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新NISAの導入による影響に関する質問主意書

会派 立憲民主党
議案提出者 井坂信彦
公式リンク 第213回国会 / 質問 答弁

令和四年五月に、岸田首相は「資産所得倍増計画」を発表した。その中でも特に注目されていた新NISA(少額投資非課税制度)の運用が令和六年から始まった。若い世代からの注目を集め、低額を長期に運用しようとする若者が増えており、株価は過去最高値を更新した。投資意欲は向上し、国民の金融リテラシーが向上するなど、一定の成果が期待される。

一方で中高年者にとっては、税制優遇は受けられるものの、長期に複利による運用で受けられる恩恵が享受できないのではないかと、新NISAへの投資を躊躇している者もいる。また投資という性質上、そもそも資産がある者を対象にした政策であり、年金生活者や貧困層にとっては恩恵を享受できないという課題がある。更には、資産形成を優遇する代わりに社会保障が切り捨てられるのではないかという心配すらある。

芸能人やインフルエンサーから、国が推している制度には何か裏があるのではないかと疑う声が挙がっている。確かに、新NISAとiDeCo(個人型確定拠出年金)の拡充だけでは政府の掲げる「資産所得倍増」を実現するのに半世紀もかかることが、野村総合研究所などで試算されている。政府はこうした不安を払拭する必要があり、以下、政府の見解を伺う。

質問1

投資に税制優遇をすることで国民の資産形成を助ける代わりに、社会保障を削減するのではないかという懸念が国民の中にある。投資による資産形成がうまくいかなかった時こそ、社会保障による救済が充実していなければならない。「新NISAによる資産形成の支援をした代わりに、年金をはじめとした社会保障を削減することは無い」と宣言をして、将来不安を無くすべきと考えるが、政府の見解を伺う。

回答(質問1 について)

 社会保障改革の方向性に関する政府の考え方については、令和六年三月十五日の参議院予算委員会において、岸田内閣総理大臣が「全ての国民がその能力に応じて負担し、そして支え合う、それぞれの人生のステージに応じて必要な保障がバランスよく提供される、こうした全世代型社会保障の構築に向けて我が国は取組を進めていかなければならない」と答弁しているとおりであり、お尋ねのように「新NISAによる資産形成の支援をした代わりに、年金をはじめとした社会保障を削減すること」は検討していない。

質問2

そもそも投資に回す資産を持っていないと、新NISAやiDeCoを有効活用できない。実質賃金が下がり続けている中では、一定以上の所得がある者にばかり有利な制度となってしまう。給与所得や年金を引き上げるなど、投資資金を増やす取組について、政府の見解を伺う。

回答(質問2 について)

 お尋ねの「投資資金を増やす取組」に関し、「給与所得」を「引き上げる」取組については、令和五年十月二十四日の衆議院本会議において、岸田内閣総理大臣が「成長と分配の好循環が回っていく、物価上昇を上回る持続的で構造的な賃上げが行われる、こうした経済を目指してまいります。・・・賃上げ税制の強化などの措置を講ずるとともに、三位一体の労働市場改革、中小企業の省力化投資など、生産性を引き上げる構造的な改革や賃上げ費用の価格転嫁対策、これらを進めてまいります」と答弁しているとおりであり、政府としては、これらの取組を引き続き進めていく考えである。また、国民一人一人が今後の資産形成に取り組むことができるよう、適切な金融サービスの利用等に資する金融又は経済に関する知識を習得し、これを活用する能力の育成を図るための教授及び指導(以下「金融経済教育」という。)を推進するための取組を進めている。

 また、お尋ねの「年金」を「引き上げる」取組については、公的年金制度は、厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)第一条及び国民年金法(昭和三十四年法律第百四十一号)第一条の規定により、「労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与すること」及び「老齢、障害又は死亡によつて国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によつて防止し、もつて健全な国民生活の維持及び向上に寄与すること」を目的としており、お尋ねの「投資資金を増やす」ことを目的とした取組は検討していない。

質問3

政府は資産所得倍増プランを打ち出したが、新NISAとiDeCoの拡充以外に目新しい施策は見られない。中高年向けの施策や、低所得者にも効果がある、資産所得倍増の次の一手について検討が進んでいるのか、政府の見解を伺う。

回答(質問3 について)

 政府としては、御指摘の「資産所得倍増プラン」を推進する上では、国民一人一人が、それぞれの年齢や所得等を踏まえ、安定的に資産形成に取り組むことができるよう、金融経済教育を推進するための取組を進めることが重要であると考えており、金融経済教育を官民一体となって提供するために令和六年四月に設立された金融経済教育推進機構を支援していくなど、政府として、必要な施策を講じてまいりたい。

質問4

若者が現在の生活を切り詰めてでも資産形成に取り組む背景には、将来不安がある。若者が希望を持てる将来像を明示して、無理な資産形成を進めるだけでなく、消費や自己投資にも資金が回るようにすべきと考えるが、政府の見解を伺う。

回答(質問4 について)

 お尋ねの「将来像」に関しては、政府としては、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画二〇二三改訂版」(令和五年六月十六日閣議決定。以下「実行計画」という。)において、「新しい資本主義を貫く基本的な思想」として「国民の暮らしを改善し、課題解決を通じて一人ひとりの国民の持続的な幸福を実現すること」を挙げており、実行計画に記載された取組を進めているところである。

 その上で、御指摘の「無理な資産形成」の意味するところが必ずしも明らかではないが、国民の安定的な資産形成に向けては、それぞれの人生設計に合った金融サービスを適切に選択することや、貯蓄と投資のバランスに留意して投資については余剰資金で行うこと等の観点を含め、金融経済教育を推進するための取組を進めてまいりたいと考えている。

質問5

投資を促進するムードが過剰になると、よりリスクの高い金融商品や、身の丈に合わない投資が推奨されるおそれがある。消費者保護の観点から、金融リテラシーの向上が求められるが、金融教育、経済教育について政府の取組を伺う。

回答(質問5 について)

 お尋ねについては、金融庁職員を学校等に講師として派遣し、投資に関するトラブルの事例や対応方法等に関する教育を提供している。また、消費者保護の観点も含め、広範な金融経済教育を官民一体となって提供する金融経済教育推進機構の業務の開始に向けた支援も実施している。

質問6

政府が資産所得倍増プランということで投資を推奨すると、便乗した投資詐欺が増加すると想定される。実際に警察庁では、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺に対して特に注意喚起している。具体的に投資詐欺に対する取組はどのように進めるか、政府の見解を伺う。

回答(質問6 について)

 お尋ねについては、政府として、広報啓発活動や国民が投資詐欺の被害に遭わないような環境整備を推進するとともに、犯罪者の検挙を推進する観点から、総合的な対策を講ずるべく、令和六年六月を目途にその内容の具体化に向けた検討を行っているところである。

質問7

芸能人やインフルエンサーによる、「政府の制度には裏がある」という発信に対して、政府が明確なメッセージを発していると感じられない。政治の信頼低下に対して反省するとともに、正しい情報を随時提供する必要があると考えるが、政府の取組を伺う。

回答(質問7 について)

 お尋ねの「政治の信頼低下」の意味するところが必ずしも明らかではないが、いずれにせよ、政府においては、政府広報や金融庁ウェブサイト等の様々な媒体を通じて、非課税口座(租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)第三十七条の十四第五項第一号に規定する非課税口座をいう。)内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置(いわゆる「NISA」)に関する情報を随時提供している。