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「航空輸送の安全の確保に向けた更なる取組みについて(厳重注意)のご報告」にかかる政府の対応に関する質問主意書

会派 立憲民主党
議案提出者 早稲田ゆき
公式リンク 第213回国会 / 質問 答弁

政府は、令和六年五月二十七日、日本航空株式会社(以下、「日航」という。)において運航に関する安全上のトラブルが相次いで発生したことに対して行政指導を実施したところ、この行政指導に対して日航は、さる令和六年六月十一日に再発防止策として「航空輸送の安全の確保に向けた更なる取組みについて(厳重注意)のご報告」(以下、「当該報告書」という。)を提出した。この内容にかかる政府の今後の対応に関し、以下について政府の見解をあきらかにされたい。

質問1

日航が、政府の厳重注意を深刻に受け止め、短期間に対応策をまとめて政府に示したことに敬意を表するところであるが、当該報告書における再発防止策は、具体性に欠けているのではないか。経営トップによる意識の再徹底についていえば、メッセージを伝えるだけでトラブルが改善できるかのような内容でしかなく、経営トップに本来求められる、経営と航空輸送の現場にいかにして安全を定着させるか具体的な改善策が示されていない。確かに具体策として、中長期的対応において、グループ安全対策会議にてフォローしていくとの記述があるが、これは単にフォローしていくだけであって、具体的な改善策とはいえない。このような具体策の明示のない報告をもって、日航の再発防止策を十分なものと判断するのか。このように具体的な改善策を示す意思表明をしていない経営トップに任せたままで空の安全を確保できると考えるのであれば、その根拠を示されたい。

回答(質問1 について)

 前段のお尋ねについては、日本航空株式会社(以下「会社」という。)から国土交通省に提出された御指摘の「航空輸送の安全の確保に向けた更なる取組みについて(厳重注意)のご報告」(以下「報告書」という。)においては、「経営トップによる率先した航空安全に対する意識の再徹底」及び「安全管理システムの見直し」等の再発防止策について、「緊急対応」、「短期対応」及び「中長期対応」の三段階で実施することとされていると承知しており、今後、それぞれの段階において、会社による当該再発防止策が更に具体化されていくものと想定される。

 中段のお尋ねについては、同省としては、今後、報告書に記載された再発防止策の実施状況等について、航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号。以下「法」という。)第百三十四条第二項の規定に基づく立入検査等を通じて確認を行うこととしており、報告書の記載内容のみをもって再発防止策がお尋ねの「十分なもの」かどうかについて判断していない。

 後段のお尋ねについては、会社のお尋ねの「経営トップ」の選任については、政府としてお答えする立場にないが、いずれにせよ、報告書においては、会社の社長が「全社員に向けて注意喚起のための動画メッセージを発信」するだけでなく、会社の経営陣が「現場実態の把握、発生した事象に対するより踏み込んだ分析と対策を行う」とともに、それらについて「責任をもって遂行する」こととされていると承知しており、お尋ねの「経営トップ」が「具体的な改善策を示す意思表明をしていない」とは考えていない。

質問2

当該報告書「安全管理システムの見直し」の項において、安全対策会議において対応状況の進捗確認と新たに認識された課題への対応を行っていくことで、経営として責任をもって遂行するとあるが、これは今回生じた事象に限った検証と読める書きぶりであり、業務全般を見直し安全管理対策を実施するという意志は読み取れない。このような場当たり的な安全管理システムの見直しでは、空の安全は確保できないのではないか。政府の見解を示されたい。

回答(質問2 について)

 お尋ねの「このような場当たり的な安全管理システムの見直し」の意味するところが必ずしも明らかでないが、報告書においては、会社が「一連の安全上のトラブルに対する即時措置を実施」し、「対策の定着」を図った上で、会社の「安全推進本部におけるリスクマネジメントの振り返り等の安全管理システムの総点検」等を実施することとされていると承知しており、国土交通省としては、御指摘の「空の安全」の確保に向けて、今後、報告書に記載された対策の実施状況等について、法第百三十四条第二項の規定に基づく立入検査等を通じて確認を行うこととしている。

質問3

当該報告書にはまた、空港内における管制指示の誤認事例について、コックピット内で状況確認が十分に行われなかった事例であることが指摘され、なかには副操縦士が誤認された状況に疑義をもっていたのにもかかわらず、「確認」という役割を果たせなかったと記載されていることから、クルーリソースマネジメント(以下、「CRM」という。)を実施する余裕が運航乗務員のなかに醸成されていないことが示唆されている。CRMが欠如した航空輸送が安全でないことは、大韓航空八五〇九便事故やアリタリア航空四〇四便事故などの事例でもあきらかであり、当該報告書においても中長期対応としてCRMの強化がうたわれているものの、「継続的なCRM強化に向けた取り組みの実施」とだけあり、具体的な取り組みについてまったく記載がないのは不適切ではないか。また、そもそもCRMの強化は、事故防止において鍵となる方策であり、中長期的ではなく、迅速に対応すべきと考えるがいかがか。

回答(質問3 について)

 御指摘の「CRMの強化」については、報告書においては、会社が、「定期訓練における滑走路誤進入に関する項目」を追加する等の対策を行うこととした上で、「継続的なCRM強化に向けた取り組み」を実施することとされていると承知しており、御指摘のように「具体的な取り組みについてまったく記載がない」とは考えていない。

 また、お尋ねの「迅速に対応すべきと考えるがいかがか」については、会社において、早期に対応が可能なものから順次対応していくこととしていると承知している。

質問4

政府は今回、日航に対して一連のトラブルの個々に対して対応を求めたのか、それとも業務全般について見直しを行い安全運航を定める要因について分析し改善するように求めたのか。もし後者であるなら、このような具体的な改善策が示されていない報告書では、空の安全が確保できないと考えるがいかがか。

回答(質問4 について)

 前段のお尋ねについては、国土交通省が会社に対し行った厳重注意の内容は、御指摘の「安全上のトラブルが相次いで発生した」ことを踏まえて再発防止策を同省に報告するよう会社に指示したものであり、御指摘の「一連のトラブル」に係る個別の再発防止策と安全管理体制全般に係る見直しの両方を求めたものである。

 後段のお尋ねについては、一についてでお答えしたとおり、会社においては「緊急対応」、「短期対応」及び「中長期対応」の三段階で再発防止策を実施することとされていると承知しており、今後、それぞれの段階において、会社による当該再発防止策が更に具体化されていくものと想定されるところ、同省としては、御指摘の「空の安全」の確保に向けて、その具体的な取組や実施状況について、法第百三十四条第二項の規定に基づく立入検査等を通じて確認を行うこととしている。

質問5

当該報告書では、一部に個人に責任を帰するような記述が見受けられるが、一連のトラブルは個人の問題である前に企業ガバナンスと企業文化の問題にあり、安直に個人の責任を問うべきではないと考える。たとえば飲酒問題の言及や「たちどまることができない個人」などと記載があり、飲酒禁止という再発防止策では、適切な対応ができている多くの従業員に対するストレス要因を新たに生むだけであり、本質的な解決策につながらないと考える。ストレスマネジメントなどを含む会社としての対応策を真摯に検討せず、個人の意識を改善することのみでは安全管理が確保できないと考えるがいかがか。

回答(質問5 について)

 お尋ねの「一部に個人に責任を帰するような記述が見受けられる」の意味するところが必ずしも明らかではないが、報告書においては、会社の経営陣が「更なる不具合の発生を防ぐため」に「職場」の状況等を「把握」した上で、「把握した現場の状況から取り組むべき問題点を洗い出」すとともに、会社として「把握した課題に対する対応計画を策定」することとされているものと承知しており、報告書が御指摘のように「ストレスマネジメントなどを含む会社としての対応策を真摯に検討せず、個人の意識を改善することのみ」を内容とするものとは考えていない。

質問6

航空輸送の安全確保は航空会社の責任であると同時に、政府の責任でもある。首都東京の上空に羽田空港への離着陸ルートが設定されている現状において、十分な安全対策が確認されるまでは、首都東京の上空通過ルートの飛行を禁じるなどの方策も検討されるべきではないか。

回答(質問6 について)

 お尋ねの「首都東京の上空通過ルートの飛行を禁じる」の意味するところが必ずしも明らかではないが、お尋ねについては、将来的な航空需要の拡大を見据え、我が国の国際競争力の強化、首都圏における航空機の騒音による影響の分散等の観点から、引き続き運用する必要があると考えている。

質問7

日航は安全運航の基本に「安全憲章」を定め、プロの使命と責任として「知識」「技術」そして「能力の限りを尽くす」の三点を規定しているが、その中に「経験」という文言は含まれていない。「経験」は世界の航空業界において、安全の要の一つとして常識であるにもかかわらず、日航においては「経験」が軽んじられているのではないか。日航は、安全運航にまい進するためにも、私のほか二十四名の超党派の国会議員が東京都労働委員会に要請しているように、ベテランのパイロットや客室乗務員などからなるJAL被解雇者労働組合が救済を申し立てている解雇争議を早期に解決するべきと考えるがいかがか。

回答(質問7 について)

 前段のお尋ねについては、会社の御指摘の「安全憲章」において「経験」という文言は含まれていないものと承知しているが、会社が法第百三条の二第一項の規定に基づき定める安全管理規程において「全ての社員は、安全のプロフェッショナルとして行動し、それぞれの経験および訓練に見合った知識、技術、能力をもって運航の安全に貢献する」とされているものと承知しており、国土交通省としては、御指摘の「安全憲章」に「経験」という文言がないことをもって、会社において御指摘のように「「経験」が軽んじられている」とは考えていない。

 後段のお尋ねの「解雇争議」については、会社における雇用関係に係る問題であることから、会社において適切に対処すべきものと考えている。