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令和六年度介護報酬改定に関する質問主意書

会派 立憲民主党
議案提出者 神津たけし
公式リンク 第213回国会 / 質問 答弁

令和六年度に行われた三年に一度の介護報酬改定において、訪問介護の基本報酬が引き下げられたことに対し、在宅介護の現場では怒りと不安の声が広がっている。身体介護、生活援助など訪問介護は、とりわけ独居の方を始め要介護者や家族の在宅での生活を支える上で欠かせないサービスであり、政府は、これまでも介護職員を対象とした処遇改善を行ってきたが、その賃金は依然として全産業平均と比較して低い水準にある。最近の物価上昇による実質賃金の低下や他業種の賃上げの動向を踏まえると、このままの状態が続けば、介護分野からの更なる人材の流出は避けられない。このままでは在宅介護が続けられず「介護崩壊」を招きかねないとまで指摘されている。このような状況を踏まえ、以下質問する。

質問1

訪問介護の現場からは基本報酬の引下げにより事業の将来が見通せなくなったとの声が出ている。在宅介護を支える訪問介護サービスの基本報酬引下げは、厚生労働省が推進する、高齢者が住み慣れた地域で必要なケアを受けられる「地域包括ケアシステム」の実現に逆行すると考えるが、政府の見解如何。

回答(質問1 について)

 お尋ねについては、令和六年三月六日の参議院予算委員会において、岸田内閣総理大臣が「今回の介護報酬改定においては、この訪問介護の基本報酬、これは引き下げていますが、一方で、この処遇改善の加算措置、これは他の介護サービスと比べて高い加算率、これを設定しています。さらに、中山間地域等で継続的にサービスを提供している事業者への加算、また認知症に関連する加算、これらを充実することによって、この訪問介護、これ改定全体としてはプラスの改定にしたと認識をしています。したがって、地方包括ケアシステムの構築を推進し、住み慣れた地域でできるだけ暮らしていただく、こうした考え方を進めるに当たって、そしてそのために在宅サービスを整備していく、こういった方向性との関係において、今回の措置は矛盾するものではないと考えています」と答弁しているとおりである。

質問2

厚生労働省は訪問介護の基本報酬を引き下げても介護職員の処遇改善加算でカバーできると説明しているが、そうであるならば基本報酬を引き下げる必要はなかったのではないか。基本報酬を引き下げ、処遇改善加算を増やすこととしたのは、基本報酬の水準を維持しても職員の処遇改善には必ずしもつながらないとの考えがあったためか。

回答(質問2 について)

 御指摘の「厚生労働省は・・・と説明しているが、そうであるならば基本報酬を引き下げる必要はなかったのではないか」の趣旨が必ずしも明らかではないが、御指摘の「基本報酬を引き下げ、処遇改善加算を増やすこととした」ことについては、令和六年三月二十六日の参議院予算委員会において、武見厚生労働大臣が「今般の介護報酬改定においては、介護保険制度全体のバランスを取って財源の配分を行う必要がある中で、介護現場で働く方々の処遇改善を着実に進める観点から、訪問介護については、基本報酬の見直しを行いつつ、処遇改善加算については他の介護サービスよりもより高い加算率を設定することとしております。また、訪問介護については、介護の他サービスと比べても給与費の割合が高く、人手が確保できなければ経営の維持、拡大が特に難しい事業であると認識をしております。その一方で、訪問介護は、他のサービスと比べて処遇改善加算の取得状況は全体としては低い傾向にございます。その意味で、まず訪問介護員の処遇改善を行い、人材の確保、定着を図っていくことが訪問介護員の方の暮らしの安定はもとより、訪問介護事業所の安定的な運営のためにも重要であると考えました」と答弁しているとおりであり、御指摘のように「基本報酬の水準を維持しても職員の処遇改善には必ずしもつながらないとの考えがあった」わけではない。

質問3

厚生労働省は訪問介護の基本報酬引下げの理由として、利益率が他の介護サービスより高いことを挙げているが、これはヘルパーが効率的に訪問できる高齢者の集合住宅併設型や都市部の大手事業所が利益率の平均値を引き上げているためであり、過疎地域で利用者の自宅を一軒一軒回る小規模事業所の利益率と同列に比較できるものではない。また、廃業を考えざるを得ないような厳しい運営を迫られている小規模事業所はそもそも調査に答える余裕がなく、結果に反映されていないとの指摘もある。報酬改定の根拠となる調査の精度については、経営の実態がより一層反映されるものとなるよう不断の改善が必要であると考えるが、次期改定に向けてどのような見直しを検討していくのか、現時点の見通しを示されたい。

回答(質問3 について)

 「報酬改定の根拠となる調査の精度については、経営の実態がより一層反映されるものとなるよう不断の改善が必要」との御指摘については、令和六年三月二十二日の参議院厚生労働委員会において、武見厚生労働大臣が「訪問介護を含む介護サービスの介護報酬について、・・・介護事業経営実態調査によりサービス類型ごとの収支差率を把握をして、介護事業所の経営状況を十分踏まえながら、社会保障審議会の意見を聞いた上で報酬改定を実施しております。ただし、平均的な収支差率のみならず、訪問介護については、委員御指摘のような延べ訪問回数、それから地域区分、それから同一建物減算を算定されているか否かに関わる事業所の収支差率についても介護事業経営実態調査等で把握をしつつ、社会保障審議会にお示しし、そして議論をした上できめ細かく対応はしてきております」と答弁しているとおりであるところ、お尋ねの「次期改定に向けてどのような見直しを検討していくのか」については、同年五月二十九日の衆議院厚生労働委員会において、同大臣が「次期報酬改定に向けた経営の実態調査に当たりましては、・・・介護報酬については、介護事業経営実態調査を適切に実施しつつ、経営情報の見える化の取組を併せて進めていく、こうした対応を的確に実施してまいりたいというふうに思います」と答弁しているとおりであり、引き続き、適切な経営状況の把握に努めていくとともに、不断の見直しを行ってまいりたい。

質問4

政府による累次にわたる施策にもかかわらず、現場の介護職員は処遇改善の実感に乏しい。公費による助成や支援が内部留保に回っては意味がなく、限られた財源を有効活用するには経営の透明化が求められる。事業者に支払われる介護報酬のうち、何割が職員の給与に配分されているか、職員一人当たりの賃金等のデータを、毎年度、事業者ごとに把握できる仕組みを設けるべきと考えるが、政府の見解如何。

回答(質問4 について)

 介護サービス事業所等の人件費に関しては、介護サービス情報の公表制度において、令和六年度から、原則、介護サービス事業所等の財務状況の公表を求めることとすることにより、当該事業所等における人件費について把握できることとなり、また、当該財務状況の公表と併せて、当該事業者等の判断により職員の賃金を公表できることとしているところ、まずは、当該制度を着実に実施することが重要であると考えており、現時点では、御指摘のような「仕組みを設けるべき」とは考えていない。

質問5

過疎地域における訪問介護では、利用者の家から家への移動時間や待機時間が発生するが、必ずしもそれらは給与に反映されていない。比較的狭い範囲に利用者が集中する都市部を基準とせず、過疎地域の在宅介護を支える訪問介護ヘルパーの労働実態を国として調査した上で、適切に報酬に反映すべきと考えるが、政府の見解如何。

回答(質問5 について)

 お尋ねについては、令和六年四月八日の参議院決算委員会において、政府参考人が「規模や立地、それからサービス提供体制など、訪問介護事業所を取り巻く実態は様々でございます。そうしたものを、今回の報酬改定においてもそうした実態を踏まえためり張りのある対応を加減算、加算、減算の仕組みを活用して行っております。具体的に申し上げますと、中山間地域など、地域資源等の状況により、やむを得ず移動距離等を要し事業運営が非効率にならざるを得ない場合があることから、利用者へ継続的なサービスを行っていることについて新たに評価の対象とするなど、中山間地域や離島などに配慮した報酬設定を行っております」と答弁しているとおりであり、御指摘の「過疎地域の在宅介護を支える訪問介護ヘルパーの労働実態」も踏まえて、令和六年度介護報酬改定を行ったものと考えている。

質問6

介護・障害福祉分野の人材の確保及び定着を促進するとともにサービス提供体制を整備するため、本年六月五日、衆議院厚生労働委員会において介護・障害福祉従事者の処遇改善に関する委員会決議が行われた。当該決議に基づき、政府としてどのような施策を進めていくのか。特に基本報酬引下げの影響が懸念される訪問介護を始めとする介護事業者等の意見を聴きつつ、速やかなかつ十分な検証を求めたいと考えるが、現時点における政府の方針如何。

回答(質問6 について)

 お尋ねについては、令和六年六月十一日の閣議後記者会見において、武見厚生労働大臣が「今後、今般の介護報酬改定の影響等について、介護事業経営実態調査をはじめ各種調査等を通じて利用者や事業者の状況の把握を行うこととしています。・・・厚生労働省としては、最も課題となっている介護人材の確保・定着に向けて処遇改善加算の取得促進に全力をつくすとともに、各種調査等の結果も踏まえて、加算取得に向けた更なる工夫や、魅力発信等について必要な取組を進め、地域で必要な介護サービスが安心して受けられる体制をつくっていきたいと思います」と述べているとおりである。