと低いクリニックには大きな差があると考えられる。しかし、女性の妊孕性には年齢的時間制約があるため、適切な不妊治療を効果的に受けることは妊娠へつなげるため大変重要である。時間制約のある中、回り道をせずに患者が適切な医療を受けるため、また、限られた医療保険の財源を妊娠につなげられるよう適切に利用されるために、治療成績の公開により、患者個人は自分の身体的年齢的状況と照らし、比較検討・選択できるようすることが重要であると考えられる。
たとえば、米国では一九九二年に成立した法律により連邦機関であるCDC(疾病予防管理センター)のホームページで体外受精を実施する全医療機関の治療成績が公開されているが、現在日本ではこのような法律は存在しない。体外受精を実施する全医療機関の治療成績の公開を義務付ける法律の立法の必要性があると考えられるが、政府はその必要性を認識しているか。
回答
御指摘の「体外受精を実施する」医療機関に対しては、「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」(令和四年三月四日付け保医発〇三〇四第三号厚生労働省保険局医療課長及び歯科医療管理官連名通知)により、「生殖補助医療管理料」又は「精巣内精子採取術」に係る診療報酬上の施設基準において、「国が示す不妊症に係る医療機関の情報提供に関する事業に協力すること」としており、具体的には、「不妊症に係る医療機関の情報提供に関する協力依頼について」(令和五年六月二十八日付けこども家庭庁成育局母子保健課事務連絡)が示す「不妊症・不育症に関する広報・啓発促進事業」に基づき、治療内容等の情報の開示を求めることとし、うち御指摘の「治療成績」を含め治療実績等については任意に開示を求めているところである。
御指摘の「治療成績」を含む当該情報の開示の在り方については、令和四年度厚生労働科学研究費補助金及び令和五年度こども家庭科学研究費補助金による「不妊治療における情報提供の方策等の確立に向けた研究」において、「治療成績には、治療技術だけでなく、患者の年齢や合併症等の個別的要因が大きく反映される。各施設の患者背景が異なる中で、治療成績を単純な数値で開示することは、医療機関側が予後不良な患者の診療を好まなくなる、治療登録が不正確になる、見かけの成績が高い施設に患者が集中する等の混乱等を招く可能性もある」、「安全性確保に関する指標(多胎出産率、卵巣過刺激症候群発生率)については、先行して開示することが考えられる」、「患者にとって最も関心の高い成功率だけでなく、幅広い種類の情報についても関心を高め、総合的な判断による納得できる医療機関選びにつながる情報開示のあり方を検討していく必要がある」等の意見等があったところである。
現在、当該研究等を踏まえながら、御指摘のように「患者が適切な医療を受けるため、」医療機関を「比較検討・選択できるよう」、当該事業の見直し等による必要な対応について検討しているところであり、必ずしも御指摘のような「法律の立法の必要性がある」とは考えていない。