分かりやすい衆議院・参議院

競馬の払戻金に対する課税等に関する質問主意書

会派 立憲民主党
議案提出者 中谷一馬
公式リンク 第213回国会 / 質問 答弁

競馬の勝馬投票券(以下「馬券」という。)の的中による払戻金に係る所得に対する課税については、所得区分(一時所得か雑所得(又は事業所得)か)と、外れ馬券の購入代金を必要経費として当該所得に係る総収入金額から控除することの是非が争われた裁判があるが、平成二十七年三月十日最高裁判所第三小法廷判決(大阪事件)では機械が確率的に結果を予測することを雑所得の前提とした一方、平成二十九年十二月十五日最高裁判所第二小法廷判決(札幌事件)では機械的でない人間的なノウハウによることも許容したことなどから、払戻金の所得区分の判断等には予測可能性・法的安定性に欠ける部分がある。また、一時所得として扱われる場合、外れ馬券の購入費用は原則必要経費として認められない点につき、年間を通じて馬券を購入する競馬愛好家が、仮に予想が的中し高額払戻金を得た場合に、その的中に至るまでに支出した費用を考慮されず、多額の納税義務を負うといった状況にある。

これに関連して、以下質問する。

質問1

競馬や競輪といった公営競技の払戻金に係る所得に対する課税について、現行制度上、一時所得とされている理由を明らかにされたい。

回答(質問1 について)

 お尋ねの「公営競技の払戻金」の金額については、所得税法(昭和四十年法律第三十三号)上の利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得に係る収入金額に該当しないものと考えられることから、同法第三十四条第一項の「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」に係る収入金額に該当する場合には一時所得に係る収入金額に、それ以外の場合には同法第三十五条の規定により雑所得に係る収入金額に、それぞれ該当するものと考えている。

質問2

馬券の払戻金に係る所得に対する課税については、前述のとおり所得区分等について最高裁判所による判決が示されるたびに国税庁による所得税基本通達の改正が行われるといった予測可能性・法的安定性に欠ける点がある。租税法律主義に基づけば、このような取扱いは通達ではなく法律上明記しておく必要があるものとも考えられるが、政府の認識を示されたい。

回答(質問2 について)

 所得税の課税については、所得税法において、所得がその源泉、性質等により十種類に分類され、各所得区分に応じた課税標準の計算方法等が定められており、その上で、同法の適用においては、御指摘の「馬券の払戻金」のような個々の収入に係る所得について、個別具体的な事情に応じ、当該収入に係る所得の源泉、性質等を踏まえて判断されるべきものと考えている。そのため、一般的に、個々の収入に係る所得がどの所得区分に該当するかを法令で一律に定めることは、むしろ、当該所得について、その源泉、性質等を踏まえた適正な課税を行うことが困難になるおそれがあると考えている。その上で、勝馬投票券の払戻金に係る課税上の取扱いについては、所得税基本通達において国税庁長官の解釈を示すことで、取扱いの統一や明確化を図っているところである。

質問3

競馬をはじめとする公営競技は、自宅のパソコンや携帯電話等を用いたインターネットを介しての各種投票券の購入が可能となっており、購入手続のデジタル化によって払戻金額や当該投票券の購入者の態様を捕捉・把握する環境が整いつつあることを踏まえれば、租税の大原則である簡素性や公平性に鑑み、現状の課税関係についても制度見直しの時期にあるのではないかと考えるが、政府の認識を示されたい。

回答(質問3 について)

 御指摘の「競馬をはじめとする公営競技」の払戻金の金額については、当該払戻金に係る源泉、性質等を踏まえ、一についてで述べたとおり、一時所得又は雑所得に係る収入金額に該当するものと考えているところ、当該払戻金に係る源泉、性質等は、課税のため必要な情報の収集に係る環境により変わることはないため、御指摘の「購入手続のデジタル化によって払戻金額や当該投票券の購入者の態様を捕捉・把握する環境が整いつつある」か否かにかかわらず、お尋ねの「現状の課税関係」を変更するような「制度見直し」を行うことは考えていない。

質問4

現状の問題点を踏まえて、有識者からは様々な提言がなされている。これらの提言を基に、以下質問する。

1 一時所得に該当する馬券の購入態様である場合、予想が的中し高額な払戻金を受けた者が、その払戻金から納税資金を確保しなかった、又は、納税資金を確保する必要があることを認識していなかった者にとっては酷な結果になることが予想される。こうした点に鑑みれば、源泉分離課税による源泉徴収制度等の導入を検討する余地があると考えられるが、政府の見解を示されたい。

2 JRA(日本中央競馬会)の馬券の購入金額には国庫納付金が含まれ、馬券購入者はすでに一定の負担を負っている。競馬場や場外馬券売り場で購入する者の所得については何ら捕捉することができないこと等を踏まえると、現状の課税の在り方では水平的公平性を保てないと思われ、宝くじと同様に非課税とすることも考えられるが、政府の見解を示されたい。

3 我が国では昭和十七年に「馬券税」が創設され、昭和二十三年に廃止された。馬券税は、競馬等の主催者が売上の七パーセントと払戻金のうち二十パーセントを国に納付する仕組みであり、課税関係を明確化するとの観点から、払戻金を所得税非課税とした上で馬券税を導入することも考えられるが、政府の見解を示されたい。

回答(質問4 及び質問5 について)

 所得税は、全ての所得を課税対象とすることを基本的な原則としており、個人が稼得した収入に係る金額から当該収入を得るために支出した金額等を控除した金額について、当該個人が得た経済的価値である所得と捉え、当該所得に税を負担する能力を見出し、課税するものである。このような考えから、所得税法上、勝馬投票券の払戻金に係る所得についても、他の所得と合算し、課税することとされている。こうした課税上の取扱いについては、所得税基本通達の制定及び改正や、国税庁ホームページ等における周知・広報により、取扱いの明確化と納税者の予測可能性の向上を図っている。また、国税当局においては、様々な機会を通じて課税上有効な各種資料情報の収集に努め、これらの資料情報と提出された確定申告書等を分析し、課税上問題があると認められる場合には、税務調査を行うなどして、適正かつ公平な課税の実現に努めている。こうしたことから、御指摘の「馬券をめぐる課税関係」等について見直しを必要とする問題があるとは考えておらず、御指摘の「源泉分離課税による源泉徴収制度等」を導入すること、「非課税とすること」、「払戻金を所得税非課税とした上で馬券税を導入すること」等を行うことは考えていない。

質問5

前述四の提言のうちいずれかの制度に改めることで、馬券をめぐる課税関係についての予測可能性が高まることから、競馬愛好家が馬券を購入しやすくなり、売上が増加することで結果として政府の収入の増加にもつながる可能性があると考えるが、提言を受け入れて制度見直しの検討を進める考えはあるか。もしなければ現状の問題をどのように改善する考えであるのか、政府の見解を示されたい。

回答(質問4 及び質問5 について)

 所得税は、全ての所得を課税対象とすることを基本的な原則としており、個人が稼得した収入に係る金額から当該収入を得るために支出した金額等を控除した金額について、当該個人が得た経済的価値である所得と捉え、当該所得に税を負担する能力を見出し、課税するものである。このような考えから、所得税法上、勝馬投票券の払戻金に係る所得についても、他の所得と合算し、課税することとされている。こうした課税上の取扱いについては、所得税基本通達の制定及び改正や、国税庁ホームページ等における周知・広報により、取扱いの明確化と納税者の予測可能性の向上を図っている。また、国税当局においては、様々な機会を通じて課税上有効な各種資料情報の収集に努め、これらの資料情報と提出された確定申告書等を分析し、課税上問題があると認められる場合には、税務調査を行うなどして、適正かつ公平な課税の実現に努めている。こうしたことから、御指摘の「馬券をめぐる課税関係」等について見直しを必要とする問題があるとは考えておらず、御指摘の「源泉分離課税による源泉徴収制度等」を導入すること、「非課税とすること」、「払戻金を所得税非課税とした上で馬券税を導入すること」等を行うことは考えていない。

質問6

現行所得税法は十種類の所得区分の規定を置いているが、その区分の基準や考え方は必ずしも一様ではなく、税制として分かりにくいという問題点があるほか、実務上の問題や執行上の混乱が少なくないとの指摘もある。例えば、一時所得と雑所得については、双方の特別控除や課税制度を廃止した上で「その他所得」として同一の所得区分に統合するなど、簡素でわかりやすい税制を目指し、所得区分についても時代に即した見直しを行うべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

回答(質問6 について)

 所得税法においては、所得がその源泉、性質等により十種類に分類され、各所得区分に応じた課税標準の計算方法等が定められている。この所得区分の見直しについては、令和元年五月三十日の参議院財政金融委員会において、麻生財務大臣(当時)が「この十種類の所得区分というものをベースとした所得税の仕組みというのは、長年にわたってこれ定着しているものでもありますので、所得区分の在り方というものにつきましては、これは納税者への影響等々・・・を見極めつつこれは今後も慎重に対応すべきもの、これは前からお答え申し上げているとおりであります」と答弁したとおりである。