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持続可能な林業の確立に関する質問主意書

会派 立憲民主党
議案提出者 緑川貴士
公式リンク 第213回国会 / 質問 答弁

森林の公益的機能を維持しながら森林資源を将来にわたって活用できる、持続可能な林業を確立するためには、伐採後の再造林が欠かせない。しかし、多くの主伐地では再造林が行われず、林野庁によれば、再造林が行われているのは全国で約三割から四割にとどまるとしている。他方、植えたとしても、近年シカ等による森林被害が再造林への打撃となっている。

質問1

資材価格の高騰で住宅建設の滞り、少子化の影響で着工件数の減少傾向にある中、政府は花粉症対策として令和十五年度までにスギ人工林を約二割減少させる目標を掲げている。木材の需要減少が見込まれる中で市場に過度な供給が行われれば、在庫が積み上がり、木材価格のさらなる低下を招きかねない。政府の見解を求める。

回答(質問1 について)

 「花粉症対策の全体像」(令和五年五月三十日花粉症に関する関係閣僚会議決定)において、「住宅分野におけるスギ材製品への転換の促進」等に向け、「国産材の利用割合の低い横架材等について輸入材を代替可能な製品を製造する技術の普及等による安定供給体制の構築」や、消費者の選択に資する取組としての「国産材を活用した住宅に係る表示の仕組みの構築」等を通じて、伐採量に見合ったスギ材の需要の拡大を図ることとしている。

質問2

一に関し、木材の供給過剰が一因であると考える。再造林割合は全国で約三割から四割という少なさの中、主伐事業は、林業事業体の労働者数、森林資源・基盤整備の状況、各作業の生産性等に基づき、環境に配慮した伐採と着実な再造林の施業が進められている林分であることをより明確にした上で、長伐期施業で取り組むべき林分も検討するなど、その実情に応じて持続可能な森林経営が求められている。無理な主伐は抑制をはかり、木材価格のさらなる下落を防ぐ等の木材の出荷調整の仕組みを整える必要であり、高樹齢材も年を追うごとに伝統工芸向け等への確保が難しくなっている中、伐期を延ばすことにより生産コストの低減、材の高付加価値化、工芸品産業の活性化にも資すると考える。政府の見解を問う。

回答(質問2 について)

 政府としては、自然的及び社会的条件を踏まえ木材等生産機能の発揮が特に期待される森林について、木材等の林産物を持続的、安定的かつ効率的に供給する観点から、短伐期や長伐期など多様な伐期での伐採を図ることとしている。

質問3

造林、伐採、製材、建築等の従来の分業体制から各部門の垣根を越えて連携する動きがある。素材生産者が工務店の求める寸法で山で製材も行うことで無駄を省き、山からの運搬費用や工務店の調達コストを下げることが可能になっている。また工場では建築物を大型パネルとして製造し、同工場でクレーン等でドアや窓等の建具も予め取り付けることで大工の負担の軽減や作業効率化をはかる建築法も増える等、各工程で収益性が高まり、山元への還元分が増えることが期待される。川上、川中、川下で互いの強みやニーズを細かく把握する等の連携体制により互恵関係を築くための政府の支援について伺う。

回答(質問3 について)

 政府としては、「建築用木材供給・利用強化対策」により、森林所有者から住宅生産者までの関係者が一体となって取り組む地域材を利用した住宅の建築や需要に応じた新商品の開発に必要な経費を支援するとともに、「林業・木材産業循環成長対策」により、森林組合等と地域材の利用の拡大に関する協定を締結した製材工場が取り組む木材加工流通施設の整備への支援等を行っている。

質問4

全国の林業従事者数は約四万四千人であるが、減少に歯止めがかからず、高齢化も進んでいる。慢性的な人手不足に対し、政府は高性能林業機械の導入支援等を進めるとしているが、急傾斜で機械を使いこなす技術等も求められ、オペレーターの養成には相当な時間がかかる。急務である人材育成への政府対応を問う。

回答(質問4 について)

 政府としては、高性能林業機械の操作等の技術を活用して林業に従事できるよう、「緑の青年就業準備給付金事業」により、林業分野に係る教育機関等における林業技術に係る研修を受ける者に対する給付金の支給や、「「緑の雇用」担い手確保支援事業」により、林業事業体等における新規就業者を対象とした林業技術に係る研修のための経費の支援等を行っている。

質問5

再造林の取組の一方、近年野生動物による森林被害が増えている。主にシカなどが苗を食べてしまい、多大な労力と費用をかける再造林が水泡に帰すおそれがある。世界自然遺産「白神山地」周辺では、地域住民等によるブナの植樹も行われているが、この間、ニホンンジカの目撃頭数は毎年増加し、同分布が近年再拡大している。平成二十七年には遺産地域内で初めてニホンジカが確認されており、今後さらにシカが増えれば、森の生態系が崩れる懸念がある。政府見解と対応を伺う。

回答(質問5 について)

 野生鳥獣による森林被害の約七割を占めるシカによる苗木の食害等により、再造林に支障が生じていることから、これへの対策として、造林等と一体的に行う防護柵の設置や、シカの捕獲に対する支援等を行っている。

 また、近年、白神山地及びその周辺においてニホンジカの目撃等の件数が増加していることを受け、森林生態系を保護するため、関係省庁、地元地方公共団体等からなる「白神山地世界遺産地域連絡会議」が「白神山地世界遺産地域ニホンジカ対策方針」を策定しており、これに従い、関係省庁及び地元地方公共団体が、白神山地及びその周辺において、ニホンジカの生息状況の調査や当該調査の結果に基づく捕獲等を行っている。