沖縄県内の労働環境に関する質問主意書
沖縄県は二〇二四年六月六日、子どもの貧困対策を効果的に実施するための二〇二三年度「沖縄子ども調査(〇〜十七歳)報告書」を公表した。貧困の原因について、物価高騰の影響が深刻化しており、生活が苦しくなったと感じている層が約九割であった。調査結果を分析した沖縄大学の研究者によると、国による支援は定額減税があるくらいで、子育て世帯への支援策が追い付いていないと指摘している。沖縄県内は、貧困世帯の割合が全国平均の二倍以上となる二十%であり、所得の向上を伴う労働環境の改善が急務である。
以上を踏まえ、以下質問する。
質問1
沖縄県における労働基準法違反について、二〇二四年三月の沖縄労働局の発表によると、二〇二二年の定期監督等の違反率は七十八・四%で、一九九八年から上昇傾向にあり、全国平均より高く、過去五年間の推移も同様である。沖縄労働局は、全国平均を上回る理由について、中小零細企業が全国比で多く、事業所新設率や廃業率も全国トップクラスで推移しており、労働基準法等に精通する事業主が少ないと分析している。事業場などへの重点的な監督指導など対策を進めているようであるが、違反率を見れば結果が伴っておらず、対策を追加せねば違反率の大幅な改善は見込めないと考える。国として対策を追加する考えはないか、政府の見解を問う。
回答(質問1 について)
御指摘の「中小零細企業」も含め、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)の遵守徹底に向けては、沖縄労働局を含めた各都道府県労働局において、各種説明会等を通じて法令の周知を図っているほか、平成三十年四月に労働基準監督署に設置された労働時間相談・支援班においてきめ細かな相談支援に取り組むとともに、労働基準監督署において労働基準関係法令違反が疑われる事業場を適切に選定し、監督指導を実施することとしており、こうした監督指導等を実施した結果、これらの法令に違反する事実が認められた場合には、使用者に対してその是正の指導等を行っているところであり、「国として対策を追加する」ことは現時点では考えておらず、引き続き、地域の実情も踏まえ、これらの取組を徹底し、着実に改善を図ってまいりたい。
質問2
ハローワーク及び労働基準監督署について
1 ハローワークや職業紹介事業者等は、原則として全ての求人を受理しなければならない。二〇一七年の職業安定法改正により、二〇二〇年三月以降一定の労働関係法令違反を繰り返す求人者による求人を受理しないことが可能となったが、いわゆるブラック企業の締め出しを図るところ、「一定の労働関係法令違反を繰り返す」という条件の適用が難しく、実効性を伴っていない。求人の質が上がるように、求人を受理しない運用がより早期に適用できるよう、労働関係法令の違反の要件について改正が必要ではないか、政府の見解を問う。
2 ハローワークが受理する求人情報について、虚偽記載に対する罰則に関して二〇一七年の職業安定法改正において、求人者について虚偽の求人申込みが罰則の対象とされた。改正前は、罰則の対象が「職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行った者又はこれらに従事した者」であったのが、「ハローワークや民間職業紹介事業者に虚偽の条件を提示して求人の申込みを行った者」に拡大されたものだが、故意に虚偽の条件を提示したと立証することは容易ではなく、実態として抑止力となっていない。労働条件や職場環境等に関する正しい情報の開示という、法改正の効果を得るためにも、虚偽記載に対する追加対策が必要ではないか、政府の見解を問う。
3 労働基準監督行政が効果を上げ切れていない一因に、労働者あたりの労働基準監督官の数が少ないという量的課題と、対応すべき事案の複雑化という質的課題が指摘されている。民間ではAI・デジタル技術を積極的に活用した事業も始まっており、労働基準監督署に集積した各事業場の情報や過去の指導記録等の情報を用いて更なる活用を図ること、事業者が自主的に法令順守状況をチェックできる仕組みを確立すること等、効率的で公平性をもった監督指導業務の履行できる体制整備、人員の確保が必要ではないか、政府の見解を問う。
回答(質問2 の1について)
公共職業安定所や職業紹介事業者等は、職業安定法(昭和二十二年法律第百四十一号)の規定により、原則として全ての求人を受理しなければならないが、就職後のトラブルの防止など、労働者の保護を図る観点から、一定の労働関係法令に違反した求人者に係る求人を不受理とすることとしているところ、当該求人を不受理とできる場合に該当するか否かの判断について、御指摘のような「実効性」の確保のため、同法の規定により、公共職業安定所や職業紹介事業者等は求人者に対して、必要に応じて報告を求めることができることとしているとともに、職業紹介事業者等から求人を不受理とできる場合に該当するかについて照会等があった場合は、都道府県労働局等において適切に対応している。このような対応を行っていることを踏まえつつ、求職者の職業選択の自由を実質的に確保しながら就職機会をより多く確保するとともに、求人者に対して条件に適合する求職者を紹介することが必要であると考えており、当該不受理とできる求人の対象を拡大するなどの御指摘のような「労働関係法令の違反の要件について改正が必要」とは考えていない。
回答(質問2 の2について)
御指摘の「虚偽記載」への対策として、公共職業安定所において、「一般職業紹介業務取扱要領」(令和六年三月二十七日付け職発〇三二七第七号厚生労働省職業安定局長通達別添)等に基づき、求人票の記載内容と実際の労働条件の相違に係る求職者等の申出があった場合には、必要に応じ事実確認や是正指導を行うとともに、是正指導により改善されない場合には職業紹介の保留等の措置を講ずることで、御指摘の「抑止力」を担保しているところであり、これらの取組を着実に実施していくことが適当であると考えており、御指摘のように「虚偽記載に対する追加対策が必要」とは考えていない。
回答(質問2 の3について)
お尋ねについては、厚生労働省労働基準局長が参集を求めて開催していた、労働基準関係法制度等に関する専門的知見を有する有識者により構成される「新しい時代の働き方に関する研究会」が令和五年十月に取りまとめた報告書において、「法違反が疑われる事業場に対しては確実に監督指導を行い、企業をあるべき労働条件の実現に誘導するとともに、弱い立場に置かれた労働者の権利を守るため、監督指導業務の効率化や客観的で公平性を持った効果的な履行確保が不可欠である。具体的には、監督指導においてAI・デジタル技術を積極的に活用すること、労働基準監督署に集積した各事業場の情報や過去の指導記録等の情報の更なる活用を図ること、事業者が自主的に法令遵守状況をチェックできる仕組みを確立すること等が考えられる」等とされていることも踏まえ、御指摘の「効率的で公平性をもった監督指導業務」を「履行できる体制整備、人員の確保」について検討してまいりたい。
質問3
労働基準法違反が減らない一因に、諸外国と比較して甘すぎる罰則があるとされる。労働者保護、労働環境及び待遇の改善を進めるには、違反事例を減らすように労働基準法違反の罰則について強化するといった対応が必要ではないか、政府の見解を問う。
回答(質問3 について)
労働基準法の現行の罰則規定は、同法第十条に規定する使用者の労働条件の遵守の必要性のみならず、刑罰法規全体における均衡等を考慮して適切に定められているものと認識しており、御指摘の「違反事例を減らす」といった観点のみを考慮して、「労働基準法違反の罰則について強化する」ことが適切であるとは考えていない。