分かりやすい衆議院・参議院

高齢者が働きやすい環境を整備することに関する質問主意書

会派 立憲民主党
議案提出者 早稲田ゆき
公式リンク 第213回国会 / 質問 答弁

働く高齢者が増えている中、高齢者が働く環境整備を進める必要がある。

質問1

六十五歳を超えて雇用継続される場合、介護保険料の徴収は医療保険料の一部として給与からの天引きのしくみから、年金からの天引きになる方が多い。しかし年金裁定に時間がかかる関係で、そのほとんどの方が一時的に納付書で納めなければならず、未納となりかねない。年金から天引きが開始される時点で、六十五歳になった月からの介護保険料が遡って天引きされるよう、しくみを改善するべきでないか。

回答(質問1 について)

 お尋ねの「年金から天引きが開始される時点で、六十五歳になった月からの介護保険料が遡って天引きされる」仕組みについては、介護保険料の特別徴収(介護保険法(平成九年法律第百二十三号)第百三十一条に規定する特別徴収をいう。以下同じ。)に当たり、御指摘の「年金から天引きが開始される時点」の徴収額が多額となることや、厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)第四十四条の三第一項等の規定に基づくいわゆる年金の繰下げ制度において、受給権者からの請求により、六十五歳より後に受給を開始することが可能とされており、特別徴収の対象者及びその額の確定が難しい等の課題があること等を踏まえると、慎重な検討が必要であると考えている。

 なお、特別徴収の対象とならない介護保険の第一号被保険者(以下「第一号被保険者」という。)に対しては、介護保険法第百三十一条等の規定により普通徴収(同条に規定する普通徴収をいう。以下同じ。)の方法により介護保険料を徴収することとされているところ、普通徴収に当たっては、地方自治体に対して、住民に対する制度の趣旨、内容等の周知、保険料の納付相談の実施、口座振替の促進等を求めているところであり、引き続き、こうした取組を進めてまいりたい。また、介護保険料の徴収については、御指摘のように「雇用継続される場合」か否かにかかわらず、支払を受けている老齢等年金給付(同条に規定する老齢等年金給付をいう。)の額が年間十八万円以上の第一号被保険者に対しては、同法第百三十五条等の規定により特別徴収の方法によって行うこととされているところ、その開始に当たっては、年金の裁定後に、同法第百三十四条の規定による年金保険者から市町村に対する当該老齢等年金給付の支払を受けている六十五歳以上の者に関する通知や、同法第百三十六条の規定による市町村から年金保険者に対する特別徴収額の通知等を行うことにより、特別徴収の対象者及びその額を確定する必要があり、年金の裁定から特別徴収の開始までに一定の期間を要することはやむを得ないと考えている。

質問2

労働災害の中で六十歳以上が占める割合は年々増え続け、三割近くとなっている一方、高齢の労働者から、「勤務先が認めないので労災保険の申請ができない」「加齢のせいだとされ労災認定されない」という相談が、弁護士や支援団体などに相次いで寄せられているとの報道があった。過労死など心疾患について高齢者向けの労災保険の認定基準を作るべきではないか。また事業主証明がなくても労災保険の請求はできることを、高齢労働者向けにもっと周知すべきではないか。

回答(質問2 の前段について)

 業務における過重な負荷による心臓疾患に係る労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)に基づく保険給付の支給の決定又は不支給の決定については、医学等の専門家による検討の成果に基づいて取りまとめられた「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」を踏まえて定めた「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(令和三年九月十四日付け基発〇九一四第一号厚生労働省労働基準局長通知)の別添「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」において、「発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務・・・に就労したこと」等の「業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は、業務に起因する疾病として取り扱う」、「特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては、業務量、業務内容、作業環境等を考慮し、同種労働者にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められる業務であるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断すること」及び「同種労働者とは、・・・年齢・・・等が類似する者」とされているところ、高齢の労働者については、年齢を含んだ考慮により「特に過重な身体的、精神的負荷と認められる業務であるか否か」の判断が行われることとなることから、新たに御指摘のように「高齢者向けの労災保険の認定基準を作るべき」とは考えていない。

回答(質問2 の後段について)

 お尋ねについては、「事業主の証明のない保険給付等請求書の取扱いについて」(昭和六十年五月三十一日付け労働省労働基準局補償課長事務連絡)において、「証明を受けるべき事業主が現に存在しない場合」や、「証明を受けるべき事業主は存在するが、事業主が証明を拒む等の場合」には、「保険給付等」の「請求書を受け付けること」としており、この取扱いについては、厚生労働省のホームページに掲載している資料「労災保険に関するQ&A」において、「会社が事業主証明を拒否するなどで、事業主証明が得られない場合であっても、労災保険の請求はできます」と示すなど、国民に対し広く周知をしているところであり、引き続き、様々な機会を捉えて周知に努めてまいりたい。

質問3

七十五歳になると、勤務先の健康保険組合や国民健康保険制度に居続けることができなくなり、後期高齢者医療保険制度に強制加入となるが、同制度では傷病手当金の支給は任意である。これまで国は、公衆衛生上の観点から、特例的に新型コロナウイルス感染症に限って、条例改正を促し補助を出して、全ての自治体で国民健康保険制度及び後期高齢者医療保険制度において、被用者に限り傷病手当金を支給できるようにした。しかしその特例は昨年五月に終了している。厚生労働省は、学生や年金生活者など、被用者ではない被保険者に不公平となると言っているが、新型コロナウイルス感染症に限らず、病気やケガのために仕事を休まざるを得なくなった時の傷病手当金制度は、とりわけ加齢とともに病気やケガのリスクが高まる意味で、働く高齢者には必要な制度であることは、学生や年金生活者など働いていない被保険者にも保険財政からの支給を理解していただけるのではないか。政府の見解をあきらかにされたい。

回答(質問3 について)

 お尋ねについては、国民健康保険制度や後期高齢者医療制度には、御指摘のような「学生や年金生活者」を含む無業者、被用者、自営業者等の多様な被保険者が加入しており、それぞれ様々な考え方があるものと考えられることから、御指摘のように「働いていない被保険者にも保険財政からの支給を理解して」いただくことは容易ではないと考えている。

質問4

また同時に、個人事業主やフリーランスなど、被用者ではないが働いている国民健康保険制度及び後期高齢者医療保険制度の被保険者のうち、少なくとも労災保険の特別加入者に限っては、その給付基礎日額を準用することで、傷病手当金の算定が可能なのではないか。

回答(質問4 について)

 御指摘のように「労災保険の特別加入者に限って」、「傷病手当金」の支給を義務付けることは、国民健康保険制度や後期高齢者医療制度には無業者、被用者、自営業者等の多様な被保険者が加入しており、当該被保険者間の公平性や財源の確保を図る必要があること等の様々な課題があることから困難であると考えており、当該支給を前提とした御指摘のような「算定」は適当ではないと考えている。

質問5

定年退職後、短時間労働に従事して、いったん国民健康保険制度に加入してから後期高齢者医療保険制度に移行する方も多いことも踏まえ、高齢者の労働環境整備の観点から、国民健康保険制度と後期高齢者医療保険制度においても、まずは被用者について、傷病手当金の支給を保険者に義務付けるべきである。私は令和三年六月、さらに昨年十一月にも質問主意書を提出して、この主張を繰り返しているが、「様々な課題があると認識」などといった、まったくやる気のない答弁しか返ってきていない。本当にそれで高齢者の労働環境の整備に取り組んでいるといえるのか。この間も進む一方の少子高齢化を踏まえ、いい加減検討だけでも始めるべきではないか。そのための実態把握、具体的には例えば国民健康保険制度と後期高齢者医療保険制度において被用者について傷病手当金を支給するとしている条例を現時点で有している自治体がどのくらいあるのか、またコロナ禍が終わった現在において、全国でどれくらいの自治体が単独予算で個人事業主に傷病手当金や傷病見舞金を出しているか、そのような先進的な自治体が、それぞれどのような工夫をして金額を算定しているか、実態把握し、分析し、公表するべきではないか。

回答(質問5 について)

 御指摘の「国民健康保険制度と後期高齢者医療保険制度においても、まずは被用者について、傷病手当金の支給を保険者に義務付ける」ことについては、国民健康保険制度や後期高齢者医療制度には無業者、被用者、自営業者等が加入しているところ、自営業者等については療養を行う際の収入の喪失等の状況が多様であるため、所得補塡としての妥当な支給額の算出が難しいこと、多様な被保険者間での公平性や財源の確保を図る必要があること等の様々な課題があることから困難であると考えており、当該義務付けの「検討」及びこれを前提とした御指摘のような「実態把握」等については考えておらず、また、このことによって、御指摘のように「高齢者の労働環境の整備に取り組んでいるといえ」ないとは考えていない。