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定額減税を六月ではなく年末調整で実施した場合の罰則に関する質問主意書

会派 立憲民主党
議案提出者 櫻井周
公式リンク 第213回国会 / 質問 答弁

二〇二四年六月から所得税および住民税の定額減税が執行される。定額減税の実務は源泉徴収事業者が負うことになるが、システム改修を含めて事務作業と費用の負担が大きくのしかかっている。一回限りの定額減税のためにどうしてこれほどまでに面倒な作業をやらねばならないのか、どうせ年末調整で納税額を調整するのだから六月に無理矢理やらなくてもよいではないか、と源泉徴収事業者の給与担当部門のスタッフから怨嗟の声があがっている。

二〇二四年四月二十六日の衆議院財務金融委員会での私の質問に対して、厚生労働省の増田嗣郎審議官は、「労働基準法第二十四条第一項におきまして、賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならないこととされ、その例外として、法令に別段の定めがある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができるとされているところでございます。この法令に別段の定めがある場合には、所得税法に基づく所得税の源泉徴収などが該当いたしますが、税法に基づき、六月の給与での源泉徴収から定額減税をしなければならないとされている労働者に関して、これを先送りして年末調整で定額減税をすることは、六月の賃金から税法に定められた本来の源泉徴収額より過大な税額を控除することになると考えられます。こうした過大な税額の控除につきましては、労働基準法第二十四条第一項の例外の要件である、法令に別段の定めがある場合に該当すると評価することはできないことから、同条違反になるものと考えられます。なお、労働基準法第二十四条第一項違反の罰則につきましては、同法第百二十条によりまして、三十万円以下の罰金と定められているところでございます」と答弁した。

一方で、二〇二四年五月二十八日の参議院財政金融委員会での小池晃委員の質問に対して、星屋和彦国税庁次長は「お尋ねの罰則の適用につきましては、個別具体的な判断になるものと考えてございますが、例えば、六月の給与明細書の交付時には対応が間に合わず定額減税額の記載がなされなかったような場合につきましては、基本的に罰則が適用されることはないと考えてございます」と答弁した。

以上の国会審議での政府の答弁を踏まえて、以下、質問する。

質問1

年末調整を行うことにより十二月の給与支払いの源泉徴収額が十一月までの源泉徴収額よりも少なくなる事象は多くの給与所得者が経験しているところである。このような事例の原因は十一月までの源泉徴収において過大な税額が控除されていることに起因すると考えられる。当該事象は労働基準法第二十四条第一項違反に該当するか。

回答(質問1 及び質問2 について)

 御指摘の「年末調整を行うことにより十二月の給与支払いの源泉徴収額が十一月までの源泉徴収額よりも少なくなる事象」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、仮に所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第百八十三条第一項に規定する給与等(以下「給与等」という。)の支払をする者が同法等の規定に基づき行う年末調整で、生命保険料控除、地震保険料控除又は住宅ローン控除(租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)第四十一条第一項に規定する住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除をいう。)を適用すること等により、その年最後に支払う給与等から徴収すべき所得税の額がその年中のそれ以前に支払う給与等からそれぞれ徴収すべき所得税の額より少ない金額となる事案についてのお尋ねであれば、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第二十四条第一項において、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」こととされ、同項ただし書において、「法令に別段の定めがある場合」は、「賃金の一部を控除して支払うことができる」こととされているところ、当該事案における所得税法に基づく所得税の御指摘の「十一月までの源泉徴収」については、当該「法令に別段の定めがある場合」の控除に該当するものと評価することができることから、同項に違反するものではない。

 一方、御指摘の「今般の定額減税の源泉徴収額の調整を年末調整で一括して行うこと」については、給与等の支払をする者が令和六年六月以後に支払われる給与等について定額減税による所得税額の控除を行わないことにより、御指摘のように「十一月までの源泉徴収において過大な税額が控除され」ることになり、当該「法令に別段の定めがある場合」の控除に該当するものと評価することができないことから、同項に違反するものと考えられる。

質問2

十一月までの源泉徴収において過大な税額が控除されていても、年末調整で過大な税額控除を調整することで労働基準法第二十四条第一項違反に該当しないのであれば、今般の定額減税の源泉徴収額の調整を年末調整で一括して行うことは労働基準法第二十四条第一項違反に該当しないと考えるが、政府の見解は如何に。

回答(質問1 及び質問2 について)

 御指摘の「年末調整を行うことにより十二月の給与支払いの源泉徴収額が十一月までの源泉徴収額よりも少なくなる事象」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、仮に所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第百八十三条第一項に規定する給与等(以下「給与等」という。)の支払をする者が同法等の規定に基づき行う年末調整で、生命保険料控除、地震保険料控除又は住宅ローン控除(租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)第四十一条第一項に規定する住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除をいう。)を適用すること等により、その年最後に支払う給与等から徴収すべき所得税の額がその年中のそれ以前に支払う給与等からそれぞれ徴収すべき所得税の額より少ない金額となる事案についてのお尋ねであれば、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第二十四条第一項において、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」こととされ、同項ただし書において、「法令に別段の定めがある場合」は、「賃金の一部を控除して支払うことができる」こととされているところ、当該事案における所得税法に基づく所得税の御指摘の「十一月までの源泉徴収」については、当該「法令に別段の定めがある場合」の控除に該当するものと評価することができることから、同項に違反するものではない。

 一方、御指摘の「今般の定額減税の源泉徴収額の調整を年末調整で一括して行うこと」については、給与等の支払をする者が令和六年六月以後に支払われる給与等について定額減税による所得税額の控除を行わないことにより、御指摘のように「十一月までの源泉徴収において過大な税額が控除され」ることになり、当該「法令に別段の定めがある場合」の控除に該当するものと評価することができないことから、同項に違反するものと考えられる。

質問3

フリーランスは二〇二五年二月から三月にかけて実施される確定申告を経てようやく定額減税の恩恵を受けられる。定額減税の恩恵が年末調整になったとしてもフリーランスよりも早いことから著しい不利益とはいえず、したがって労働基準法第二十四条第一項違反に該当しないと考えるが、政府の見解は如何に。

回答(質問3 について)

 お尋ねの「定額減税の恩恵が年末調整になったとしてもフリーランスよりも早いことから著しい不利益とはいえず、したがって労働基準法第二十四条第一項違反に該当しない」の趣旨が明らかではないため、お答えすることは困難であるが、いずれにせよ、御指摘のように「定額減税の恩恵が年末調整になった」場合に労働基準法第二十四条第一項違反に該当することについては、一及び二についてでお答えしたとおりである。

質問4

定額減税に関連して、所得税法第二百三十一条違反による所得税法第二百四十二条の罰則の適用を免除するなら、労働基準法第百二十条の罰則の適用も免除することを提案するが、政府の見解は如何に。

回答(質問4 について)

 御指摘の「罰則の適用」の「免除」の具体的に意味するところが明らかではないため、お尋ねにお答えすることは困難であるが、いずれにせよ、今般の定額減税に関し、労働基準法第百二十条に規定する罰則を適用することについては、令和六年五月二十九日の記者会見において、林内閣官房長官が「労働基準法におきましては、法令に別段の定めがある場合を除き、賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならないというふうにされておりまして、税法に基づき、六月の給与で、源泉徴収から定額減税をしなければならないとされている労働者に対して、これを行わない場合は、労働基準法に違反し得るものと考えられます。ただし、一般論ですが、企業に労働基準関係法令違反が認められた場合、労働基準監督機関においては、まずはその企業に対して是正指導を行うことによって、企業による自主的改善を図るということになっておりまして、直ちに罰則が適用されるものではなくて、違反の態様等に応じて個別に判断されるものと承知をしております」と述べたとおりである。