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岸田内閣の財政運営規律と増税緊縮路線等に関する質問主意書

会派 立憲民主党
議案提出者 原口一博
公式リンク 第213回国会 / 質問 答弁

質問1

令和五年十一月二十日付けの衆議院議員原口一博君提出岸田内閣の財政運営規律と増税緊縮路線等に関する質問に対する答弁書(以下「答弁書」という。)の一において、「御指摘の「金利上昇が懸念される中で、基金への巨額の拠出は利払いを通じて国民負担を増加させることにつながる懸念」の意味するところが明らかではなく、お尋ねについてお答えすることは困難である」と答弁しているところであるが、政府は、国債の利払費の算出に使う想定金利を令和六年度当初予算案において前年度より引き上げており、政府自身も、金利が上昇する可能性を想定していると判断できる。

そして、財務省「令和五年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」では、仮に金利が一%上昇した場合には、令和八年度に三・六兆円国債費が増額するとの試算が示されている。我が国は財政赤字であるから基金への拠出は国債を財源としており、金利上昇により利払費が増加すれば、国民の負担が増すことになると考えられる。このような懸念について政府の見解を伺いたい。

回答(質問1 について)

 予算制度として、歳出項目の全てが個別に特定の歳入項目をもって充てられているわけではなく、御指摘のように「基金への拠出は国債を財源として」いるとの考え方はとっていない。その上で、一般論として、国債の金利が上昇すれば、利払費の増大により、財政の硬直化や、御指摘の「国民の負担」の増加につながるおそれがあると認識している。

 なお、基金については、それぞれの事業を基金方式により実施することの必要性について、個々の事業の性質に応じて適切に判断した上で、必要な予算を措置しており、引き続き基金事業の適正化に取り組んでまいりたい。

質問2

「答弁書」の四の2において、「「税収の増収分の一部を国民に「還元」する」ための財源」の在り方については、令和六年度予算の編成過程において検討していくこととしており、現時点でお答えすることは困難であると答弁している。

令和六年一月現在で令和六年度予算案は閣議決定されていることから、その編成過程において検討するとされていた「「税収の増収分の一部を国民に「還元」する」ための財源」がどのように確保されたのか、政府の見解を明らかにされたい。

回答(質問2 について)

 お尋ねの「「税収の増収分の一部を国民に「還元」する」ための財源」については、予算制度として、歳出項目の全てが個別に特定の歳入項目をもって充てられているわけではないが、令和六年度予算の編成に当たっては、今般の定額減税の実施に伴う所得税の減収や、地方特例交付金による個人住民税の減収の補塡等の影響も織り込んで、歳入歳出予算の各項目を計上しているところである。

質問3

「答弁書」の六において、「消費税の還付税額のうち輸出を原因としたものを区分して、その金額及び還付税額全体に占める割合を示すことは、消費税の申告手続において、還付税額のうち輸出を原因としたものを内訳として記載する必要がある等、事業者に多大な事務負担を課すこととなるため、困難である」と答弁している。

しかし、税の還付を受けるのであれば、その具体的な金額を明らかにすることは、納税者たる国民に対する説明責任を果たすという点でも重要であり、そのための事務負担はやむを得ないものであると考えるが、「多大」な負担とは具体的にどのようなものなのか、政府の見解を示されたい。

回答(質問3 について)

 消費税の申告手続において還付税額を原因ごとに区分して、その金額及び還付税額全体に占める割合を示すためには、一つ一つの課税仕入れ(消費税法(昭和六十三年法律第百八号)第二条第一項第十二号に定める「課税仕入れ」をいう。以下同じ。)について、国内において行う課税資産の譲渡等(同法第二条第一項第九号に定める「課税資産の譲渡等」をいう。以下同じ。)のうち、輸出取引(課税資産の譲渡等のうち同法第七条第一項各号に掲げるものをいう。以下同じ。)に係るものであるか、国内取引(課税資産の譲渡等のうち輸出取引以外のものをいう。以下同じ。)に係るものであるかを区分する必要が生じるほか、光熱費や販売管理費のように輸出取引と国内取引に共通する課税仕入れについては、何らかの基準で輸出取引に係るものと国内取引に係るものとにあん分する必要がある等、多大な事務負担を事業者に課すことになると考えている。

質問4

「答弁書」の七において、安倍内閣総理大臣(当時)の答弁を引用し「派遣労働者の受入れ企業は、派遣料に係る消費税額を控除できることになりますが、一方で、人材派遣会社に対しては派遣料に上乗せして消費税を支払うことになるため、直接雇用の場合と比べて損得は生じない」としている。この答弁は、派遣料に消費税が確実に転嫁できていることを前提としている。しかし、令和五年五月十五日の衆議院決算行政監視委員会において、里見隆治経済産業大臣政務官が「消費税に限らず、コストが上昇する際に、交渉力の強い事業者と弱い事業者の間では、構造的にその上昇分を転嫁することが難しいという問題があるという認識」がある旨の答弁をしている。この問題は、派遣労働者の受入れ企業と人材派遣会社との間でも同様に存在すると考えられ、消費税が派遣料に転嫁されず、派遣労働者の受入れ企業が派遣料に係る消費税の支払額を抑えられるという構造があると思われるため、非正規労働者の増加に繋がっていると考えられる。このような非正規労働者の増加を招く仕組みとなっている消費税を社会保障の財源とするのは不適切と考えるが、再度、政府の見解を問う。

回答(質問4 について)

 ある労働者に係る報酬を、給与として労働者に直接支払うか、労働者派遣の対価に消費税相当額を上乗せして人材派遣会社に支払うかの選択について消費税は中立的であり、仮に人材派遣会社に支払う金額が、給与として労働者に直接支払う場合の金額に消費税相当額を上乗せした金額を下回るとすれば、労働者派遣の対価そのものが引き下げられたと考えられる。

 また、厚生労働省が令和元年に実施した「令和元年就業形態の多様化に関する総合実態調査」によると、派遣労働者がいる事業所が派遣労働者を活用する理由は、回答があった事業所の割合が多い順に、「正社員を確保できないため」が四十七・八パーセント、「即戦力・能力のある人材を確保するため」が三十三・三パーセント、「正社員を重要業務に特化させるため」が二十七・一パーセント、「臨時・季節的業務量の変化に対応するため」が二十五・二パーセントとなっており、派遣労働者の受入企業においては、業務の必要性から派遣労働者を活用しているものと考えられる。

 こうしたことから、消費税が「非正規労働者の増加を招く仕組みとなっている」との御指摘は当たらず、御指摘の「消費税を社会保障の財源とする」ことは不適切であるとは考えていない。

質問5

「答弁書」の十において、政府としては、「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(令和四年一月十九日財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省公表)の作成等の対応を行っており、引き続き、事業者の方々が不当な取扱いを受けないよう、取引環境の整備に万全の対応を図るとしている。しかし、政府は過去の消費税率引上げに際し、消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法(平成二十五年法律第四十一号。以下「価格転嫁特措法」という。)で私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号。以下「独占禁止法」という。)の規定を適用しないとする措置を施すという対策を講じていた。

現在、価格転嫁特措法は失効している状態であり、新規課税事業者が団結して消費税の転嫁についてのカルテルを形成した場合に、「一般論として、事業者が共同して取引価格を引き上げるというようなことは、独占禁止法上の不当な取引制限として問題となる可能性がある」と政府は答弁している。

アニメーター、フリーライター等の様々な業種の個人事業主は、個別に取引先と価格交渉しづらいため、団体、組合等を構築して連携せざるを得ず、これは価格転嫁特措法がないとカルテルに該当し独占禁止法違反になるおそれが生じると考えられる。独占禁止法の規定を適用しないとする措置を講じないのであれば、政府が過去に価格転嫁特措法で措置を講じてきた対応と整合性が取れないと考えるが、政府の認識を再度伺いたい。

回答(質問5 について)

 お尋ねについては、今般のインボイス制度の導入においては、制度の導入後も免税事業者から課税事業者となる事業者は一部であると想定される上に、個々の免税事業者によって、課税事業者になった際に必要な消費税の価格への転嫁の程度も異なるなど、その影響は、御指摘の「消費税率引上げ」時と異なり、個々の事業者によって様々であると考えられるため、事業者が共同して行う消費税の価格への転嫁について、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)の規定を適用しないとする措置は講じないこととしたものである。

質問6

答弁書の十一において、「お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではない」とのことであるが、「リスク」という用語については政府も度々使用しているところであり、例えば、鈴木財務大臣は令和五年二月十四日の閣議後記者会見で、「世界経済の下振れリスクを乗り越えて、日本経済を再生するため」といった発言をしているし、財務省国際局作成の「最近の国際金融情勢について(令和五年十一月十日)」においても、世界経済に様々な下方リスクがある旨の記載がなされている。

米国の財政リスクに対し、「金融・為替市場に不測の影響を与えるおそれがあるため、政府としてお答えすることは差し控えたい。」とのことであるが、上記のとおり、これまで世界経済のリスクについて政府は述べているにもかかわらず、今回、米国の財政リスクについて、答弁を行わない理由について伺いたい。

また、令和四年度末時点で本邦には約四百十八・六兆円の対外純資産残高があり、多額の米ドル建て資産残高があると想定される。米国財政の悪化により米ドル価格が下落すれば本邦の米ドル建て資産の価値も下落することになる。このような懸念について政府の見解を明らかにされたい。

回答(質問6 について)

 前段のお尋ねについては、政府として内外の様々なリスクを念頭に経済財政運営を行っているが、お尋ねの「米国の財政リスク」の評価やその影響について述べることは、金融・為替市場に不測の影響を与えるおそれがあるため、お答えすることは差し控えたい。

 また、後段のお尋ねについては、一般論として、為替が円高に進めば外貨建て対外資産残高の円建て評価額は減少するが、そうした懸念や今後の見通し等について述べることは、金融・為替市場に不測の影響を与えるおそれがあるため、政府としてお答えすることは差し控えたい。