地方における農業の振興と農村地域の活性化に関する質問主意書
日本の農業は、近年の異常気象による品質の低下や収量の減少によりその経営に大きな影響をもたらしている。また、食料自給率が低く、多くを輸入に頼る日本においては、世界的な人口増加や気候変動の影響、あるいは外国の政情不安等に伴う食料生産の不安定化等により、我が国の食料安全保障を取り巻く環境は激変している。
更に、農業従事者も減少の一途であり、確実な食料供給体制の確保と農地等の保全が喫緊の課題である。そのためにも、早急な課題解決のための措置を講ずるべきと考える。
質問1
複雑化、多様化する国際情勢の中で、食料自給率が低く、多くの食料を輸入に頼っている我が国において、将来にわたって安定的に食料を確保するためには、食料自給率を高めることが不可欠である。そのためには現在輸入している農作物の増産をはじめとした農業生産体制を確立しなければならないことから、農地の集積や大規模化、農業経営の複合化や輸出等に取り組む意欲ある農業経営体等に対して、農産物価格の変動に応じた所得補償を行い、農業所得の安定化を図るべきと考えるが政府の見解を伺う。
回答(質問1 について)
お尋ねの「農産物価格の変動に応じた所得補償を行い、農業所得の安定化を図る」ことの具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、一般論としては、農業者の所得を補償する施策については、農業経営の改善に向けた取組を妨げる懸念があること等から、その導入は考えていない。
質問2
農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」であるが、慣行農業と比較して有機農業の収量は少ない傾向にあり、環境負荷の低減には一定のコストも要するところである。
1 適正な価格の形成に向けた取組や直接支払制度の創設等、安定的な農業所得につながる施策の拡充が必要であると考えるが、政府の見解を伺う。
2 有機農業を広めていくためには、農家を支援する有機農業指導員の確保や教育分野等地域の食料システムに取り組む自治体への支援拡充等を図ることも有効であると考えるが、十分な予算措置の必要性について政府の見解を伺う。
回答(質問2 の1について)
御指摘の「安定的な農業所得につながる施策の拡充」の意味するところが必ずしも明らかではないが、令和三年五月に農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」に掲げる目標の実現に向けて、同省においては、環境保全型農業直接支払交付金等により有機農業などの自然環境の保全に資する農業の生産方式を導入した農業生産活動の実施を推進するとともに、農林水産物の生産等における環境への負荷の低減の状況をラベルの貼付等により可視化し、消費者の選択に資する取組を進めている。また、令和五年十二月二十七日に食料安定供給・農林水産業基盤強化本部において取りまとめた「食料・農業・農村基本法の改正の方向性について」において、「食料の価格形成に当たっては、農業者、食品事業者、消費者といった関係者の相互理解と連携の下に、農業生産等に係る合理的な費用や環境負荷低減のコストなど、「食料の持続的な供給に要する合理的な費用」が考慮されるようにしなければならないことを明確化する」としていること等を踏まえ、食料・農業・農村基本法(平成十一年法律第百六号)の一部を改正する法律案の第二百十三回国会への提出に向けて必要な検討を進めているところである。
回答(質問2 の2について)
御指摘の「教育分野等地域の食料システムに取り組む自治体」の意味するところが必ずしも明らかではないが、農林水産省においては、みどりの食料システム戦略推進交付金により、御指摘の「有機農業指導員の確保」に取り組む都道府県や、地域全体で有機農業に取り組む市町村への支援を行っているところであり、引き続き必要な予算の確保に努めてまいりたい。
質問3
近年の異常気象、とりわけ高温化による品質の低下や収量の減少は今後も続くことが想定されることから、高温耐性品種の開発等にも措置を講じられたいと考えるが、品種開発等の措置の必要性について政府の見解を伺う。
回答(質問3 について)
農作物の高温障害として、例えば、米穀の白濁化や果実の着色不良が挙げられ、農林水産省としては、これらの問題に対処する必要があると認識している。このため、同省においては、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構が行う高温の環境下においても白濁しにくい水稲の品種や着色不良が発生しにくいりんごの品種の開発等を支援しているところである。
質問4
法定化された「地域計画」を実質化するためには、新規就農者等の担い手を確保する必要があるため、就農前後の農業技術の習得や生活の安定を見通した研究施設や支援策が不可欠である。そのため今後廃校予定である農業高校の校舎等を国の研修施設として再活用するなどの取組を強化し、関係機関(農業改良普及所や農業高校、大学農学部、JA等)が連携して就農教育カリキュラムを開発し活用することが望まれるが、政府の見解を伺う。
回答(質問4 について)
農林水産省においては、新規就農者育成総合対策により、都道府県や市町村等が行う、新たに就農しようとする者が農業の技術を習得するための研修施設の整備、就農準備段階や経営開始直後の青年就農者を対象とした資金の交付、農業に関する学科を置く高等学校等における企業や他の教育機関、研究機関等の関係機関と連携した教育の実施等について支援を行っているところであり、こうした取組を通じて農業の担い手の育成・確保を推進してまいりたい。
質問5
水田活用直接支払金交付対象の水田の見直しが図られているところであるが、農業所得の安定化のため、戦略的作物助成交付単価や産地交付金分配単価、畑地化促進助成支援単価の充実を図るべきであると考えるが、政府の見解を伺う。
回答(質問5 について)
御指摘の「戦略的作物助成交付単価や産地交付金分配単価、畑地化促進助成支援単価」については、主食用米から麦・大豆といった需要があり、かつ、海外からの輸入に依存している作物への転換等が進むよう設定等をしているところである。
質問6
国は、農村型地域運営組織(農村RMO)の推進、支援をしていくこととしているが、こうした運営組織を軌道に乗せるためには、一律的な補助要件ではなく、地域の現状に応じた補助制度にするべきだが、その支援の具体的な取組について伺う。
回答(質問6 について)
お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、農林水産省においては、御指摘の「農村型地域運営組織(農村RMO)の推進、支援」に当たり、農村型地域運営組織形成推進事業により、中山間地域等において、複数の集落が、地域の実情に応じて、自治会等を含めた多様な主体の連携・協働により、農地保全対策又は地域資源の活用の取組及び当該取組と併せて行う生活の利便性の向上に向けた取組を実施する場合、これらの取組に関する計画の策定や、当該計画に応じた調査、実証等の経費に対する補助を行っているところである。
質問7
畜産、酪農においては化学肥料原料の国際価格の高騰が続いていることから生産コストが高止まりしており、依然として厳しい経営を強いられている。この問題の解決に向けた取組と、支援策についての施策を伺う。
回答(質問7 について)
農林水産省においては、御指摘の「化学肥料原料の国際価格」の影響を受けにくい畜産経営を確保すること等を目的として、国内肥料資源利用拡大対策事業により、地方公共団体又は民間事業者等による家畜排せつ物や下水汚泥等の国産の肥料原料の利用拡大に向けた取組に対する支援を行っているほか、飼料自給率向上緊急対策事業により、飼料生産を行う農家等と畜産農家との連携の強化等による国産飼料の生産及び利用拡大の推進等を行っているところである。
質問8
全国各地において、鳥獣による農作物被害が大きな問題となっている。
1 被害防止に向けた国の各種補助制度の拡充の施策について伺う。
2 狩猟免許保持者や猟友会員等の高齢化等による担い手不足もその一因であると思われることから、担い手育成に向けた予算措置が必要であると考えるが、政府の見解を伺う。
回答(質問8 の1について)
お尋ねの「被害防止に向けた国の各種補助制度の拡充の施策」の意味するところが必ずしも明らかではないが、野生鳥獣による農作物等の被害を防止するため、農林水産省においては、鳥獣被害防止総合対策交付金(以下「交付金」という。)により、鳥獣の捕獲等による個体数調整、侵入防止柵の設置等による被害防除及び緩衝帯の設置等による生息環境管理の取組を支援している。交付金については、これまでも鳥獣被害をめぐる状況の変化に応じてその拡充や見直しを行ってきており、例えば、令和五年度補正予算においては、鳥獣による農作物等への被害の増大の主要な原因となっているシカに対応するため、都道府県等が行う、これを効果的・効率的に捕獲する取組等への支援を強化したところである。
回答(質問8 の2について)
農林水産省においては、野生鳥獣による農作物等の被害を防止するためには、鳥獣の捕獲に係る優れた技術を有する専門家の確保及び育成が重要であると考えており、交付金により、市町村ごとに開催される農業者等を対象とした捕獲技術の取得に関する講習会や、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(平成十四年法律第八十八号)第三十九条第一項の狩猟免許の取得等に関する講習会の開催に対する支援等を行っているところである。