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劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)に関する質問主意書

会派 立憲民主党
議案提出者 井坂信彦
公式リンク 第213回国会 / 質問 答弁

国立感染症研究所が令和六年六月十一日に発表した速報データによると、本年第二十二週(五月二十七日から六月二日)の劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)の報告数は二十八件で、本年の累積報告数は九百七十七件となった。昨年一年間の患者報告数は年間で過去最多の九百四十一件であったが、その数をすでに半年足らずで上回っている。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、A群溶血性レンサ球菌によって引き起こされるもので、五類感染症になっている。初期症状は四肢の疼痛・腫れ、発熱、血圧低下などで、急激な病状進行により発病後数十時間以内に軟部組織壊死、急性腎不全、成人型呼吸逼迫症候群、多臓器不全などを引き起こし、致死率がおよそ三十%と非常に高い。妊婦では病状の進行が非常に急激で、数十時間以内に胎児死亡等に至り、母体死亡率も高いと言われている。溶連菌が手足の傷などから体の内部に侵入すると、傷口付近の筋肉の壊死が始まり、しだいに肝臓や腎臓などの臓器が機能しなくなっていき、驚くほど速く症状が進行することから「人食いバクテリア」とも呼ばれている。

主な治療法は、ペニシリンなどの抗生物質の投与と、壊死した部分の切除が挙げられる。壊死の範囲が広ければ、手足を切断して食い止めることもあるという。そうなると、命は助かっても、生涯にわたって運動機能や見た目に不具合を抱えることになる。

本年五月には、プロ野球の独立リーグ・BCリーグに所属している選手が、左手中指の傷口から感染したと思われる症例が発生した。尋常じゃない痛みに襲われ、二度の手術を経て体調は回復したが、一時は壊死した指を切断する可能性や、命の危険もあった。菌が侵入したとみられる指は、治療後も思うように動かせないでいる。治療を開始するタイミングが、治癒後のQOL(生活の質)にも大きく影響を及ぼすため、壊死が始まる前に適切な治療を開始することが極めて重要である。

このように、致死率が高く、治療後に障害が残る可能性のある感染症が、過去の最大数のさらに二倍の勢いで増加している状況がある。早期診察、早期診断、早期治療が必要な感染症であり、医療機関だけでなく広く国民に周知する必要もあると考え、以下、政府の見解を伺う。

質問1

劇症型溶血性レンサ球菌感染症の発生増加を踏まえ、早期診断に繋がる検査方法、チェックマニュアルなどは確立できているか。全国の医師に、早期に可能性を疑うよう対策を取れているか伺う。

回答(質問1 について)

 御指摘の「チェックマニュアル」の具体的に意味するところが明らかではないが、御指摘の「早期診断に繋がる検査方法」に関しては、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第十二条第一項及び第十四条第二項に基づく届出の基準等について」(平成十八年三月八日健感発第〇三〇八〇〇一号厚生労働省健康局結核感染症課長通知。以下「通知」という。)により「検査方法」等を示しているほか、令和六年六月二十一日に国立研究開発法人国立国際医療研究センターが公表した「劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)の診療指針」において、「数時間単位で症状が進行することがあるため、本疾患の可能性を鑑別診断に挙げること、迅速な初期評価、診断と適切な治療、管理が極めて重要になる」とした上で、「迅速な初期評価」として、「バイタルサインの異常を伴う発熱、局所の疼痛を訴える患者においては皮膚所見が明らかでなくてもSTSSを念頭において対応すべき」等とされており、これらについて、「劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)について(周知)」(令和六年六月二十一日付け厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課事務連絡)により、都道府県、保健所設置市及び特別区を通じて、全国の医療機関に対して周知したところであり、医療機関において御指摘のように「早期に可能性を疑う」ことについて「対策」を講じているところである。

質問2

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、一般的には集中治療室での治療を行うと聞いている。治療開始までの一刻を争う病気であるが、過疎や地方の病院において、劇症型溶血性レンサ球菌感染症を発見・治療できる体制は整っていると考えるか。

回答(質問2 について)

 御指摘の「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」の「発見」については、一についてでお答えしたとおり、通知で示している「検査方法」により診断されるところ、当該方法は、一般の急性期医療を提供する病院等において実施が可能なものであり、また、「治療」については、厚生労働省のホームページにおいても示しているとおり、「適切な抗菌薬の迅速な投与、必要に応じて緊急手術による広範囲の病巣(びょうそう)の除去、集中治療室での全身状態の管理、など」が実施されるところ、こうした治療は特殊な診断法や治療薬を要するものではないため、御指摘のように「過疎や地方」においても、「劇症型溶血性レンサ球菌感染症を発見・治療できる体制は整っている」ものと考えている。

質問3

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、四肢や臓器の壊死をもたらす。回復後も、壊死した器官の機能回復について、治療・リハビリが続くことが考えられる。病後のQOL向上のため、壊死を防ぐ方法や、壊死からの機能回復に対して政府は有効な手立ての開発を進めているか。

回答(質問3 について)

 御指摘の「壊死を防ぐ方法」の意味するところが必ずしも明らかではないが、人体の組織の壊死の進行を抑える目的で、壊死を引き起こす毒素の産生を抑制する抗菌薬が有効な場合があることは承知している。また、御指摘の「壊死からの機能回復」が「壊死した器官の機能回復」を指すのであれば、お尋ねの「有効な手立て」については、壊死の程度や残存した機能、処置の内容が患者によって異なることから、医療現場において、個別具体的な状況に即して適切に「機能回復」のための「治療・リハビリ」が実施されているものと承知している。

質問4

製薬会社等に、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の検査薬や検査キット等の開発を指示・要請しているか。また検査薬や検査キットを全国の病院に配布しておく必要性について、政府の見解を伺う。

回答(質問4 について)

 劇症型溶血性レンサ球菌感染症の検査については、二についてでお答えしたとおり、一般の急性期医療を提供する病院等において実施が可能なものであることから、政府として、御指摘のように、「劇症型溶血性レンサ球菌感染症の検査薬や検査キット等の開発を指示・要請」しておらず、「検査薬や検査キットを全国の病院に配布しておく必要性」があるとは考えていない。

質問5

妊婦は、劇症型溶血性レンサ球菌感染症が重症化しやすいと言われている。妊婦に対して、初期症状(四肢の痛みや腫れなど)が発生したときに躊躇なく診断を受けるよう指導すべきと考えるが、政府の見解を伺う。

回答(質問5 について)

 劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、厚生労働省のホームページにおいて「まれに引き起こされることがある重篤な病状」と示しているとおりではあるが、国立感染症研究所のホームページにおいて「子供から大人まで広範囲の年齢層に発症する」とされているところ、妊婦のみが御指摘のように「重症化しやすい」という科学的根拠は確立されておらず、現時点では、特別に妊婦に対して御指摘のように「指導」を行うことは考えていない。

質問6

劇症型溶血性レンサ球菌感染症について、その発生件数の増加や危険性を広く国民に伝える必要があると考える。また、予防や感染についての正しい知識と、早期診察の必要性も広めなければならない。NHKをはじめとしたメディアでも取り上げられ始めているが、政府としてテレビ・インターネット・ポスターなど、あらゆる媒体で広報や紹介する取組を進めるべきと考えるが、政府の今後の取組予定を伺う。

回答(質問6 について)

 御指摘の「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」の情報に関しては、適時に、厚生労働大臣が閣議後記者会見において、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)第十二条第一項に基づく医師の届出による報告数の推移について発表しているほか、厚生労働省のホームページ、SNS、ポスター等において、「突発的に発症し、敗血症などの重篤な症状を引き起こし急速に多臓器不全が進行することがある重症感染症」であることや、日常生活上の留意点として、「手指衛生や咳エチケット、傷口の清潔な処置といった、基本的な感染防止対策が有効」であること、「発熱や咳や全身倦怠感などで食事が取れないなどの体調が悪いときは、かかりつけの医療機関などを受診」すること等について、周知啓発を行っており、引き続き、様々な媒体を通じて、必要な周知の取組を進めてまいりたい。