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がん治療を必要とする高校生が治療と高校生活を両立するための支援に関する質問主意書

会派 立憲民主党
議案提出者 青柳陽一郎
公式リンク 第213回国会 / 質問 答弁

平成二十八年に改正された「がん対策基本法」第二十一条においては、「国及び地方公共団体は、小児がんの患者その他のがん患者が必要な教育と適切な治療とのいずれをも継続的かつ円滑に受けることができるよう、必要な環境の整備その他の必要な施策を講ずるものとする」と規定され、がん患者の学習と治療の両立について明記された。

平成三十年三月に閣議決定された「第三期がん対策推進基本計画」においては、小児・AYA世代(思春期・若年成人)のがん患者のサポート体制は必ずしも十分なものでなく、特に、高等学校教育の段階における取組が遅れていることが指摘されており、小児・AYA世代のがん患者が治療を受けながら学業を継続できるよう、入院中・療養中の教育支援、退院後の学校での受入れ体制の整備等の教育環境の更なる整備が求められるとされた。これを受けて、文部科学省の調査研究や厚生労働科学研究等が行われているが、国立がん研究センターが令和三年三月に公表した「小児患者体験調査(令和元年度調査)」によれば、治療開始前に、教育支援等について医療従事者から説明があったと回答した割合は、小・中学校では八割程度であったのに対して、高等学校では逆に説明がなかったとの回答が六割を超すなど、高等学校段階のがん患者に対する学習と治療を両立するための支援体制の強化は喫緊の課題であると言える。

これを踏まえ、次の事項について質問する。

質問1

令和三年度に「高校生活とがん治療の両立のための教育サポートブック」(厚生労働科学研究費補助金)が作成された。本成果物には、病気の負担の上に高校生活への復帰や進級・進学等に対する不安も抱える高校生のため、患者である高校生、保護者、学校関係者、医療関係者、教育委員会等の連携によるサポート体制の構築方法や、入院中から退院後の学習を継続し、安心して高校生活を送るための情報が記載されている。

1 本成果物は、いかなる現場で実際に配布・周知されているのか。また、配布・周知のため、関係機関においてどのような体制が採られているのか。政府として把握されているところを明らかにされたい。

2 現在のような配布・周知により、支援を必要とする患者である高校生、保護者等に対して十分かつ適時に本成果物が行き渡っていると考えているのか。

3 文部科学省と厚生労働省は、本成果物の公開や関係機関への共有の際、何らかの連携をしているのか。

回答(質問1 の1及び3について)

 御指摘の「高校生活とがん治療の両立のための教育サポートブック」(以下「教育サポートブック」という。)を含む厚生労働科学研究費補助金によるがん対策推進総合研究事業「AYA世代がん患者に対する精神心理的支援プログラムおよび高校教育の提供方法の開発と実用化に関する研究」(以下「本件研究」という。)において作成された成果物(以下「本件成果物」という。)の「配布・周知」については、本件研究の令和元年度から令和三年度までの「厚生労働科学研究費補助金(がん対策推進総合研究事業)総合研究報告書」において、「成果物を全国のがん診療連携拠点病院および小児がん拠点病院、小児がん連携病院の相談支援センター、関連診療科、看護部等へ、好事例集と教育サポートブックは教育関係機関にも郵送配布し、研究班のホームページにおいてもpdfを無料ダウンロードできるようにした。また、公開Webシンポジウムを開催し、普及啓発を行った」と記載されているとおりであるほか、令和四年一月三十一日に開催された文部科学省の「令和三年度高等学校段階の病気療養中等の生徒に対するICTを活用した遠隔教育の調査研究事業中間成果報告会」において、本件研究の代表者と連携して、各都道府県教育委員会等の担当者に対し、教育サポートブックの周知を図るとともにその活用を促したところであり、このように配布し、周知した本件成果物については、その配布先において適切に活用されているものと考えている。

回答(質問1 の2について)

 本件成果物については、一の1及び3についてで述べたとおり、配布先において適切に活用され、御指摘の「支援を必要とする患者である高校生、保護者等」への周知も図られているものと考えているが、小児がんの患者が必要な教育と適切な治療とのいずれをも継続的かつ円滑に受けることができるよう、必要な環境の整備を図ることが重要であると考えており、教育サポートブックについても、一層の周知に努めてまいりたい。

質問2

文部科学省が令和元年度及び令和二年度に実施した「高等学校段階における入院生徒に対する教育保障体制整備事業」においては、高等学校段階の入院生徒に対する教育保障体制の整備に係る調査研究を、合わせて八地域の都道府県・政令指定都市教育委員会等に委託したが、この成果に関し、他の都道府県教育委員会等や高等学校が参考とし、患者である高校生が必要な支援を受けることができるよう、文部科学省は何らかのフォローアップを行ったのか。

回答(質問2 について)

 お尋ねの「何らかのフォローアップ」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、御指摘の「高等学校段階における入院生徒に対する教育保障体制整備事業」の成果については、各都道府県教育委員会等の担当者が参加する会議などにおいて周知を図るとともに、文部科学省のウェブサイトにおいて公開している。また、令和四年度に実施した「令和四年度病気療養児に関する実態調査」において、疾病による療養のため、相当の期間高等学校を欠席すると認められる生徒(以下「療養中の高校生」という。)に対する支援の状況等について把握し、その結果を公表するとともに、各都道府県教育委員会等に対して「「病気療養児に関する実態調査」及び「特別支援教育体制整備状況調査等」の結果について(周知)」(令和五年十月二十七日付け文部科学省初等中等教育局特別支援教育課事務連絡)を発出し、療養中の高校生の教育の機会の保障を図るよう促しているところである。

質問3

令和五年三月に閣議決定された「第四期がん対策推進基本計画」においては、教育支援の充実に向け、医療従事者と教育関係者との連携に努めるとともに、療養中に教育を必要とする患者が適切な教育を受けることのできる環境の整備、就学・復学支援等の体制の整備を行うこととされたが、今後、具体的にどのような取組を進めるのか。

回答(質問3 について)

 お尋ねについては、「がん対策推進基本計画」(令和五年三月二十八日閣議決定。以下「基本計画」という。)を踏まえ、学校教育法施行規則第八十八条の三の規定に基づき、高等学校、中等教育学校の後期課程又は特別支援学校の高等部が履修させることができる授業について定める件(平成二十七年文部科学省告示第九十二号。以下「平成二十七年告示」という。)の一部を改正し、在籍校において事前に収録された授業を、インターネット等のメディアを活用して、療養中の高校生が視聴したい時間に受講することを可能としたところであり、また、令和五年度から実施している「病気療養中等の児童生徒に対するオンデマンド型の授業に係る調査研究事業」を通じて、医療従事者や教育関係者が連携しつつ、療養中の高校生が在籍校に登校できるようになった後も在籍校において切れ目なく教育を受けるための支援の在り方等についての調査研究を行っているところであり、この研究成果等を踏まえ、療養中の高校生に対する支援の取組を進めてまいりたい。

質問4

文部科学省令の改正により、令和五年四月から、病気療養中の生徒等に対する事前に収録した授業動画を視聴するオンデマンド型の授業による単位認定も可能とされたが、病院等における視聴のための環境整備等について、いかなる取組を実施しているのか。また、在宅で療養する場合にも受講できる環境整備等については、いかなる取組を実施しているのか。

回答(質問4 について)

 お尋ねの「病院等における視聴のための環境整備等」及び「在宅で療養する場合にも受講できる環境整備等」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、御指摘の「文部科学省令の改正」については、平成二十七年告示の改正のことを指すと考えられるところ、文部科学省においては、三についてで述べたとおり平成二十七年告示を改正するとともに、「高等学校等の病気療養中等の生徒に対するオンデマンド型の授業に関する改正について(通知)」(令和五年三月三十日付け四文科初第二千五百六十三号文部科学省初等中等教育局長通知。以下「令和五年通知」という。)を各都道府県教育委員会等に発出し、療養中の高校生の教育の機会の保障を図るため、ICTを活用した教育を受けることができる環境の整備を促しているところである。また、「小児がん拠点病院等の整備に関する指針」(令和四年八月一日付け健発〇八〇一第十七号厚生労働省健康局長通知別添)において、「教育課程によらず、切れ目のない教育支援のためにICT(情報通信技術)等を活用した学習活動を含めた学習環境の整備を進めること」等を小児がん拠点病院の指定要件として示しているところである。

質問5

高等学校は義務教育ではないため、治療のために特別支援学校等に転校した場合に元に戻れる保証がないことや、そもそも高等部のある特別支援学校が少ないことなど、義務教育段階とは異なる難しさがある。このような高等学校段階の特性を踏まえ、今後、がん治療を必要とする高校生に対して、国はどのような支援策を推進していくつもりか。

回答(質問5 について)

 文部科学省においては、四についてで述べたとおり、令和五年通知を各都道府県教育委員会等に発出し、療養中の高校生の教育の機会の保障を図るための取組を促しているところであるが、高等学校段階においては、療養中の高校生が特別支援学校に転学しないことが多いこと及び基本計画において「療養中に教育を必要とする患者が適切な教育を受けることのできる環境の整備、就学・復学支援等の体制整備を行う」としていることを踏まえ、令和五年度から実施している「病気療養中等の児童生徒に対するオンデマンド型の授業に係る調査研究事業」等を通じて、特別支援学校に転学せず在籍校においてICTを活用した教育を受けることができる環境の整備を進めるなど、療養中の高校生に対する支援の取組を進めてまいりたい。