韓国海軍による脅迫行為の事実究明棚上げに関する質問主意書
木原稔防衛大臣が、本年六月一日、大韓民国(韓国)の申源?G国防部長官との間で、平成三十年十二月二十日に海上自衛隊の哨戒機が韓国海軍駆逐艦から火器管制レーダーの照射を受けた問題の事実究明を棚上げした合意を行ったことは、再発防止に逆効果であり、海上自衛官の生命を危険に晒すものだ。火器管制レーダーの照射は、火器の使用に先立って実施する行為であり、例えていうならば、刃物を首に突きつけられて「殺すぞ」と脅迫されたようなものだった。事実究明の棚上げは、激しい反日感情がある韓国に、「この程度なら許される」との誤解を生じさせるばかりか、他の国にも同様の誤解をさせかねない、危険極まりないものである。自衛官の命を預かる防衛大臣として、無責任のそしりを免れない。
そこでお尋ねする。
質問1
韓国国防部は、火器管制レーダー照射の事実を否定するばかりか、海上自衛隊が威嚇飛行をしたと糾弾し、謝罪を求めてきており、インターネット上の動画共有サービスに、「日本は人道主義的な救助作戦の妨害行為を謝罪し、事実の歪曲を直ちに中断せよ!」と日本語で題した動画を、いまだ掲載し続けている。韓国国防部の主張について、政府の見解如何。
回答(質問1 について)
平成三十年十二月二十日に海上自衛隊の哨戒機が韓国海軍の駆逐艦から火器管制レーダーを照射された事案に関する政府の立場は、平成三十一年一月二十一日に防衛省が公表した「韓国海軍駆逐艦による自衛隊機への火器管制レーダー照射に関する防衛省の最終見解について」(以下「最終見解」という。)のとおりである。
質問2
申源?G国防部長官は、与党国会議員だった令和四年八月、朝日新聞の取材に対して、韓国国防部が令和元年二月に、韓国軍艦に接近する海上自衛隊航空機に火器管制レーダーを照射して対抗するよう規定した「日(本)哨戒機対応指針」をつくっていたと明らかにした。同指針は、中国軍機及びロシア軍機には適用されず、自衛隊機のみが対象であり、我が国に対する激しい敵意及び侮りがうかがわれる。昨年六月十二日、当時の国防部長官は、韓国国会において、韓国側が同指針の廃棄を進めているとする日本メディアの報道は事実ではないと答弁した。そこでお尋ねするが、本年六月一日の木原稔防衛大臣と申源?G国防部長官の会談時、同指針につき話し合われたか。話し合われたとしたら、同長官より、同指針を廃棄したとの明示的な発言はあったか。
回答(質問2 について)
令和六年六月一日に開催された日韓防衛相会談(以下「今般の会談」という。)について、協議の詳細を明らかにすることは、相手国との関係もあり、差し控えたい。
質問3
海上自衛隊の哨戒機が、威嚇飛行を行っていないことは、防衛省が公開している動画によって、一目瞭然である。ところが、日韓防衛相が同意した、海上自衛隊と韓国海軍の艦艇及び航空機の円滑かつ安全な運用のための意図表明文書では、艦艇・航空機間の水平距離及び高度が含まれる「安全な距離」の項目を念頭に置き、CUES(海上衝突回避規範)の遵守が謳われている。これでは、海上自衛隊の哨戒機が危険な距離まで接近して威嚇飛行を行ったと我が国が認めたとの誤解を、第三国に与えかねない。防衛大臣は、いかなる理由から「安全な距離」について合意したのか、説明されたい。
回答(質問3 について)
御指摘の「合意した」の意味するところが必ずしも明らかではないが、政府として重要と考えている自衛隊の部隊の安全確保に資するとの判断の下、艦艇や航空機の間の「安全な距離」に係る基準である御指摘の「CUES(海上衝突回避規範)」の規定の趣旨を改めて日韓間で確認しているところである。
質問4
韓国国防部は、海上自衛隊の哨戒機が飛来してきたとき、「人道主義的な救助作戦」に従事していたと主張するが、公開された動画に写る「漂流中の遭難船舶」は、北朝鮮工作船の特徴を備えているとする専門家の指摘がある。韓国海軍は、平成三十年十二月二十日午後三時頃、能登半島沖において、北朝鮮船舶と実際には何を行っていたのか、政府の知るところを明らかにされたい。また、その行為が、国際連合安全保障理事会決議に違反するものであれば、根拠規定を示されたい。
回答(質問4 について)
お尋ねについては、最終見解において「韓国側は、海自P−一哨戒機が、「人道主義的救助作戦」に従事していた韓国駆逐艦に対し、近接した距離において「低空で脅威飛行した」と主張し、謝罪を求めています。・・・海自P−一哨戒機は、安全を確保するため、国際民間航空条約に則った我が国航空法に従って飛行しており、韓国駆逐艦に脅威を与えるような飛行は一切行っていません。(中略)なお、韓国駆逐艦からの無線による呼びかけもなかったことから、海自P−一哨戒機は、韓国側が救助作戦を行っていることを認知できませんでした。」と記載しているとおりである。
質問5
自衛官は、事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえることを誓い、強い責任感をもって職務を遂行している。そのような国の宝というべき自衛官が、防衛大臣が行った不可解な合意によって、偶発的事故を装って殺害される危険が増したばかりか、威嚇飛行の濡れ衣まで着せられたことは、痛恨の極みである。事実究明は、起きてはならない事態の再発防止を図る過程で必要不可欠なことと広く認識されており、それは、本事案にも当てはまる。政府は、自衛官に対して、事実究明を棚上げした理由をどのように説明するか、述べられたい。
回答(質問5 について)
お尋ねについては、令和六年六月六日の参議院外交防衛委員会において、木原防衛大臣が「御指摘の火器管制レーダー照射事案につきまして、まず、韓国駆逐艦から火器管制レーダーの照射があった、また海上自衛隊の哨戒機は韓国側の主張するような低空脅威飛行を行っていない、そういった事実関係に関する防衛省の立場は一切変わっておりません。火器管制レーダーの照射は、火器の使用に先立って実施する行為であり、極めて危険なものです。私が防衛大臣に就任して以降、現場で任務に当たる海上自衛官の安全に関わる再発防止策が取られていない状況が過去五年以上にわたって継続してきたこと、このことを極めて深刻に捉えてきました。また、日韓の防衛協力・交流も大きな停滞を余儀なくされ続けてきました。(中略)防衛大臣として、自衛官の預かる立場である私にとりましては、自衛官の安全を確保することは、我が国の平和と安全を守ることと同様に重大な責務です。日本海及びその上空では日韓両国の海空アセットが恒常的に活動しており、日韓の懸案をこのまま放置すれば、類似の事案がいつ再発するか、再発する可能性というのは残り続けることになります。事実関係をめぐる日韓双方の立場は依然として違いはありますが、このことを理由に自衛官諸君を危険にさらし続け、日韓の防衛協力を停滞させ続けることは私にはできません。今回、私は、その決断が我が国の国益にかなうものと確信をしており、今後とも、二十七万人の自衛隊員の先頭に立って我が国の平和と安全のために邁進してまいる所存です。」と答弁しているとおりであり、この趣旨について、海上自衛隊の関連部隊に対しては、指揮命令系統を通じて適切に周知しているところである。
質問6
本年六月十五日付の産経新聞は、久保田るり子客員編集委員が執筆した記事の中で、退職した元防衛省幹部による、「韓国国防部は、日本に対して、レーダー照射の事実を公表しようとしていたようだ」との証言を報じた。記事によれば、当該退職者は、火器管制レーダー照射事件発生から約一週間後、韓国国防部の知己から、次の内容を伝えられた。「鄭景斗国防部長官(当時)が大統領府に、火器管制レーダー照射を報告に行ったところ、文在寅大統領(当時)から、「照射はなかったことにする。」と命令された。このため、国防部は、この件で「何も言えなくなった。」。鄭国防部長官は、退職した元韓国軍幹部数人に、大統領府が北朝鮮から漁船で逃げた北朝鮮人の拘束を依頼されて海軍が身柄を確保している最中に海上自衛隊哨戒機が現れてしまった事情を、日本側の防衛省幹部らに伝えるよう指示した。」とある。この報道は事実か、政府の見解如何。
回答(質問6 及び質問7 について)
個別の報道に関するお尋ね及び個別の報道の内容を前提とするお尋ねであり、政府としてお答えすることは差し控えたい。
質問7
前項の産経新聞記事によれば、韓国国防部は、当初、「作業中にレーダーを使ったが哨戒機を追跡する目的で使った事実はない。」とコメントし、韓国メディアは、韓国海軍の話として、「火器管制レーダーを使用したのは事実。」と報じていたにもかかわらず、事件発生の五日後、韓国国防部は、火器管制レーダー照射の全否定に転じた。韓国国防部が、突如として全否定に転じたのは、如何なる理由によるものと考えるか、政府の見解如何。
回答(質問6 及び質問7 について)
個別の報道に関するお尋ね及び個別の報道の内容を前提とするお尋ねであり、政府としてお答えすることは差し控えたい。
質問8
日韓防衛相が本年六月一日に行った合意は、韓国側に破棄される可能性が高いと考えるが、政府の見解如何。もしも政府が、破棄されることはないと考えるなら、その根拠も示されたい。
回答(質問8 について)
お尋ねについて、現時点で予断をもってお答えすることは差し控えたいが、政府としては、今般の会談後に公表された「海上自衛隊と韓国海軍の艦艇及び航空機の円滑かつ安全な運用のための意図表明文書の概要」において「海上自衛隊と韓国海軍の間の定例協議体を通じ、本意図表明文書の実施状況を必要に応じて確認し、改善策及びその他の事項について協議」するとしていることを踏まえ、海上自衛隊と韓国海軍が定例的に行う協議等を通じて、「海上自衛隊と韓国海軍の艦艇及び航空機の円滑かつ安全な運用のための意図表明文書」の内容の確実な実施を確保していく考えである。