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有明海及び八代海等を再生するための特別措置に関する法律第二十二条第一項の発動等に関する質問主意書

会派 立憲民主党
議案提出者 原口一博
公式リンク 第213回国会 / 質問 答弁

令和五年十一月九日に提出した第二百十二回国会の質問主意書第二三号において、「有明海及び八代海等を再生するための特別措置に関する法律」(平成十四年法律第百二十号。以下「有明特措法」という。)第二十二条第一項の発動等について質問を行った。これに対する政府の答弁等を踏まえ、以下、質問する。

質問1

佐賀県議会が令和五年三月十日付けで内閣総理大臣、農林水産大臣等に提出した「有明海再生に係る諸問題について解決を図るよう求める意見書」においては、「タイラギについても十一年目の休漁となり、他の二枚貝も採れない状況が続いており、有明海再生に至っていない」とされている。一方、同月二日の農林水産大臣談話「有明海の再生を願う皆様へ」(以下「農林水産大臣談話」という。)においては、有明海の水産資源の回復の兆しが見られる旨の発言がなされている。この発言に至った根拠等について、政府は、一部の漁場における漁業者からの声、アサリの浮遊幼生やタイラギの着底稚貝の増加等によるものと説明している。

1 これに関連して、アサリ、タイラギ等で漁業者の経営が成り立つためには、幼生や稚貝が成貝に育ち、一定の漁獲、販売ができるようになる必要があることから、二枚貝類の成長等に係る今後の見通しについて質問を行った。この質問に対して、政府は、有明海及び八代海等を取り巻く社会経済情勢等も大きく変化しており、また、気候変動に伴う気温や水温の上昇、豪雨やそれに伴う大規模出水等による影響も顕在化している状況であることから、現時点において具体的な見通しを示すことは困難であるが、有明海・八代海等総合調査評価委員会の平成二十九年三月の報告における「有明海・八代海等の海域全体に係る再生目標」(以下「再生目標」という。)等を踏まえ、アサリ、タイラギ等の資源回復に向けた取組を進めていると答弁している。

 再生目標においては、?稀有な生態系、生物多様性及び水質浄化機能の保全・回復、?二枚貝等の生息環境の保全・回復と持続的な水産資源の確保が掲げられており、これらの目標は、独立しているものではなく、共に達成されるべきものとされている。また、目標時期を令和八年度とし、目標達成に向けた再生方策を関係省庁等で実施することとされている。特に再生目標の?の「二枚貝等の生息環境の保全・回復と持続的な水産資源の確保」について、漁業者が一定の漁獲等を行えるよう、幼生や稚貝が成貝に育つことまで、当然に含まれているものと考えるが、政府の認識を明らかにされたい。

2 また、1で述べた政府の説明のように、二枚貝類の成長等に係る今後の見通しについて、現時点において具体的な見通しを示すことが困難であるとすれば、一部の漁場における声や二枚貝の稚貝の増加等を根拠に、有明海の水産資源の回復の兆しが見られるとした農林水産大臣談話は、経営状況のひっ迫や休漁に苦しむ佐賀県の漁業者等を蔑ろにするものであり、極めて不適切である。これらを踏まえて、有明海における水産資源の回復の進捗状況について、改めて政府の認識を明らかにされたい。

回答(質問1 の1について)

 御指摘の「再生目標の?」及び「漁業者が一定の漁獲等を行えるよう」の意味するところが必ずしも明らかではないが、有明海及び八代海等を再生するための特別措置に関する法律(平成十四年法律第百二十号。以下「法」という。)第二十四条に基づき設置された有明海・八代海等総合調査評価委員会の平成二十九年三月の報告において「有明海・八代海等の海域全体に係る再生目標(全体目標)」として、「有明海、八代海等を水産資源の宝庫として後世に引き継ぐためには、海域環境の特性を踏まえた上で、底生生物の生息環境を保全・再生し、二枚貝等の生産性の回復をはじめとする底生生態系の再生を図り、ノリ養殖、二枚貝及び魚類等(養殖を含む)の多種多様な水産資源等の持続的・安定的な確保を図る」こととされており、御指摘の「幼生や稚貝が成貝に育つことまで」含まれるものと認識している。

回答(質問1 の2について)

 御指摘の「これら」の意味するところが必ずしも明らかではないが、お尋ねの「水産資源の回復の進捗状況」に関し、例えば、アサリについては、農林水産省が有明海沿岸各県に委託して実施した令和四年度秋季の浮遊幼生の調査の結果を、先の答弁書(令和五年四月十八日内閣衆質二一一第四九号)一についてでお答えしたところであるが、令和五年度春季の同調査の結果によれば、浮遊幼生は、対前年度比で約一・七倍の約三万四千個体となり、春季の浮遊幼生の調査を開始した平成二十八年度以降最多となったと承知している。

 なお、「有明海の再生を願う皆様へ」(令和五年三月二日農林水産大臣談話)において述べているとおり、「有明海の水産資源については、沿岸の漁業団体から、一部の漁場で水産資源の回復の兆しが見られるとの声が寄せられて」いるところ、「道半ばにある回復の兆しを持続へと発展させ、一刻も早く、国民的資産である有明海を豊かな海として再生させるとともに、未来の成長へとつなげるため、全力を挙げて」まいりたい。

質問2

「赤潮等による漁業被害者の救済」について規定している有明特措法第二十二条第一項に関連して、政府は、「赤潮等による漁業被害等に係る支援等」について規定している同法第二十一条第一項において「漁業被害」とされ、同法第二十二条第一項において「著しい漁業被害」とされていることから、同項の「著しい漁業被害」は同法第二十一条第一項の「漁業被害」よりも漁業者に対する被害がより深刻なものを指していると解し、「被害が複数県に及ぶなど広域的かつ被害額が甚大である」ことを同法第二十二条第一項の発動要件としてきたと説明している。一方、政府は、同項に係る運用細則等は定めておらず、特定の漁業被害が同項に規定する「著しい漁業被害」に該当するか否かについては、法の趣旨にのっとり、当該漁業被害の状況を踏まえて個別具体的に判断するものであることから、当該発動要件に該当すると判断する際の基準となる具体的な数字、金額及び根拠等は設けていないと説明している。また、平成二十三年の法改正により同法第二十二条第一項の努力義務に係る規定が加えられて以降、政府として同項の規定を適用するような状況は生じていないと考えていることから、同項の規定の運用を見直す予定はないと説明している。

しかし、同項に規定する「著しい漁業被害」に該当するか否かについて、漁業被害の状況を踏まえて個別具体的に判断するものであるとすれば、「被害が複数県に及ぶなど広域的」な場合に限ることは適切ではなく、単一の県や一部地域において甚大かつ深刻な被害が発生したような場合についても、それこそ法の趣旨にのっとり、「著しい漁業被害」に該当し得るものとして同項の発動を検討すべきである。政府による「被害が複数県に及ぶなど広域的かつ被害額が甚大である」という発動要件のうち、漁業者に対する被害がより深刻であるということから当然に導き出されるのは「被害額が甚大」という要件だけであり、「被害が複数県に及ぶなど広域的」という要件は政府が恣意的に付加したものではないか。

政府が「被害が複数県に及ぶなど広域的」という要件が必要であるとする理由を法の趣旨から明らかにされたい。明らかにできないのであれば、同法第二十二条第一項の発動要件について、広域的な場合に限らない方向で見直すべきであり、併せて、当該発動要件に該当すると判断する際の基準となる具体的な数字、金額及び根拠等、同項の規定の運用について、透明性のあるものにすべきだと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

回答(質問2 について)

 有明海及び八代海等は、海域の閉鎖性が高く、広範な海域にわたる赤潮の発生のおそれが高いという特性を有するところ、法第二十一条第一項において「漁業被害」とされ、法第二十二条第一項において「著しい漁業被害」とされていることからすれば、同項に規定する「著しい漁業被害」は、法第二十一条第一項に規定する「漁業被害」よりも漁業者に対する被害がより深刻なものを指していると解されることから、政府としては、「被害が複数県に及ぶなど広域的かつ被害額が甚大である」ことを法第二十二条第一項の「発動要件」としているものであり、「「被害が複数県に及ぶなど広域的」という要件は政府が恣意的に付加したもの」との御指摘は当たらない。