イスラエル及びガザ情勢に対する我が国の姿勢に関する質問主意書
二〇二三年十月七日にハマス等パレスチナ武装勢力がイスラエルへの攻撃を行い、これに対して、イスラエル国防軍がガザ地区において攻撃を開始してから三か月以上が経過した。この間、イスラエルの攻撃によってガザ地区において死者は二万五千名を超え、さらに、食糧不足が深刻化し、衛生環境も悪化するなど人道状況が危機に瀕している。そのような状況において、我が国は、ガザ地区への支援は行っているが、イスラエルの攻撃に対して非難することがないため、アラブ諸国では我が国の姿勢に対して疑念が生じている。そこで、我が国のガザ情勢に対する認識及び姿勢について、以下質問する。
質問1
我が国に滞在する在京アラブ代表団は、二〇二三年十一月三日、イスラエルとイスラム組織ハマスの「即時停戦」を求める声明を発表した。その際の記者会見で、団長を務める駐日パレスチナ常駐総代表部大使は、停戦を呼びかけるために日本の影響力を行使するよう求めるとともに、イスラエル軍がガザ地区北部の難民キャンプを連日空爆したことについて「ジェノサイドであり、パレスチナ人を根絶しようとしている。」と非難した。このようにイスラエルによるガザ地区への攻撃は「ジェノサイド」との認識が広がっており、二〇二三年十二月には南アフリカ共和国が、イスラエルの行為はジェノサイド条約(集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約)に違反しているとして国際司法裁判所に提訴し、二〇二四年一月十一日に審理が開始された。
上川外務大臣は記者会見等で、ハマス等によるテロ攻撃を断固として非難するとするが、イスラエルの攻撃については、「イスラエルが主権国家として、自国及び自国民を守る権利を有することは当然」とし、「一般論として、こうした権利は、国際法に従った形で行使されるべき」であると述べるのみで、イスラエルを非難していない。イスラエルの攻撃によりガザ地区のパレスチナ市民が多数殺害されていることは事実であり集団殺害と呼べることから、以下について質問する。なお、我が国がジェノサイド条約に加入していないこと及び加入していない理由に関する政府答弁は承知している。
1 イスラエルの攻撃は、アラブ諸国はもとより我が国においても「自衛権の範囲を超えている」と非難する声が聞かれるが、政府はイスラエルの攻撃を自衛権の範囲内であると考えているのか。政府の述べる「自国及び自国民を守る権利」は国際法上の「自衛権」と同義であるかを含めた答弁を求める。
2 政府は、現在のイスラエルの攻撃を「国際法に従った形で行使されて」いると認識しているか。
3 政府は「ジェノサイド」をどのように定義しているのか。
4 政府がイスラエルの攻撃を「ジェノサイド」と呼ばない理由は何か。
回答(質問1 の1、2及び4について)
御指摘の「国際法上の「自衛権」」の具体的に意味するところが明らかではないため、「同義であるか」とのお尋ねにお答えすることは困難であるが、国際連合憲章(昭和三十一年条約第二十六号)第五十一条は、「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない」と規定していること、一般国際法上、国家は、自国又は自国民に対する武力攻撃に至らない侵害に対し、これを排除するために実力を行使することが認められる場合があること及び国際司法裁判所(以下「ICJ」という。)が二千四年七月九日に発表した「パレスチナ占領地における壁建設の法的帰結に関する勧告的意見」において、イスラエルの住民に対して多数の暴力行為が生じている中で、同国には自国の市民の生命を守るために対処する権利がある旨述べられていることを踏まえ、我が国として、これらを総合的に勘案し、イスラエルが国際法に従って自国及び自国民を守る権利を有すると認識している。
その上で、今般の同国による行動については、事実関係の十分な把握が困難であり、我が国として、お尋ねについて、確定的に評価することは困難であるが、いずれにせよ、当事者による全ての行動は、いかなる場合でも、国際人道法を含む国際法に基づいて行われなければならないものであると考えている。
なお、今般のイスラエルによる行動については、令和五年十二月二十九日に、南アフリカ共和国が、ガザ地区のパレスチナ人に関するイスラエルによる行動が集団殺害犯罪の防止及び処罰に関する条約(以下「ジェノサイド条約」という。)に違反するとして、同国をICJに提訴しており、今般の同国による行動がジェノサイド条約上の集団殺害犯罪に当たるか否かが、今後、当該提訴によりICJにおいて審理されると承知しているところ、引き続き、我が国としてこうした動向を注視していく考えである。
回答(質問1 の3について)
ジェノサイド条約及び国際刑事裁判所に関するローマ規程(平成十九年条約第六号)において、「集団殺害犯罪」とは、「国民的、民族的、人種的又は宗教的な集団の全部又は一部に対し、その集団自体を破壊する意図をもって行う」殺害等の行為と定義されていると承知している。
質問2
二〇二三年十一月十一日、アラブ連合及びイスラム協力会議が合同の臨時首脳会議を開催して、「イスラエルによるガザ地区への報復攻撃は戦争犯罪であり、悲惨な影響を生むことについて警告する」とし、即時停戦を求める決議を行ったが、同会議では「西側諸国は白人国・ウクライナの侵攻には強い反応を示したのに対して、ガザ戦争では消極的であり、ダブルスタンダードである。」との主張があり、一部の国は原油の禁輸を訴えたとされる。
ウクライナ危機における対ロシア制裁によりロシアからの輸入禁止措置が取られたことで、我が国の原油の中東地域への依存度は、二〇二三年五月、六月には九十七%に達している。政府は、従来から石油・天然ガス等の供給源の多角化を進めるとしているが、全く多角化になっていないどころか、中東依存度がますます高くなっているのが現状である。そのような状況において、実際に中東諸国が禁輸に踏み切った場合、我が国のエネルギーの供給は行き詰まることが明白であるため、以下について質問する。
1 中東諸国が原油の禁輸措置を取る可能性について、政府はどのように認識しているか。一九七三年の第四次中東戦争の際にアラブ石油輸出国機構(OAPEC)がイスラエルを支援する国々に対して原油の禁輸措置を取ったこと、及び二〇二三年八月に東京電力福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の海洋放出に伴って中国が日本産水産物の全面輸入停止措置を取ったことが政府内で想定外だったとされていることを踏まえた見解を求める。
2 石油・天然ガス等の供給源の多角化に向けて具体的にどのような取組を行い、どのような成果を上げているか。
回答(質問2 について)
現時点においては、御指摘のように「中東諸国」が我が国に対して「原油の禁輸措置を取る」ことを検討しているとは承知していないが、いずれにせよ、あらゆる事態を想定しながら、いかなる国際情勢の下においても、我が国におけるエネルギーの安定供給が確保されるよう、政府としては、これまで、例えば、サウジアラビア等の中東の産油国との関係を強化し、我が国へのエネルギーの安定供給に対するコミットメントを確認してきているほか、石油、天然ガス等の供給源の多角化に向けて、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構による我が国企業に対するリスクマネーの供給を通じた支援等を行い、当該支援等を受けた当該我が国企業が、アゼルバイジャン、オーストラリア、インドネシア、カナダ、米国等において石油又は天然ガスの権益を獲得する等の成果を上げてきているところである。引き続き、これらの取組を行ってまいりたい。