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「経理的基礎」の審査基準と適合性審査に関する質問主意書

会派 立憲民主党
議案提出者 山崎誠
公式リンク 第213回国会 / 質問 答弁

核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「法」という。)第四十三条の三の六では、「原子力規制委員会は、前条第一項の許可の申請があつた場合においては、その申請が次の各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。」とし、第二号において、「その者に発電用原子炉を設置するために必要な技術的能力及び経理的基礎があること。」と定めている。

この「経理的基礎」の審査と審査基準について、福島第一原子力発電所事故の前と後(以下、「事故前」、「事故後」という。)での解釈に疑義があり質問する。

質問1

事故前の一九五八年十月二十九日、第三十回国会衆議院科学技術振興対策特別委員会において、科学技術庁原子力局長は、「経理的基礎と申しますのは、炉の設置に要する費用のみではないのでありまして、自後これを運転するための費用、あるいは将来−−これも近い将来と思いますが、必要になると思われる保険問題等に関する経理的な基礎というふうにお考えいただきたいと思います。」と答弁している。

この答弁での「経理的基礎」というのは、原子炉設置に掛かる費用だけではなく、つまり個別工事の資金の調達できるか否かだけではなく、運転等のランニングコスト、将来のトラブル事故あるいは損害賠償等に対応できる保険等を含めて財務基盤のあることとの理解で良いか。見解を問う。

回答(質問1 について)

 お尋ねの答弁(以下「本答弁」という。)における「経理的基礎」の意味するところについては、本答弁の文言のとおり理解しているところであるが、それ以上の詳細については、本答弁の趣旨を確認できる資料がないため、お答えすることは困難である。

質問2

事故前の一九九二年十一月十日、科学技術庁原子力局が発出した「日本原燃株式会社六ケ所再処理・廃棄物事業所における再処理の事業の指定について」の文書中、(3)法第四十四条の二第一項第三号(経理的基礎に係る部分に限る)において、

?法文規定:「その事業を適確に遂行するに足りる(技術的能力及び)経理的基礎があること。」

?関連する事業指定申請書等における記載項目

 ・事業計画書(添付書類二)

 ・使用済燃料の取得計画、再処理計画等

 ・工事に要する資金の額及びその調達計画

 ・事業開始後十年間にわたる年度毎の資金計画及び事業の収支見積り

?調査審議の主なポイント

 ・事業に必要とされる資金の取得計画が明確に策定されているか。

 ・事業に必要とされる資金の確保について、確かな見通しがあるか。

1 ?法文規定の「その事業を適確に遂行するに足りる経理的基礎」とは、事業を遂行する財務状況にあること、資金計画と収支見通しのあることとの理解で良いか。見解を示されたい。

2 ここでの「経理的基礎」は、「工事に要する資金の金額及び調達計画」だけではなく、事業計画及び「事業開始後十年間の年度毎の収支見積」等を申請書等に記載し、これを調査審議するとの理解で良いか。見解を示されたい。

3 「年度毎の資金計画及び事業の収支」とは、工事資金の調達だけではなく投資資金の回収までも含めた事業収支との理解で良いか。見解を示されたい。

4 調査審議ポイントとして「事業に必要とされる資金の取得計画及び確保の見通し」とある。これは「工事に要する資金調達」だけではなく、「事業に必要とされる資金」も調査審議するとの理解で良いか。見解を示されたい。

回答(質問2 の1及び2について)

 御指摘の「事業を遂行する財務状況にあること」、「資金計画と収支見通しのあること」及び「事業計画及び「事業開始後十年間の年度毎の収支見積」等を申請書等に記載し」の意味するところが必ずしも明らかではないが、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号。以下「法」という。)第四十四条の二第一項第三号に規定する「その事業を適確に遂行するに足りる経理的基礎」についての審査においては、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令(昭和三十二年政令第三百二十四号)第二十六条第二項及び使用済燃料の再処理の事業に関する規則(昭和四十六年総理府令第十号)第一条の二第二項の規定により、「工事に要する資金の額及びその調達計画」のほか、「再処理の事業の開始の日以後十年内の日を含む毎事業年度における資金計画及び事業の収支見積り」を記載した事業計画書を添付した、法第四十四条第二項に規定する再処理の事業の指定の申請書(以下「申請書」という。)を審査している。

回答(質問2 の3について)

 御指摘の「投資資金の回収までも含めた事業収支」の意味するところが必ずしも明らかではないが、御指摘の指定の審査においては、申請書に添付された事業計画書に記載された「再処理の事業の開始の日以後十年内の日を含む毎事業年度における資金計画」において、収入に関する事項として、自己資金等及び借入金のほか、売上げについて確認している。

回答(質問2 の4について)

 お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、御指摘の指定の審査においては、申請書に添付された事業計画書に記載された「再処理の事業の開始の日以後十年内の日を含む毎事業年度における資金計画」において、支出に関する事項として、建設工事費のほか、運転費、支払利息等及び借入金返済に要する費用について確認した上で、事業に必要な資金を確保できる見通しがあることを確認している。

質問3

事故後の二〇一八年十二月五日、第百九十七回国会質問第一二二号宮川議員の質問主意書における、「一 東京電力が資金支援を決めていないとすれば、一千七百四十億円に対する経理的基礎はないと理解するが、それで正しいか。それでも経理的基礎があると原子力規制委員会が判断する場合はその理由は何か。」という質問への答弁書によれば、「御指摘の「経理的基礎」についての審査は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号)第四十三条の三の八第二項において準用する同法第四十三条の三の六第一項第二号の規定に基づき、申請者がその申請内容に係る工事に要する資金を調達できる見込みがあるかどうかを確認し、経理的基礎に係る許可の基準の適合性を判断するものである。」とされている。

1 この「経理的基礎」の審査は、「個別工事の資金千七百四十億円の資金調達見込みの確認」のみを限定して審査許可基準にしているとの解釈で間違いないか。見解を示されたい。

2 千七百四十億円の工事期間が延びたり、追加工事があれば工事金額は増額される。増額されれば、増額分の資金調達を確認するとの理解でよいか。見解を示されたい。

回答(質問3 の1について)

 御指摘の平成二十六年五月二十日付けの日本原子力発電株式会社による発電用原子炉の設置変更許可に係る申請(以下「本件申請」という。)に対する審査においては、本件申請に係る工事に要する資金である御指摘の「千七百四十億円」についてのみ、法第四十三条の三の八第二項において準用する法第四十三条の三の六第一項第二号の規定に基づき、同社が調達できる見込みがあることを確認している。

回答(質問3 の2について)

 御指摘の「増額されれば、増額分の資金調達を確認する」の意味するところが必ずしも明らかではないが、法第四十三条の三の八第一項の規定に基づく許可(以下「設置変更許可」という。)においては、設置変更許可の時点において、申請者がその申請内容に係る工事に要する資金を調達できる見込みがあるかどうかを確認し、判断するものであり、また、工事に要する資金の額の変更は、それのみをもって、設置変更許可を受けなければならない事項には該当しない。

質問4

事故後の二〇一五年五月二十八日、第百八十九回国会衆議院原子力問題調査特別委員会での藤野議員の質問に対し、田中原子力規制委員会委員長は、「御指摘のように、新規制基準適合性に係る審査では、運転費用等に関する審査は行っておりません。原子炉を設置するために必要な経理的基礎があることを設置許可の要件とした趣旨は、原子炉の設置に多額の資金を要することに鑑み、そのための資金や調達能力を欠いた場合には原子炉の設置の基盤そのものを失うことになるということから、原子炉の設置に係る経理的基礎が重要であるという認識に立ったものと考えております。運転に当たってはこうした確認は必要ないだろうという判断であります。」と答弁している。

1 この答弁のいうところは、設置許可要件となる「経理的基礎」は、原子炉の設置には多額の資金を要して、資金の調達能力を欠けば設置の基盤を失うことになるので、運転費用等の審査をする。しかし、新規制基準適合性に係る千七百四十億円工事の「経理的基礎」の審査は、千七百四十億円の資金調達が可能かの審査しかしていないとの解釈で良いか。見解を示されたい。

2 「経理的基礎」の解釈が、事故前と事故後で変わったとすれば、正確には、いつの時点で、どのような手順で、誰が変えたのか。見解を問う。

3 先に示した、一九五八年十月二十九日衆議院科学技術振興対策特別委員会における科学技術庁原子力局長の答弁、すなわち「炉の設置に要する費用のみではないのでありまして、自後これを運転するための費用、あるいは将来−−これも近い将来と思いますが、必要になると思われる保険問題等に関する経理的な基礎」として示された広い意味での経理的基礎は、いつの時点で審査しなくて良いことになったのか。見解を問う。

4 原子力規制委員会は「工事の資金調達」だけを審査するが、広い意味の経理的基礎については、他の組織で審査しているのか。見解を問う。

回答(質問4 の1について)

 お尋ねの答弁は、設置変更許可の審査においては、御指摘の「運転費用等」に係る審査は行っておらず、申請者がその申請内容に係る工事に要する資金を調達できる見込みがあるかどうかを確認し、経理的基礎に係る許可の基準の適合性を判断するものである旨を述べたものである。

回答(質問4 の2について)

 法第四十三条の三の六第一項第二号(第四十三条の三の八第二項において準用する場合を含む。以下同じ。)に規定する「経理的基礎」の解釈については、東京電力株式会社の福島第一原子力発電所の事故の前後で変えていない。

回答(質問4 の3について)

 お尋ねの「広い意味での経理的基礎」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではなく、また、一についてで述べたとおり、本答弁における「経理的基礎」の意味するところについては、本答弁の文言のとおり理解しているところであるが、それ以上の詳細については、お答えすることは困難であるため、お尋ねにお答えすることは困難である。

回答(質問4 の4について)

 お尋ねの「広い意味の経理的基礎」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、法第四十三条の三の六第一項第二号に規定する「経理的基礎」について審査している原子力規制委員会以外の行政機関はない。

質問5

事故後、二〇一八年三月二十日、更田原子力規制委員会委員長は、記者会見において東海第二原発の審査に関し、「安全に係る規制当局としては、安全上の充分な投資ができない主体に対して、原子炉のような潜在的に大きなリスクを抱える施設の運用を認めることはできない」と発言している。また、「債務保証」について「ただ、債務保証については、そもそも日本原電の方から話があったことで、基本的にこちらから債務保証がなければと言っている状態ではないというのは御理解をいただきたいと思います」と述べている。

1 この「安全上の充分な投資ができない主体」とは、自己資金により投資、運用できない主体(事業者)ということで良いか。見解を示されたい。

2 債務保証について「基本的にこちらから債務保証がなければと言っている状態ではない」という更田委員長の発言を聞けば、規制委員会が主体的に経理的基礎を審査しようとしているのかはなはだ疑問である。そもそも原子力規制委員会には財務、会計等の専門家はいない。原子力規制委員会に経理的基礎を審査することは可能なのか。見解を示されたい。

回答(質問5 の1について)

 御指摘の「安全上の充分な投資ができない主体」については、自己資金によることに限らず、申請者がその申請内容に係る工事に要する資金を調達できる見込みがない場合を念頭に置いて述べたものである。

回答(質問5 の2について)

 御指摘の審査は、申請者がその申請内容に係る工事に要する資金を調達できる見込みがあるかどうかを、申請者における資金の調達実績や調達計画、自己資金の状況等から判断するものであり、原子力規制委員会がこれを行うことは可能であると考えている。

質問6

日本原子力発電株式会社(以下、「原電」という。)の「経理的基礎」について

1 原電の借入に東北電力株式会社の「債務保証」が必要なのは、原電が金融機関に提出した千七百四十億円の工事計画、投資と回収の事業計画、財務内容、収支を示す資金繰り計画は、信用できないと金融機関が評価している結果であるとの理解で良いか。政府の見解を示されたい。

2 事故前には、原電の資金調達の借入に東京電力株式会社(以下、「東電」という。)も「債務保証」をしている。債務保証もできない東電の前払費用金は経理的基礎の資金となりえるのか。政府の見解を示されたい。

3 計上されていない減価償却費用分を「前払費用」として、「調達資金」だとするのは、会計処理上のルールを無視したものではないか。政府の見解を問う。

回答(質問6 の1について)

 御指摘の「債務保証」は、民間企業の経営判断によるものであり、お尋ねについて政府としてお答えする立場にない。

回答(質問6 の2について)

 お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、本件申請に対する審査においては、申請者がその申請内容に係る工事に要する資金を自己資金及び借入金により確保することを確認しており、また、当該借入金の一部は、御指摘の「前払費用金」により確保することとしていると承知している。

回答(質問6 の3について)

 御指摘の「計上されていない減価償却費用分を「前払費用」として、「調達資金」だとする」の意味するところ及びお尋ねの趣旨が明らかではないため、お答えすることは困難であるが、一般論として、日本原子力発電株式会社は、電気事業会計規則(昭和四十年通商産業省令第五十七号)等の会計基準に基づき適切に会計処理を行う必要があるものと承知している。