諫早湾干拓開門問題の解決及び有明海の再生に向けた国の取組姿勢に関する質問主意書
質問1
国は、平成二十九年四月二十五日の農林水産大臣談話の中で「有明海の再生を速やかに進めるため、改めて(諫早湾潮受け堤防の)開門によらない基金による和解を目指す」方針を示した。令和五年三月二日の農林水産大臣談話(以下「令和五年の大臣談話」という。)の中でも「平成二十九年の農林水産大臣談話の趣旨を踏まえ」るとしており、今日までその方針を堅持している。令和六年二月十四日には佐賀、福岡、熊本の三県の漁業者団体代表者が坂本農林水産大臣と面談し、過去の開門訴訟の中で国が示していた総額百億円の基金の創設を前提に、令和五年の大臣談話への賛同の文書を手渡したとされる。しかし、中長期開門調査を行わずに有明海再生は本当に達成できるのか。できるとすればなぜそう言えるのか。自然は自然の法則にしか従わないことに鑑み、純粋な科学の視点から政府の見解を明らかにされたい。
回答(質問1 について)
お尋ねの「中長期開門調査を行わずに有明海再生は本当に達成できるのか」については、有明海及び八代海等を再生するための特別措置に関する法律(平成十四年法律第百二十号)第二十四条に基づき設置され、同法第二十六条に基づき環境の保全及び改善又は水産資源の回復等に関し十分な知識と経験を有する者で構成される有明海・八代海等総合調査評価委員会の令和四年三月の中間取りまとめに示されているとおり、「平成二十八年度委員会報告以降、・・・気候変動に伴う気温や水温の上昇、豪雨やそれに伴う大規模出水等による影響も顕在化している状況」であることから、現時点において具体的な見通しをお示しすることは困難である。
一方で、同委員会の平成二十九年三月の報告においては、「再生に向けた方策(再生方策)等の考え方」として、「必要な調査・研究・評価(モニタリング等)を適切に行い、得られた情報や科学的知見を再生目標の達成状況等の確認及び対策の検討のためにフィードバックを行う。すなわち、予想外の事態が起こり得ることを予め環境施策のシステムに組み込み、常にモニタリングを行いながら、その結果に基づいて対応を変化させる「順応的な方法」により、多くの関係者と協働し、総合的に諸施策を進めていく必要がある」こととされ、また、「有用二枚貝に係る方策」として、「二枚貝について、海域毎の主な減少の原因・要因及び海域間の相互関係(浮遊幼生の輸送等のネットワーク)を把握したうえで、海域毎の状況に応じ、一)浮遊幼生の量を増やす、二)着底稚貝の量を増やす、三)着底後の生残率を高める、の各ステージについて適切な対策を講ずる」こととされており、政府としては、これらを踏まえ、有明海沿岸各県と協力し、例えば、アサリについては母貝の保護等の取組を行っているところ、農林水産省が有明海沿岸各県に委託して実施した調査の結果によれば、令和五年度秋季の浮遊幼生は約七万二千個体となり、秋季の浮遊幼生の調査を開始した平成二十七年度から令和四年度までの平均より多く出現したと承知しているところである。
質問2
報道によれば、佐賀県有明海漁協幹部が令和五年の大臣談話に係る国の提案に同意する決定をした理由として、佐賀県有明海漁協の西久保組合長は「司法判断が非開門で統一されてしまった以上、仕方ない。」という趣旨の説明をしている。しかし、司法判断が非開門で統一されたわけではなく、引き続き国に開門義務があることは令和五年十一月八日の衆議院農林水産委員会でも確認されている。漁業者団体の受止めは間違った認識を基に導かれたものである。同年三月一日の最高裁判所の上告棄却決定、上告不受理決定によって確定した令和四年三月の福岡高等裁判所の請求異議訴訟差戻控訴審判決の付言では「双方当事者や関係者の前記諸問題の全体的・統一的解決のための尽力が強く期待される」と述べている。さらに言えば、令和三年四月二十八日に福岡高等裁判所が示した「和解協議に関する考え方」においては、「とりわけ、本件確定判決等の敗訴当事者という側面からではなく、国民の利害調整を総合的・発展的観点から行う広い権能と職責を有する控訴人の、これまで以上の尽力が不可欠であり、まさにその過程自体が今後の施策の効果的な実現に寄与する」と指摘し、非開門が話し合いの前提として和解協議を拒否する国の姿勢を強く叱責している。
漁業者団体が求める基金による有明海再生において非開門を前提とする合理的理由は無く、開門の是非にかかわらず基金による再生策を行うべきではないか。否というのであれば、非開門前提を良とする合理的理由を明らかにされたい。
回答(質問2 及び質問3 について)
農林水産省からよみがえれ!有明訴訟弁護団に宛てた令和五年十一月二十七日付けの書簡で述べているとおり、同省は「「開門によらない有明海再生の取組を進める」とした平成二十九年農林水産大臣談話の趣旨を踏まえつつ、話し合いにより、関係者が合意し、協働して実施する取組を後押しする必要な支援を講ずるべく」、令和五年三月二日の農林水産大臣談話「への賛同の働きかけを行っているところ」であり、御指摘の「確定した開門請求権を持つ原告漁民が非開門に同意しない場合」との仮定を前提としたお尋ねにお答えすることは差し控えたい。その上で、同談話で述べているとおり、平成二十二年十二月六日の福岡高等裁判所の判決「が確定した後、国は開門義務の履行に向けて、最大限の努力を重ね」たが、「結果としてその履行をなし得」なかったこと、令和五年三月一日の最高裁判所の決定により、同判決「に基づく強制執行は、これを許さない」とした令和四年三月二十五日の福岡高等裁判所の判決が確定したことを踏まえ、諫早湾周辺の農業者、地域住民等が抱える将来の農業経営や日常生活の安全・安心に対する不安を払拭するとともに、漁業者を始めとする有明海沿岸の関係者に共通する思いである有明海の再生を速やかに進めるため、開門によらない有明海再生を目指すことが最良の方策との考えの下、御指摘の「基金による」ものか否かにかかわらず、「国民的資産である有明海を豊かな海として再生させる」ための取組を進めてまいりたい。
質問3
国は、令和五年十一月二十七日に原告漁民側に示した文書の中で、令和五年の大臣談話への賛同が話し合いの前提との立場を示し、「開門によらない有明海再生の取組を前提とするという趣旨」と述べて、非開門に同意することが話し合いの前提という立場を示している。しかし、令和五年の大臣談話や十一月二十七日付けの文書は国の考えを述べたものであり、それが前提という姿勢は話し合いの名に値しない一方的な押しつけである。確定した開門請求権を持つ原告漁民が非開門に同意しない場合、国が方針を変えない限り「話し合いの場」は実現しないが、国はどのような方策で諍いの解決を図るのか。国には諍いを解決する責務があり、福岡高等裁判所の「和解協議に関する考え方」に照らした真摯な姿勢が求められることを踏まえた回答を求める。
回答(質問2 及び質問3 について)
農林水産省からよみがえれ!有明訴訟弁護団に宛てた令和五年十一月二十七日付けの書簡で述べているとおり、同省は「「開門によらない有明海再生の取組を進める」とした平成二十九年農林水産大臣談話の趣旨を踏まえつつ、話し合いにより、関係者が合意し、協働して実施する取組を後押しする必要な支援を講ずるべく」、令和五年三月二日の農林水産大臣談話「への賛同の働きかけを行っているところ」であり、御指摘の「確定した開門請求権を持つ原告漁民が非開門に同意しない場合」との仮定を前提としたお尋ねにお答えすることは差し控えたい。その上で、同談話で述べているとおり、平成二十二年十二月六日の福岡高等裁判所の判決「が確定した後、国は開門義務の履行に向けて、最大限の努力を重ね」たが、「結果としてその履行をなし得」なかったこと、令和五年三月一日の最高裁判所の決定により、同判決「に基づく強制執行は、これを許さない」とした令和四年三月二十五日の福岡高等裁判所の判決が確定したことを踏まえ、諫早湾周辺の農業者、地域住民等が抱える将来の農業経営や日常生活の安全・安心に対する不安を払拭するとともに、漁業者を始めとする有明海沿岸の関係者に共通する思いである有明海の再生を速やかに進めるため、開門によらない有明海再生を目指すことが最良の方策との考えの下、御指摘の「基金による」ものか否かにかかわらず、「国民的資産である有明海を豊かな海として再生させる」ための取組を進めてまいりたい。