技能実習生・留学生らの妊娠・出産に関する抜本的な対策に関する質問主意書
技能実習生や留学生が孤立した状態で出産や中絶をする事件が跡を絶たない。送り出し機関や受け入れ機関が「妊娠してはいけない」と警告したり、実際に妊娠した女性に退職や退学、さらには帰国を迫ったりするため、相談しづらいことが背景にある。
妊娠や出産をめぐる事件や裁判の当事者の出身国は、中国、ベトナム、フィリピン、インドネシア、スリランカと多岐にわたり、各種報道や関係団体調査によれば、十五件もの事例があり、特定国の出身者に固有の問題ではなく、受け入れ国である日本政府の不作為が問われるべきではないかといえる。
技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議の報告書は、妊娠や出産については全く触れられておらず、今般のいわゆる入管法改正で、技能実習制度が育成就労制度に改められても、家族帯同は認められないことから、抜本的な対策が検討されているとは言えない。
以上を踏まえ、以下、質問する。
質問1
技能実習生に関しては、法務省・厚生労働省・外国人技能実習機構が、二〇一九年三月十一日に「妊娠等を理由とした技能実習生に対する不利益取り扱いについて(注意喚起)」を実習実施者や監理団体に対して発出後、二〇二一年二月十六日、同年五月十四日、二〇二二年十二月二十三日と、数次にわたって法令順守を呼びかけている。また、二〇二一年五月十四日には多言語で技能実習生向けの資料も公開している。しかし、国会における政府答弁で明らかになったデータ(例えば、二〇二一(令和三)年三月十二日牧山ひろえ参議院議員提出「外国人技能実習制度をめぐる各種のトラブルに関する質問主意書」(第二百四回国会質問第三四号)に対する答弁書(二〇二一年三月二十三日)や二〇二四(令和六)年五月十日に衆議院の法務・厚生労働委員会連合審査会での阿部知子議員への政府答弁。)を見ると、技能実習生が妊娠・出産後に実習を継続できるよう改善が見られたとは言えない。?妊娠・出産を理由に「技能実習困難時届」が出された数のうち、?「技能実習の継続意思を有するもの」、さらに?「技能実習を再開する技能実習計画の認定が確認できたもの」の集計結果を、二〇一七年十一月一日のいわゆる技能実習法施行時を起点に二〇二〇年十二月三十一日までの三十七ケ月間と、二〇二二年三月三十一日までの五十三ケ月間の集計結果を見ると、?妊娠・出産を理由とした技能実習困難時届数は、年間二百七件から三百五十二件へと増えている。しかし、?技能実習の継続の意思を有するもののうち、?再開する技能実習計画の認定が確認できたものは、二十三・四%から十七・二%へと減少している。注意喚起だけでは、技能実習生が産前産後休業や育児休業を取得してから実習を再開することは困難であると考えられる。
1 政府は、この集計結果を定期的に公開するとともに、実習を再開できない理由を精査すべきではないのか。
2 政府は、二〇二二年四月以降の集計状況を示すとともに、その結果をどう受け止め、これまでの対応をどう評価しているのか、見解を示されたい。
回答(質問1 の1について)
御指摘の「?妊娠・出産を理由に「技能実習困難時届」が出された数のうち、?「技能実習の継続意思を有するもの」、さらに?「技能実習を再開する技能実習計画の認定が確認できたもの」の集計結果」については、技能実習を中断した技能実習生が、技能実習を継続する意思を有しない理由や、当該意思を有する場合でも結果的に技能実習を再開しない理由は様々なものがあり得るところ、「技能実習困難時届」及び「技能実習計画の認定」の件数を集計した結果のみをもって、例えば御指摘の「法令順守」の状況や「技能実習生が妊娠・出産後に実習を継続できるよう改善が見られた」か否か等を評価することは困難であるため、御指摘の「実習を再開できない理由を精査」することはできず、また、当該集計結果を「定期的に公開する」必要があるとは考えていない。なお、技能実習の再開を希望する技能実習生が何らかの理由で技能実習を再開できない等の問題が生じた場合には、当該技能実習生からの相談を受けた監理団体(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(平成二十八年法律第八十九号。以下「法」という。)第二条第十項に規定する監理団体をいう。以下同じ。)又は外国人技能実習機構(以下「機構」という。)において、技能実習を再開できない理由等を把握した上で適切に対処することとしている。
回答(質問1 の2について)
法第十九条第一項又は第三十三条第一項の規定に基づき実習実施者(法第二条第六項に規定する実習実施者をいう。以下同じ。)又は監理団体が機構に対して行った技能実習を行わせることが困難となった場合(我が国に入国しておらず技能実習の開始前であることが明らかな技能実習生に係るものを除く。)の届出のうち、その届出内容から、妊娠又は出産を理由とすることが把握できるもの(技能実習生本人以外の妊娠又は出産であることが明らかなものを除く。以下「本件届出」という。)に係る人数は、法が施行された平成二十九年十一月一日から令和五年三月三十一日までの間において二千六十二人であり、そのうち令和四年四月一日から令和五年三月三十一日までの間において六百二十八人である。また、本件届出の時点で技能実習を継続する意思を有していたと確認できた技能実習生の人数は、平成二十九年十一月一日から令和五年三月三十一日までの間において二百四十四人であり、そのうち令和四年四月一日から令和五年三月三十一日までの間において百十人である。さらに、上述の二百四十四人のうち、令和五年三月三十一日までの間において、本件届出後に新たに技能実習計画の認定(法第八条第一項に規定する技能実習計画の認定をいう。)を受けて技能実習を再開した者は七十一人である。その上で、一の1についてで述べたとおり、これらの件数のみをもって、例えば御指摘の「法令順守」の状況や「技能実習生が妊娠・出産後に実習を継続できるよう改善が見られた」か否か等を評価することは困難であると考えている。出入国在留管理庁、厚生労働省及び機構においては、これまで、技能実習生が妊娠、出産等した場合における法的保護、支援制度、相談先等を記載したリーフレットの作成、やむを得ない理由により技能実習を中断した場合の再開の手続の簡素化、実習実施者及び監理団体に対する妊娠、出産等を理由とした不利益取扱いの禁止の徹底等の注意喚起等を実施してきたほか、機構において技能実習生の母国語による相談対応を実施しているところであり、政府としては、こうした取組を進めることが重要であると考えている。
質問2
二〇二二年に外国人技能実習機構が行った「技能実習生の妊娠・出産に係る不適正な取扱いに関する実態調査」では、六百五十人中百七十二人(二十六・五%)が「妊娠したら仕事を辞めてもらう(帰国してもらう)」と直接言われたと回答している。政府は、これまでの国会答弁で、妊娠等による不利益取り扱いを行った監理団体や実習実施者、送り出し機関では、いわゆる男女雇用機会均等法違反による認定取り消し等の行政処分になった例は一件もないと報告している。受け入れ機関による妊娠の制限は、二〇〇〇年代から報じられているが、二十年近く実効性のある対策が取られていないのではないか。妊娠の制限や警告をした監理団体や実習実施者、送り出し機関を調査し、行政処分を課すことがなければ、不処罰の連鎖は続いてしまう。
1 政府は、この調査をどう評価しているのか。
2 上述の注意喚起文書の発出以外に、行政処分を課すこと等を念頭に入れた受け入れ機関の調査を行っているのか、その対応の内容を示されたい。
回答(質問2 の1について)
御指摘の調査の結果については、重く受け止めている。
回答(質問2 の2について)
御指摘の調査結果を踏まえ、出入国在留管理庁、厚生労働省及び機構においては、令和四年十二月二十三日、実習実施者及び監理団体に対し、改めて、技能実習生が妊娠、出産等した場合における法的保護、支援制度、相談先等を記載したリーフレットや技能実習生手帳を用いて、妊娠、出産等に係る各種制度の説明を技能実習生に対し行うよう求めるとともに、技能実習生と送出機関(法第二十三条第二項第六号に規定する外国の送出機関をいう。)との間における妊娠、出産等に係る不適正な内容を含む契約の締結等を把握した場合には、その内容を機構に対し報告をするよう求めた。
その上で、出入国在留管理庁長官及び厚生労働大臣は、法第十五条第一項に規定する改善命令又は法第十六条第一項に規定する実習認定の取消しを、法務大臣及び厚生労働大臣は、法第三十六条第一項に規定する改善命令又は法第三十七条第一項に規定する監理許可の取消しを実施することも視野に入れつつ、機構による実習実施者又は監理団体に対する法第十四条第一項に規定する実地検査等において、妊娠、出産等を理由とした不適正な取扱いなど、法に違反する行為の有無を確認している。
質問3
技能実習生だけでなく、留学生も妊娠の制限を受けたり、退学になったり、奨学金の支給を停止されたりする例があることが、田中雅子「日本における移民女性の予定外の妊娠と避妊や中絶サービスへのアクセス−アジア五カ国出身者に対するオンライン調査から−」(国際ジェンダー学会誌 二〇二二)や田中雅子・高向有理・鹿毛理恵「日本で暮らす留学生のための包括的セクシュアリティ教育:調査結果に見るその必要性と教材の開発」(二〇二四 上智大学アジア文化研究所)で明らかになっている。
一方、文科省は、妊娠による高校生の退学について、二〇一五年(平成二十七年)四月から二〇一七年(平成二十九年)三月までに実施した「公立の高等学校(全日制及び定時制)における妊娠を理由とした退学に係る実態把握調査」を行い、「安易に退学処分や事実上の退学勧告等の対処は行わない」ことを求める旨、「公立の高等学校における妊娠を理由とした退学等に係る実態把握の結果等を踏まえた妊娠した生徒への対応等について(通知)」を出している。文科省は、高校生だけでなく、留学生についても実態調査を行い、妊娠の制限等をしている受け入れ校に対して指導をすべきではないか。出入国在留管理庁が毎年公表している「在留資格取消件数」や二〇二二年(令和四年)八月に公表された「在留外国人に対する基礎調査報告書」、日本学生支援機構(JASSO)が毎年実施している「外国人留学生在籍状況調査」や隔年で実施している「私費外国人留学生生活実態調査」等、現在行っている調査に「妊娠・出産」に関する項目を加えることで、妊娠した留学生の退学や帰国に関する問題把握や、その結果を踏まえた学校等への不利益取り扱い禁止の働きかけは可能だと考えられる。日本人が諸外国に留学した場合、妊娠による休学が問題になることはまずない。この問題を放置することは、相互主義の破綻とみなされ、留学先としての日本の地位の低下が懸念される。
以上をふまえて、政府は、現状把握のための調査実施の見通しや、留学生施策の中での対応について見解を示されたい。
回答(質問3 について)
御指摘の「現状把握のための調査実施」及び「留学生施策の中での対応」については、その必要性も含め、今後検討してまいりたい。
質問4
二〇二三年六月末現在、日本には、中長期の在留資格がある三百二十二万の外国人が暮らしている。「在留資格別・性別・年齢層別在留外国人統計」に示すように、半数以上の百六十二万人が女性である。うち特定の活動のみ認められる「活動系」の在留資格の女性七十一万人の九割にあたる六十四万人は、国連の統計で生殖可能年齢に区分される十五歳から四十九歳である。さらにその内訳を在留資格別に見ると、「技能実習」の十五万人、「留学」の十四万人、「特定技能一号」の八万人は、ほとんどが生殖可能年齢である。「第五次男女共同参画基本計画」の第七分野「生涯を通じた健康支援」には施策の基本的方向として、いわゆる成育基本法に基づき妊産婦に対し必要な成育医療等を提供することが定められ、具体的な取り組みとして、女性健康支援センターなどにおいて、予定外の妊娠の悩みに対する支援を推進している。また、二〇一五年に国連で採択された持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)における目標三のターゲット3・7は「二〇三〇年までに、セクシュアル/リプロダクティブ/ヘルス・サービスへのあらゆる人々のアクセスを保障すること」、目標五のターゲット5・3は「セクシュアル/リプロダクティブ・ヘルス・ライツへの普遍的アクセスを確保する」を目標としている。これらの施策は、言うまでもなく、技能実習生や留学生も対象になるが、彼女たちが予定外の妊娠や孤立出産を防ぐために十分な対応はなされているのか。出入国在留管理庁が行っている「在留外国人に対する基礎調査」では、二〇二二(令和四)年度に「妊娠・出産についての困りごと」として、「費用が高い」に続いて、「学校や仕事がつづけられるか」と「相談できるところや人がいない」が「言葉が通じない」より上位の回答となっている。また、二〇二三(令和五)年度の同調査は、所属機関に対しても行われており「相談内容」として十九・三%が「妊娠・出産」を選択している。さらに「相談対応に必要だと感じること」として「妊娠・出産に関する知識」を選択した回答は、所属機関十八・二%、外国人十三・五%にのぼる。これらの調査から、妊娠・出産の相談は少なくないにもかかわらず、相談受け入れ体制が不十分であることがわかる。
以上を踏まえ、外国人に対する情報提供や受け入れ機関における教育や研修、さらに相談体制の改善策について見解を示されたい。
回答(質問4 について)
外国人及び御指摘の「受け入れ機関」等を含む関係者に対しては、出入国在留管理庁において、「生活・就労ガイドブック」や「外国人生活支援ポータルサイト」により多言語で情報を提供しており、技能実習生に対しては、同庁、厚生労働省及び機構において、技能実習生が妊娠、出産等した場合における法的保護、支援制度、相談先等を記載したリーフレットや技能実習生手帳を通じて多言語で情報を提供している。
お尋ねの「受け入れ機関における教育や研修」については、その意味するところが必ずしも明らかではないが、実習実施者が技能実習を行わせる事業所ごとに選任することとされている技能実習の実施に関する責任者、監理団体が監理事業を行う事業所ごとに選任することとされている監理責任者等については、外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律施行規則(平成二十八年法務省・厚生労働省令第三号)第十三条、第五十三条第二項等の規定に基づき、少なくとも三年ごとに、法務大臣及び厚生労働大臣が告示で定める講習を修了しなければならないこととされており、当該講習において、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)や労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)を含めた労働関係法令に関する科目を受講することとされている。
お尋ねの「相談体制の改善策」については、地方公共団体に対して外国人受入環境整備交付金を交付し、外国人や関係者に対し多言語で相談に対応する窓口の設置運営を支援するほか、通訳が必要な地方公共団体が電話による通訳を利用できるように措置するなど、外国人及びその関係者を対象とした相談体制の整備に取り組んでおり、政府としては、こうした取組を進めることが重要であると考えている。