食料・農業・農村基本法の見直しに係る政府の基本的認識に関する質問主意書
令和五年十一月九日に提出した第二百十二回国会の質問主意書第二一号において、農地及び農業者関係並びに基本計画及び食料自給率目標関係について質問を行った。これに対する政府の答弁等を踏まえ、以下、質問する。
質問1
農地及び農業者関係
1 我が国の農地面積がピーク時の昭和三十六年から三割減少していることに関連して、政府は、荒廃農地が発生する主な要因として、「高齢化、病気」や「労働力不足」により適切な農業生産活動を行うことが困難となっていることが挙げられると説明している。また、非農業用途等への転用が発生する原因として、例えば、民間企業が住宅や工場を建設する場合に土地の価格等の観点から農地が選好されやすいことが考えられると説明している。このような状況等を踏まえ、政府としては農地の維持・確保のためにどのような対策を講じようとしているのか明らかにされたい。
2 現行の食料・農業・農村基本計画(以下「基本計画」という。)の参考資料「農地の見通しと確保」において、令和十二年時点で確保される農地を四百十四万ヘクタールとしていることの妥当性について、政府は、農地面積が減少すると推計している一方、耕地利用率が平成三十年の九十二パーセントから令和十二年に百四パーセントへと、約十二ポイント上昇すると見込んでいることを前提に、基本計画において令和十二年度の食料自給率の目標として定めている四十五パーセントを達成することは可能であり、妥当な農地面積であると説明している。しかし、耕地利用率について毎年平均で約一ポイントの上昇が見込まれているにもかかわらず、令和四年の耕地利用率は、平成三十年より上昇するどころか、逆に〇・三ポイント低下している。このように耕地利用率が見込み通りに上昇していない実態を踏まえると、基本計画における食料自給率目標を達成するためには、農地面積の方を四百十四万ヘクタールよりも多く確保する必要があると考えるが、政府の認識を明らかにされたい。
3 令和三年度に実施された相続未登記農地等実態調査(以下「相続未登記実態調査」という。)の結果において所有者不明農地等(相続未登記農地及び相続未登記のおそれのある農地)は百二万九千百一ヘクタールで、農地面積の約二割であることについて、政府は、そのほとんどは相続人等により利用又は管理が続けられており、遊休農地はそのうちの五万七千六百二十九ヘクタールに留まっていると説明している。しかし、相続未登記実態調査は、近年、農地について相続が発生しても登記名義人が変更されず、権利関係が不明確となるケースが多くなっており、農地の集積・集約化を進める上で阻害要因となっているとの指摘を受けて実施されたものである。その趣旨を踏まえれば、遊休農地が六万ヘクタール弱に留まるとしても、相続未登記農地等の解消は重要な課題である。当該調査で相続未登記農地等とされた農地のうち、これまでに適正に相続登記がなされた農地面積の実績について明らかにされたい。また、政府は、平成三十年の農業経営基盤強化促進法等の一部改正以降、所有者不明農地の農地中間管理機構への貸付実績が令和四年度末までに百六十八ヘクタールとなっていることから、相続未登記農地等の有効利用につながっていると説明している。しかし、この面積は相続未登記実態調査での所有者不明農地等の面積と比べて極めて微小である。全農地面積の約二割が所有者不明農地等という深刻な状況を改善するためには、抜本的な対策の見直しが必要であると考えるが、政府の認識を明らかにされたい。
4 これまでの農政が規模拡大推進一辺倒であるとの指摘に関連し、政府は、経営規模の大小や家族経営・法人経営の別にかかわらず、意欲的に農業経営に取り組もうとする農業の担い手を幅広く育成・確保するとともに、農業の担い手に対する農地の利用集積を推進してきた結果、多くの品目で、農業の担い手が農業生産の相当部分を担う農業構造を実現してきていると説明している。しかし、政府は、令和五年度までに全農地の八割を担い手に集積するという目標を掲げているところ、令和四年度の農地集積率の実績は六割にも届いておらず、目標の達成は絶望的である。このような状況を踏まえて、これまでの農地及び農業者に係る施策の問題点を真摯に分析すべきだと考えるが、改めて政府の認識を明らかにされたい。
5 多様な農業人材に係る基本法の規定の在り方について、政府は、検討を進めている現時点で答える段階にはないと説明している。その後、令和五年十二月二十七日に開催された食料安定供給・農林水産業基盤強化本部において、「食料・農業・農村基本法の改正の方向性について」が決定され、その中で「生産基盤の確保に向けた担い手の育成・確保とそれ以外の多様な農業人材の役割の明確化」が掲げられている。家族経営、中小規模の経営体、農業を副業的に営む経営体の位置付けと農地の集積・集約化の関係の整理について、答申以降の検討内容を明らかにした上で、基本法において関係する条文をどのように規定することを検討しているのか、改めて明らかにされたい。
回答(質問1 の1について)
お尋ねの「農地の維持・確保」のための対策については、荒廃農地(現に耕作に供されておらず、耕作の放棄により荒廃し、通常の農作業では作物の栽培が客観的に不可能となっている農地をいう。以下同じ。)の発生に関しては、農業経営基盤強化促進法(昭和五十五年法律第六十五号)第六条第一項に規定する基本構想を定めている市町村で令和七年三月までに定めるものとされている同法第十九条第一項に規定する地域計画(以下「地域計画」という。)において、その区域において農業を担う者ごとに利用する農用地等(同法第四条第一項に規定する「農用地等」をいう。以下同じ。)を地図に表示し、これを特定した上で、農地中間管理事業の推進に関する法律(平成二十五年法律第百一号)第十七条第二項の規定に基づき、当該区域において農地中間管理事業(同法第二条第三項に規定する農地中間管理事業をいう。以下同じ。)を重点的に行い、農業の担い手への農地の集積・集約化を図ることにより、荒廃農地の発生を抑制していく考えである。また、農地転用に関しては、令和五年十二月二十七日に食料安定供給・農林水産業基盤強化本部で取りまとめた「「食料・農業・農村政策の新たな展開方向」に基づく具体的な施策の内容」において、「将来にわたっての農地の総量確保と適正・有効利用のための措置を強化する」として「令和六年の通常国会への改正法提出も視野」に、「地域計画内農地の転用規制強化の観点から、地域計画内農地の農用地区域への編入を促進する」等の施策の具体化の方向性について定めたところである。
回答(質問1 の2について)
御指摘の「参考資料「農地の見通しと確保」において、令和十二年時点で確保される農地を四百十四万ヘクタールとしていること」は、食料・農業・農村基本法(平成十一年法律第百六号。以下「基本法」という。)に基づく食料・農業・農村基本計画(以下「基本計画」という。)において定められている食料自給率の目標を前提としているところ、基本法については、令和五年十二月二十七日に食料安定供給・農林水産業基盤強化本部で取りまとめた「食料・農業・農村基本法の改正の方向性について」(以下「改正の方向性」という。)に基づき、現在、その一部を改正する法律案の今国会への提出に向けて必要な検討を進めていることを踏まえると、農地面積の見通しについても、基本法の改正の内容を踏まえた次期の基本計画の策定過程の中で同時に見直すことが適当であると考えており、現時点でお答えすることは差し控えたい。
回答(質問1 の3について)
お尋ねの「適正に相続登記がなされた農地面積」の意味するところが必ずしも明らかではないが、政府としては、令和三年度に農林水産省が実施した「相続未登記農地等の実態調査」において把握した「相続未登記農地」及び「相続未登記のおそれのある農地」(以下「相続未登記農地等」という。)について、その後相続未登記農地等に該当しなくなった面積は把握していない。
また、御指摘の「抜本的な対策の見直し」の意味するところが必ずしも明らかではないが、政府としては、農地法(昭和二十七年法律第二百二十九号)第四十一条及び農地中間管理事業の推進に関する法律第二十二条の二から第二十二条の五までの規定に基づく相続未登記農地等に対する農地中間管理権(同法第二条第五項に規定する農地中間管理権をいう。)の設定がより円滑に実施されるよう必要な措置を講じ、相続未登記農地等の有効利用を促進していくことに加え、民法等の一部を改正する法律(令和三年法律第二十四号)による改正後の不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第七十六条の二の規定により令和六年四月一日から義務化される相続登記の申請について、その周知及び適正な運用の確保を行うことにより、相続未登記農地等の発生防止を図る考えである。
回答(質問1 の4について)
御指摘の「これまでの農地及び農業者に係る施策」が具体的にどの施策を指すのか必ずしも明らかではないが、これまでの農業の担い手への農地集積については、相対の農地の貸借によるものが中心となっており、このため、一般的に、農地の分散錯圃が解消されず、農業の担い手に使い勝手の良い形での農地集積が図られないことが、農業の担い手への農地集積が進まない要因となっていた。
このため、地域計画において、その区域において農業を担う者ごとに利用する農用地等を地図に表示し、これを特定した上で、農地中間管理事業の推進に関する法律第十七条第二項の規定に基づき、当該区域において農地中間管理事業を重点的に行うことにより、相対の農地の貸借ではなく、農地中間管理機構との貸借の活用による農業の担い手への農地の集積・集約化を進めていくこととしている。
回答(質問1 の5について)
お尋ねの「家族経営、中小規模の経営体、農業を副業的に営む経営体の位置付けと農地の集積・集約化の関係の整理」の「答申以降の検討内容」については、令和五年九月十一日の食料・農業・農村政策審議会の答申において、「離農する経営の農地の受け皿となる経営体や付加価値向上を目指す経営体の役割が重要であることを踏まえ、これらの者への農地の集積・集約化を進める」及び「農業を副業的に営む経営体など多様な農業人材が一定の役割を果たすことも踏まえ、これらの者が農地の保全・管理を適正に行う」とされたこと等を踏まえ、改正の方向性において、「効率的かつ安定的な農業経営の育成・確保を引き続き図りつつ、農地の確保に向けて、担い手とともに地域の農業生産活動を行う、担い手以外の多様な農業人材を位置付ける」としたところである。御指摘の「多様な農業人材に係る」基本法の規定の具体的な在り方については、改正の方向性における当該記載を踏まえ、現在検討を進めているところであり、現時点でお答えする段階にない。
質問2
基本計画及び食料自給率目標関係
1 食生活の多様化に対する評価について、政府は、「どのような食生活を営むかは、消費者の自由な選択に委ねられるべきものであり、政府としてお答えする立場にない」と説明している。食料自給率の向上及び国内農業の存続のためには、米などの安全な国産農産物の消費が必要であり、これを政府が推奨する必要があると考えるが、政府の認識を明らかにされたい。
2 食料自給率の向上及び国産農産物の消費の拡大のためには消費者の役割が重要であるが、「食料・農業・農村基本法の改正の方向性について」においては、「食料安全保障の確保に向け、食料の価格形成に当たっては、農業者、食品事業者、消費者といった関係者の相互理解と連携の下に、農業生産等に係る合理的な費用や環境負荷低減のコストなど、「食料の持続的な供給に要する合理的な費用」が考慮されるようにしなければならないことを明確化する」とあり、食品の価格形成の観点から消費者について言及している。食料の持続的な供給が不可能となった場合に最も困るのは消費者であり、食料の持続的な供給に要する合理的な費用を考慮した食料の価格形成は、農業者のみならず消費者の利益にかなうものである。他方で、令和三年以降、食品の相次ぐ値上げにより、家計の圧迫に苦しむ経済的弱者も存在する。様々な経済状況の国民が存在する中で、食料消費に係る施策の政府の基本的認識を明らかにするとともに、基本法において消費者に関係する条文をどのように規定することを検討しているのか、明らかにされたい。
3 食料自給率目標が達成されないことの要因として、政府は、「例えば、自給率の高い米穀の国内における需要が年々減少する中で、海外からの輸入に依存している飼料の利用により生産された畜産物の消費が増大していることが要因」と説明している。食料自給率の向上のためには、米の需要拡大、国内需要のある農産物の生産の増大、飼料自給率の向上に向けた施策の展開が必要である。平成十二年策定の基本計画においては、米について「需要動向に即した計画的な生産を図ることを基本として、米と麦、大豆、飼料作物等を組み合わせた収益性の高い安定した水田農業経営の展開、生産規模拡大等による低コスト化、多様なニーズに対応した生産・流通体制の確立等の取組を一層進めることが課題」、飼料作物については「転作田等における飼料作物の作付けの拡大、低・未利用地の活用、生産技術の向上や優良品種の導入等による生産性の向上(生産コストの三割程度の低減)及び品質の向上、飼料生産受託組織の活用による生産の組織化・外部化(飼料生産受託組織による受託面積の三倍程度の拡大)、我が国の土地条件及び自然条件に適応した日本型放牧の普及等の取組を通じ、自給飼料生産の大幅な増大を図ることが課題」としており、こうした課題は、現状の課題と共通するものである。米及び飼料作物に係る課題が二十年以上解決されてこなかった要因をどう分析しているのか明らかにされたい。
4 二十年以上前から示されていた課題が解決されず、食料自給率が向上しなかったのは、累次の基本計画における課題の設定及び施策が間違っていたといえる。食料自給率の向上のためには、基本計画における適切な目標と課題の設定のみならず、食料・農業・農村政策において農業者、食品事業者、消費者等の相互理解及び連携・協力に国が積極的な役割を果たすための枠組みが必要だと考えるが、基本法において関係する条文をどのように規定することを検討しているのか、明らかにされたい。
回答(質問2 の1について)
御指摘の「国産農産物の消費」の推奨については、政府としては、令和二年三月三十一日に変更された基本計画において、「ライフスタイルの変化等により、国民が普段の食生活を通じて農業・農村を意識する機会が減少しつつあることから、できるだけ多くの国民が、我が国の食料・農業・農村の持つ役割や食料自給率向上の意義を理解する機会を持ち、自らの課題として将来を考え、それぞれの立場から主体的に支え合う行動を引き出していくことが重要である」という考え方の下、「消費者や食品関連事業者に積極的に国産農産物を選択してもらえるよう、農林漁業体験、農泊、都市農業、地産地消などの取組間の連携強化により消費者と農業者・食品関連事業者との交流を進め、消費者が日本の食や農を知り、触れる機会の拡大を図る」等としているところである。
回答(質問2 の2について)
御指摘の「食料消費に係る施策」の意味するところが必ずしも明らかではないが、政府としては、改正の方向性において、「円滑な食品のアクセスの確保に関する施策も新たに位置付け」及び「食料の価格形成に当たっては、農業者、食品事業者、消費者といった関係者の相互理解と連携の下に、農業生産等に係る合理的な費用や環境負荷低減のコストなど、「食料の持続的な供給に要する合理的な費用」が考慮されるようにしなければならないことを明確化する。その上で、食料の持続的な供給の必要性に対する国民理解の増進や、関係者による食料の持続的な供給に要する合理的な費用の明確化の促進、消費者の役割として持続的な食料供給に寄与することなどを明確化する」とした上で、このための具体的な施策としては、「円滑な食料の入手のための環境整備」、「持続的な食料供給に要する費用を考慮した価格形成の推進」等を挙げているところである。
また、お尋ねの「基本法において消費者に関係する条文をどのように規定することを検討しているのか」については、改正の方向性におけるこれらの記載を踏まえ、基本法の規定の具体的な在り方について現在検討を進めているところであり、現時点でお答えする段階にない。
回答(質問2 の3について)
御指摘の「二十年以上解決されてこなかった」の意味するところが必ずしも明らかではないが、平成十二年三月二十四日に策定された基本計画(以下「平成十二年基本計画」という。)等に基づき、食料自給率目標の達成に向けて様々な施策を講じてきたところであり、御指摘の平成十二年基本計画に記載した「米及び飼料作物に係る課題」に関しても、平成十二年基本計画が策定された平成十二年当時と比べ、主食用米から麦・大豆等といった需要があり、かつ、海外からの輸入に依存している作物への転換等により、麦・大豆等の国内生産量が増加し、国内の飼料生産を受託する組織数が増加した等の一定の成果を上げてきていると考えているが、国内における主食用米の需要が年々減少をする中で、当該減少による主食用米の作付面積の減少分と比較して麦・大豆等の作付面積の増加分が十分でないこと、我が国の畜産業において、一戸当たりの飼養頭羽数が増加してきた中で飼料作物の増産のために必要な労働力を確保することが困難な畜産農家が多いこと等から、更なる取組が必要と認識しており、引き続き必要な施策を講じてまいりたい。
回答(質問2 の4について)
御指摘の「食料・農業・農村政策において農業者、食品事業者、消費者等の相互理解及び連携・協力に国が積極的な役割を果たすための枠組み」の意味するところが必ずしも明らかではないが、いずれにしても、基本法の規定の具体的な在り方については、改正の方向性を踏まえ、現在検討を進めているところであり、現時点でお答えする段階にない。